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開かれた研究・組織・社会のために不定性からみた科学

不定性からみた科学 開かれた研究・組織・社会のために

A5判 326ページ 上製
価格:4,950円 (消費税:450円)
ISBN978-4-8158-1025-2 C3040
奥付の初版発行年月:2021年05月 / 発売日:2021年05月中旬

内容紹介

科学には「モヤモヤ」がつきまとう、されど――。不確実性・偶然性・規範性などさまざまな形をとり、研究から組織・評価・大学・社会・未来まであらゆる次元に現れる不定性。これら避けがたいものと向きあい、科学のリアルを捉え直すことで、知と未知への態度を鍛える二一世紀の学問論。

前書きなど

この世界はわからないことだらけである。無知の知という言葉もあるように、わからないということを知ることは大事だ。ただ、科学や技術の進歩と、それによる人類の活動の広がりによって、わからないことはずいぶん少なくなったように思える。地球が大亀の上に乗っているのではないことを知っているし、その地球上に見つかっていない大陸や島はなく、人類に創造主はいないとも考えている。だが、地球はどのようにできたのか、人類はどのように誕生したのか、ということについてはまだわからないことも多い。

しかし、そもそもわかるというのはどういうことだろう。私たちは地球が丸いということや、人がサルから進化したということは、知識として知っている。ただ、頭では理解しているが、腑に落ちないこともある。宇宙や生物、DNAから素粒子まで、その構造や働きを知れば知るほど、ふだんの生活で用いる知識とかけ離れているために、それらがなぜ、どのように自分という存在につながっているのかについては相変わらずわからないのである。それどころか、地球温暖化や遺伝子操作、人工知能の発展など、私たちが知っていたこの世界を変えた結果として、自分や人類そのものがどうなっていってしまうのかという不安すらよぎる。知れば知るほどわからないことが増えるというだけではなく、知ること自体によってわからないことが増えていってしまっている。これはいったい、どういうことなのだろう。

何かを知り、わかるためには、個人の経験を通じて納得するばかりでなく、その知識を他人とわかちあい、それに基づいて判断することが必要である。地域や時代を越えて知識を共有する一つの手段は、学問である。「学問」という漢語は、易経「文言伝」に由来し、「学もってこれを聚(あつ)め、問もってこれを辯(わか)ち、寛もってこれに居り、仁もってこれを行なう」、すなわち、学ぶことによって徳を身につけ、問うことによって是非を弁別し、寛容な心で思いやりを……

[「はじめに」冒頭より/注は省略]

著者プロフィール

吉澤 剛(ヨシザワ ゴウ)

1974年、川崎市に生まれる。1999年、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。2008年、サセックス大学科学政策研究ユニット(SPRU)博士課程修了。2009年、東京大学公共政策大学院特任講師。2012年、大阪大学大学院医学系研究科准教授。2018年、オスロ都市大学労働研究所リサーチフェロー(EUマリー・キュリーフェロー)。現在、関西学院大学イノベーション・システム研究センター客員研究員、東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員、PhD(科学技術政策)。著書、『科学者に委ねてはいけないこと――科学から「生」をとりもどす』(共著、岩波書店、2013年)、『生命科学とバイオセキュリティ――デュアルユース・ジレンマとその対応』(共著、東信堂、2013年)、『科学の不定性と社会――現代の科学リテラシー』(共著、信山社、2017年)

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はじめに

第1章 科学
1.1 存在
1.2 知覚
1.3 意味づけ
1.4 科学的推論
1.5 解釈
1.6 人文・社会科学

第2章 研究
2.1 対象への接近
2.2 セレンディピティ
2.3 操作
2.4 研究者と対象との相互作用
2.5 研究者の規範
2.6 知識の形態と不定性

第3章 組織
3.1 研究の組織化と科学の巨大化
3.2 組織としての研究実践
3.3 知識と科学の変容
3.4 学会における文脈の不定性
3.5 学会の社会的責任
3.6 学会を越えて

第4章 評価
4.1 論文の評価とその問題
4.2 再現性の危機
4.3 公正な研究と評価
4.4 新たな研究評価に向けて
4.5 科学の戦い
4.6 2位じゃダメだったんでしょうか

第5章 大学
5.1 大学における知識
5.2 大学研究者の現状
5.3 知識移転
5.4 大学の社会的責任
5.5 大学と社会をつなぐ

第6章 社会
6.1 役に立つ学問?
6.2 科学の目的指向性
6.3 知識利用
6.4 アセスメント
6.5 アドボカシー
6.6 知識交流
6.7 責任ある研究・イノベーション
6.8 共同責任とガバナンス

第7章 世界
7.1 開かれた世界における学問
7.2 科学とイノベーションのオープン化
7.3 市民と科学
7.4 ローカルナレッジと身体知
7.5 研究者の人としての責任
7.6 学問に関与する市民の責任
7.7 デジタル化とグローバル化の罠

第8章 未来
8.1 未来研究の歴史
8.2 ダークサイエンス
8.3 知識コミュニケーション
8.4 「しま」から見えるもの
8.5 学問と未来のためのアートとデザイン

第9章 知識の不定性
9.1 不定性のまとめ
9.2 未知への態度
9.3 冒険する学問


あとがき
索引


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