徳川日本の刑法と秩序
価格:6,930円 (消費税:630円)
ISBN978-4-8158-0980-5 C3032
奥付の初版発行年月:2020年02月 / 発売日:2020年03月中旬
江戸の裁きにおいて、罰せられるべき者はいかにして決まったのか。具体的な判例から江戸期固有の法理を探り出し、西洋法を規範とする刑法理解を塗り替えるとともに、幕政を基礎づけた統治原則をも浮き彫りにする。今日に及ぶ日本人の法観念への新たな理解を開く力作。
本書は、徳川幕府刑法、とくに「公事方御定書」制定以後の刑政を中心として、その判例法理を分析し、その基礎をなす刑事責任の本質を明らかにせんとするものである。
徳川幕府刑法は、裁判に際して準拠すべき法源として、判例を重視していた。石井良助氏によれば、そもそも徳川幕府法は中世以来の武家法の系譜に連なり、慣習法をその基盤としていたため、律令のごとき体系的な法典を制定することはなかった。したがって、とくに「公事方御定書」制定以前の裁判実務においては、単行法令と先例とが重要な役割を果たしたのである。
もっとも、徳川幕府初期にあっては、判例に基づく裁判も認められていなかった。将軍秀忠は、町奉行を勤めていた島田弾正忠が、自身の扱った裁判例を編集し、後の奉行の参考にしたいと願い出たのに対し、奉行各自の常識的判断を鈍らすという理由から却下したと伝えられている。この逸話からは、裁判にあたっては各奉行がその能力……
[「序章」冒頭より/注は省略]
代田 清嗣(シロタ セイシ)
1989年 静岡県に生まれる
2012年 名古屋大学法学部卒業
2017年 名古屋大学大学院法学研究科博士後期課程修了
現 在 名城大学法学部准教授、博士(法学)
目次
凡例
序 章 徳川幕府刑法の形成
1 徳川幕府における判例法
2 判例法理の形成
3 判例法理の研究動向
4 本書の目的と構成
第I部 犯罪行為とその責任
はじめに――刑事責任の捉え方
第1章 身分責任としての不念
――過失と不作為を包含するもの
1 公事方御定書成立以前
2 公事方御定書成立以後
3 不念の用法と身分責任
第2章 怪我とはなにか
――望まぬ結果についての責任
1 公事方御定書成立以前
2 公事方御定書成立以後
3 怪我と不念との関係
4 怪我とあやまちとの関係
おわりに――不念・怪我が映し出す近世の刑事責任
第II部 集団と個人の責任
――共犯の諸問題
はじめに――共犯の研究史
第3章 首と従としての頭取と同類
1 頭取と同類の関係
2 御定書に規定ある頭取・同類
3 御定書に規定なき頭取・同類
4 頭取不明の場合の取扱いと強訴・徒党の特性
5 頭取・同類と律の共犯規定
6 頭取・同類の用法
第4章 頭取のいない共犯関係
――「共同正犯的処分方式」の再検討
1 頭取の不存在
2 同類全員が実行行為を共同した場合
3 同類の一部が実行行為以外の加功をなした場合
4 盗における頭取なき同類の特殊性
5 頭取なき同類の用法
第5章 下手人は誰か
――人殺の特殊性と共犯
1 共犯処罰と下手人
2 御定書の規定による場合
3 御定書の規定によらない場合
4 人殺における共犯処罰の特徴
おわりに――共犯処罰に映る刑事責任
第III部 問われる被害者
はじめに――なぜ被害者が問われるのか
第6章 人殺と被害者の身分責任
1 御仕置御免願と刑責の減免
2 被害者の行為と刑責の減免
3 被害者の身分と刑責の減免
4 正当防衛「的」法理の正体
第7章 盗・巧事と被害者のあるべき姿
1 盗の被害と財物の保管
2 かたり事・ねたり事における油断
3 謀書・謀判における被害者の不念
4 財産的損害を伴う犯罪と被害者の責任
第8章 密通と男女のあるべき姿
1 被害者たる女性の責任
2 被害者たる夫の責任
3 密通処罰と被害者の責任
おわりに――被害者という身分
終 章 近世から近代へ
――固有法理とそのゆくえ
1 刑事責任の本質――本書の結論
2 近代法への転換と刑事責任観
註
あとがき
主要参考文献
索引