言論と経営 戦後フランス社会における「知識人の雑誌」
価格:5,940円 (消費税:540円)
ISBN978-4-8158-1022-1 C3036
奥付の初版発行年月:2021年03月 / 発売日:2021年04月中旬
メディア企業の生き方とは――。言論によって民主主義に奉仕すると同時に、私企業として資本主義のなかで動くジャーナリズム。戦後フランスに生まれ、サルトルはじめ知識人を結集する一方、市場で稀有な成功を収めたニューズマガジンの歴史を、変容する社会とともに捉え、その思想と身体を見つめた俊英の力作。
『ル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』と言論誌の存続
言論誌の存続はいかにして可能だったのか。
一九六四年一一月一九日、ジャン・ダニエルとクロード・ペルドリエルによって『ル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール(Le Nouvel Observateur)』(以下、媒体を『N.O.』、発行元をN.O.社と略記)が創刊された。表紙は、一ヶ月ほどほど前にノーベル文学賞の受賞を拒否したばかりの哲学者ジャン=ポール・サルトルが飾った。しかし、紙は粗悪で、単色刷り、ページ数は少なく、広告はほとんどなかった。二〇一四年、創刊五〇年の節目に、同誌は愛称を用いて『ロプス(L'Obs)』というタイトルに変わったが、その光沢がかったカラー写真の表紙をみると隔世の感がある。
『N.O.』は、フランスの代表的なニューズマガジンであり、今日に至るまで広汎な影響力を有してきた。直訳すると「新しい観察者」というタイトルをもつこの週刊の雑誌は、知識人を集結させながら言論空間を形成し、社会・政治・文化の諸面において重要な役割を果たしてきたのである。その一方で、『N.O.』は一九九五年以降、二〇年以上にわたってニューズマガジン部門で国内最大販売部数を維持するなど経営的にも成功を収めてきた。同誌は多くの読者を獲得してきた言論誌なのである。しかしながら、これまで『N.O.』に関する知識は断片的かつ散在的で、まとまった記述をみることがなかった。本書の課題は、『N.O.』の歴史を可能なかぎり実証的かつ総合的に描きながら、この雑誌がいかにして言論誌であろうとしたのかを明らかにすることである。
しかし、一体、どのように『N.O.』の考察を進めていくとよいのだろうか。その手がかりとなるのは、きわめて長……
[「はじめに」冒頭より/注は省略]
中村 督(ナカムラ タダシ)
1981年生まれ。2012年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学。フランス社会科学高等研究院博士課程修了。現在、南山大学国際教養学部准教授、博士(歴史学)。著訳書、『はじめて学ぶフランスの歴史と文化』(共著、ミネルヴァ書房、2020年)、『新しく学ぶフランス史』(共著、ミネルヴァ書房、2019年)、P.ロザンヴァロン『良き統治――大統領制化する民主主義』(共訳、みすず書房、2020年)、K.ロス『もっと速く、もっときれいに――脱植民地化とフランス文化の再編成』(共訳、人文書院、2019年)
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
凡例
はじめに
第I部 ニューズマガジンの誕生(一九六四~七二年)
第1章 言論誌による倫理の探求
――『フランス・オプセルヴァトゥール』について
1 一九六三年の冬、一九六四年の秋
2 廃刊の諸原因
3 ジャーナリズムの市場
第2章 『ル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』の創刊
1 『レクスプレス』の変化――ニューズマガジンの誕生
2 『ル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』創刊の基礎的条件
3 メディア企業の自立という問い――政治的自立と経済的自立
第3章 言論誌の再定義
1 「日常生活の政治化」と新たなジャーナリズム
2 収益構造の変化
3 六八年五月を超えて――言論誌とニューズマガジンのあいだで
第II部 『ル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』の成功(一九七二~八一年)
第4章 フランス社会の変容とジャーナリズム
1 社会運動への政治参加
2 プレス企業としての成長
3 ニューズマガジンの市場拡大
第5章 組織としてのル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール
――ネットワークの拡大
1 『ル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』の読者と知識人
2 『ル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』の政治的・文化的影響
3 プレス企業と政党の関係
第6章 統御されない成功
1 多角的経営の試み
2 新聞の創刊――『ル・マタン・ド・パリ』について
3 変調の予兆
第III部 危機と発展(一九八一~九五年)
第7章 危機の時代
1 『ル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』の動揺
2 『ル・マタン・ド・パリ』の栄光と挫折
3 財政危機の諸要因
第8章 政治的・経済的自立の再設定
1 編集部門の再組織化
2 危機についての考察
3 危機の克服
第9章 メディア企業の特質
1 編集の変化と一貫性
2 『ル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』の事業展開
3 不動の地位
おわりに
あとがき
初出について
注
参考文献
図表一覧
略語一覧
索引