世界の発光生物 分類・生態・発光メカニズム
価格:5,940円 (消費税:540円)
ISBN978-4-8158-1057-3 C3045
奥付の初版発行年月:2022年02月 / 発売日:2022年03月上旬
発光バクテリアからツキヨタケ、ホタル、そしてチョウチンアンコウなどの脊椎動物まで――。現在知られているすべての発光生物について、第一人者が分子生物学的知見を含めて紹介。光る生き物たちを通して見える世界と、そこに至る進化の道筋を描き出す。
発光生物と聞いて、誰しもが頭にまず思い浮かべるのは、まちがいなくホタルであろう。ホタルは、私たちが目にする機会のあるもっとも有名でおそらく唯一の発光生物にちがいない。これは、日本の河川や水田に見られるゲンジボタルLuciola cruciata(口絵14)やヘイケボタルAquatica lateralisに限ったことではなく、外国にいても、例えば北米のちょっとした草むらには夏になるとPhotinus属のホタルが飛び交い、ちょうど日本の子供たちが蚊帳に放って遊んだように、アメリカの少年少女もガラス瓶に集めたホタルをベッドの枕元に置いて楽しむ習慣が今もある。しかし、そのホタルも最近はどこでもすっかり減ってしまい、都市に暮らす人々はよほど遠出をしなければその光る姿を見ることができない。
ホタル以外の発光生物となると、名前は知っていてもその発光する様子を見たことのある人はほとんどないと言ってよいだろう。ホタルイカWatasenia scintillans(口絵7)やサクラエビLucensosergia lucens(後掲図20-11、口絵11)は、料理となってお皿に乗って運ばれてきたときにはもはや光っていない。そもそも、サクラエビが発光生物だということを知っている人はほとんどいない。深海に棲むチョウチンアンコウ類(チョウチンアンコウ亜目Ceratioidei)は、名前だけは有名だが、それが発光している姿はよほどの専門家でもまず見ることはない(実は筆者もまだ見たことがない)。こうした深海の生き物には発光種が多いが、基本的に捕獲が難しく、運よく捕えられたとしても、水圧と温度変化のせいで私たちが目にするときにはたいがいもう死んでいるから、もはや光ることはない。
しかし、私たちの多くが知らないだけで、実にさまざまな発光生物が世界各地から発見されている。ニュージーランド北島の小川だけにすむ世界唯一の淡水性発光貝ラチアLatia neritoides(後掲図15-5、口絵5)。タイからシンガポールにたった一種だけが知られている光るカタツムリのヒカリマイマイQuantula ……
[「はじめに」冒頭より]
大場 裕一(オオバ ユウイチ)
1970年 札幌市に生まれる
1994年 北海道大学大学院理学研究科化学専攻修士課程修了
1997年 総合研究大学院大学大学院生命科学研究科博士課程修了
名古屋大学大学院生命農学研究科助教などを経て
現 在 中部大学応用生物学部教授、博士(理学)
著 書 『ホタルの光は、なぞだらけ』(くもん出版、2013)
『光る生きものはなぜ光る?』(文一総合出版、2015)
『恐竜はホタルを見たか』(岩波書店、2016)
『光る生き物の科学』(日本評論社、2021)他
目次
はじめに
序 章 発光生物の基本事項
A. 発光生物とは
B. 発光生物の内訳
C. 発光の役割(生物学的意義)
D. 発光の様式
E. 発光反応メカニズム
第1章 細菌
第2章 渦鞭毛虫門
第3章 レタリア門
第4章 ケルコゾア門
第5章 陸上植物
第6章 菌類
第7章 海綿動物門
第8章 有櫛動物門
第9章 刺胞動物門
A. ヒドロ虫綱
B. 鉢虫綱
C. 花虫綱
第10章 毛顎動物門
第11章 外肛動物門
第12章 紐形動物門
第13章 環形動物門
A. 多毛類
B. 貧毛類
第14章 軟体動物門1:二枚貝綱
第15章 軟体動物門2:腹足綱
A. 吸腔目
B. 裸鰓目
C. 水棲目
D. マイマイ目
第16章 軟体動物門3:頭足綱
A. 十腕形上目
B. 八腕形上目
第17章 線形動物門
第18章 節足動物門1:鋏角亜門
第19章 節足動物門2:多足亜門
A. ムカデ綱
B. ヤスデ綱
第20章 節足動物門3:甲殻亜門
A. 橈脚類
B. 貝形虫綱1:ウミホタル目
C. 貝形虫綱2:ハロキプリダ目
D. 軟甲綱1:ロフォガスター目
E. 軟甲綱2:端脚目
F. 軟甲綱3:オキアミ目
G. 軟甲綱4:十脚目
第21章 節足動物門4:六脚亜門
A. トビムシ目
B. 双翅目
C. 鞘翅目
第22章 棘皮動物門
A. ヒトデ綱
B. ウミユリ綱
C. ナマコ綱
D. クモヒトデ綱
第23章 半索動物門
第24章 脊索動物門1:尾索動物亜門
A. ホヤ綱
B. タリア綱
C. オタマボヤ綱
第25章 脊索動物門2:脊索動物亜門 軟骨魚綱
第26章 脊索動物門3:脊索動物亜門 条鰭綱
A. ソコギス目
B. ウナギ目
C. ニシン目
D. ニギス目
E. ワニトカゲギス目
F. ヒメ目
G. ハダカイワシ目
H. タラ目
I. ガマアンコウ目
J. アンコウ目
K. キンメダイ目
L. スズキ目
終 章 発光生物の進化と私たち四足動物
注
参考文献
あとがきにかえて――発光生物学の未来
図版一覧
事項索引
和名索引
学名索引
英文目次
トピックス
淡水の発光バクテリア
発光バクテリアは無害なのか?
生物発光の利用者
光るクモ?
ルシファーの名を持つユメエビは発光するのか
ホタル科の多様な発光器
ホタルの発光パターン
ホタルと白夜と皆既日食
ファム・ファタール
世界のホタル
化石の中のホタル
ルーズジョーの赤い発光器
チョウチンアンコウ亜目のエスカと発光バクテリア
ヒカリキンメダイ科の特殊な共生発光
コラム 日本の発光生物
発光バクテリア
ヤコウチュウ
シイノトモシビタケ
クロエリシリス
ホタルミミズ
ホタルイカ
ウミホタル
ゲンジボタル
マツカサウオ