転向者・小川未明 「日本児童文学の父」の影
価格:8,800円 (消費税:800円)
ISBN978-4-8329-6864-6 C3095
奥付の初版発行年月:2020年12月 / 発売日:2021年03月上旬
「日本児童文学の父」と称される小川未明。これまでは大正期に執筆されたロマンチシズム童話の研究が中心であった。本書では、大正期以外の童話や、漢詩・口語自由詩・小説・評論・随筆など多岐にわたる作品と実人生を分析。明治・大正・昭和という三代を生き、社会主義・国家主義・民主主義思想と転向を繰り返した近代文人の横顔を照射する。
増井 真琴(マスイ マコト)
1987年 茨城県に生まれる
2008年 法政大学文学部哲学科中退
2015年 東洋大学文学部(通信教育課程)卒業
2019年 北海道大学大学院文学研究科博士後期課程早期修了。博士(文学)
現在 日本学術振興会特別研究員(PD)
目次
凡 例
序 論 本書の課題――大正童話中心主義を超える
1、小川未明研究史の現状と課題
2、本書の目的と方法
3、本書の特色と意義
4、本書の構成と概要
第Ⅰ部 詩 業――漢詩と口語自由詩
第1章 漢 詩――高田中学時代の五言絶句・七言絶句
はじめに
1、血肉化する漢籍――少年期の漢詩・漢文受容
2、雑誌『中学世界』への投書――漢詩六篇
3、飯田庄八宛書簡(1)――漢詩四篇
4、飯田庄八宛書簡(2)――漢詩四篇
5、未明漢詩の技巧と思想――押韻・平仄・出典/赤・鳥・月・南北対比
6、日本近代漢詩史上の位置――明治期漢詩ブームの外縁
小 括
第2章 口語自由詩――詩集『あの山越えて』
はじめに
1、詩集『あの山越えて』――書誌・同時代評・背景
2、テキストの異同――初出(初収)と詩集の間
3、「淋しい暮方の歌」――冬の叙景詩
4、日本近代詩史上の位置――口語自由詩運動の傍系
小 括
第Ⅱ部 社会主義――アナキズムと共産主義
第3章 ユートピアンの夢――童話「時計のない村」
はじめに
1、革命待望――1921(大正10)年1月前後の未明
2、日本社会主義同盟の創建――アナボル未分化の大同団結
3、童話「時計のない村」――標準時と近代時間秩序の編成
4、変奏される時計童話――近代否定・前近代肯定の反復
5、未明の童話観――童話という夢
小 括
補 節 輝ける大正童話――その芸術的美点と成立背景
第4章 反テクノロジーという基層――小説「血の車輪」
はじめに
1、マルクス主義への共鳴――1922(大正11)年10月前後の未明
2、小説「血の車輪」――民衆を轢殺する「1362」
3、同時代の汽車・鉄道表象――人間を襲撃する「魔物」
4、他作家との比較――萩原朔太郎・宮沢賢治・夏目漱石
小 括
第5章 革命的知識人の挫折――「童話作家宣言」
はじめに
1、未明の知識人批判――二つの視点
2、小説における展開・破綻――孤独な知識人像
3、「童話作家宣言」解釈史の陥穽――未明=アナキスト図式の誤り
4、知識人と革命――大正期「知識人論」の流行
小 括
第Ⅲ部 国家主義――転向と国策協力
第6章 転向者の軌跡――階級闘争から八紘一宇へ
はじめに
1、社会主義の影響
2、「ブルジョアを脅威せよ!」――階級闘争の鼓吹
3、国家主義の影響
4、「アジア共同体が真理なのであります」――聖戦のプロパガンダ
5、日本近代転向史上の位置(1)――日中戦争を契機とした完全同調
小 括
第7章 満洲事変下の後退――童話「青空の下の原つぱ」
はじめに
1、社会主義思想の持続――柳条湖事件から塘沽停戦協定まで
2、童話「青空の下の原つぱ」――残留する階級意識
3、転向の萌芽――日中戦争への道行き
4、文学者と満洲事変――プロレタリア文学運動の敗北
小 括
第8章 国民精神総動員運動への傾倒――童話「僕も戦争に行くんだ」
はじめに
1、高揚するナショナリズム――1937(昭和12)年10月前後の未明
2、童話「僕も戦争に行くんだ」――国民精神総動員運動下の転向
3、雑誌『お話の木』の児童表象――理想的愛国少年の造形
4、文学者と日中戦争――迫りくる総翼賛体制のただ中で
小 括
第9章 日本少国民文化協会への結集――童話「頸輪」
はじめに
1、「児童読物改善ニ関スル指示要綱」から日本少国民文化協会設立まで
2、日本少国民文化協会での発言・行動――打倒米英の扇動
3、童話「頸輪」――アジアを統べる母
4、文学者と大東亜戦争――「大東亜共栄圏」構想の魔力
小 括
第Ⅳ部 戦後民主主義――再転向と晩年
第10章 再転向者の軌跡――反戦・民主主義への旋回
はじめに
1、戦後民主主義の影響
2、「戦争が悪いのだ!」――反省なき反戦
3、日本近代転向史上の位置(2)――社会的制裁を免れた新生リベラル
小 括
第11章 反転するイデオロギー――童話「兄の声」
はじめに
1、海鷲と陸鷲――1944(昭和19)年の国策協力童話
2、童話「兄の声」――空疎な遺言
3、秘匿された聖戦賛美――8・15後の未明
4、文学者と敗戦――「大日本帝国」の崩壊
小 括
第12章 老いゆきてなお国士――童話「ふく助人形の話」
はじめに
1、警世する老国士――最後の10年間
2、童話「ふく助人形の話」――世直しの文学
3、知識人と民族――竹内好「国民文学論争」の興隆
4、童話伝統批判――少国民世代による告発
小 括
結 論 本書の成果――三代を生きた文人
1、詩 業――明治詩人としての未明
2、社会主義――革命的知識人としての未明
3、国家主義――転向者としての未明
4、戦後民主主義――再転向者としての未明
5、小川未明の転向とは何だったのか――表層と深層の二重構造
初出一覧
あとがき
図表一覧
作品名・紙誌名索引
人名索引