野蛮と啓蒙 経済思想史からの接近
価格:7,260円 (消費税:660円)
ISBN978-4-87698-478-7 C3030
奥付の初版発行年月:2014年03月 / 発売日:2014年04月上旬
社会に文明化をもたらすはずの啓蒙という知性の働きは、なおも野蛮や暴力に直面し、克服できないのが現実である。経済学は人権の思想を体系化するとともに、平和で安全で豊かな生活を実現するという課題にどのように取り組んできたのか。こうした問題をテーマに、さまざまな時代・地域における経済学の成果をこの一冊にまとめあげる。
田中 秀夫(タナカ ヒデオ)
愛知学院大学経済学部教授,京都大学名誉教授。
研究テーマ:スコットランド啓蒙,共和主義,経済学の形成
主要業績:著書『スコットランド啓蒙思想史研究』名古屋大学出版会,1991年。『文明社会と公共精神』昭和堂,1996年。『共和主義と啓蒙』ミネルヴァ書房,1998年。『啓蒙と改革―ジョン・ミラー研究』名古屋大学出版会,1999年。『アメリカ啓蒙の群像』名古屋大学出版会,2012年。『近代社会とは何か』京都大学学術出版会,2013年。『啓蒙の射程と思想家の旅』未来社,2013年,その他。
編著:The Rise of Political Economy in the Scottish Enlightenment, eds. by Sakamoto and Tanaka, Routledge, 2003.『啓蒙のエピステーメーと経済学の生誕』京都大学学術出版会,2008年。『啓蒙と社会―文明観の変容』京都大学学術出版会,2011年,その他。
翻訳:ハーシュマン『方法としての自己破壊』法政大学出版局,2004年。H・T・ディキンスン『自由と所有』昭和堂,2006年。J・G・A・ポーコック『マキァヴェリアン・モーメント』名古屋大学出版会2008年。L・ロビンズ『一経済学者の自伝』ミネルヴァ書房,2009年。I・ホント『貿易の嫉妬』昭和堂,2009年。ハチスン『道徳哲学序説』京都大学学術出版会,2009年。ヒューム『政治論集』京都大学学術出版会,2010年。D・フォーブズ『ヒュームの哲学的政治学』昭和堂,2011年。シュナイウィンド『自律の創成―近代道徳哲学史』法政大学出版局,2011年,その他。
目次
序 説 野蛮と啓蒙―思想史から学ぶもの[田中秀夫]
復活する野蛮
「野蛮と啓蒙」という主題
経済学とは何か
本書の概要
第Ⅰ部 ヨーロッパの初期啓蒙
第一章 バロック期スペインから啓蒙へ―服従と抵抗[松森奈津子]
第一節 スペイン啓蒙とその前史
第二節 抵抗、暴君放伐、革命―抵抗権の歴史的展開
第三節 サラマンカ学派とその周辺―消極的抵抗から積極的抵抗へ
第四節 抵抗から革命へ―啓蒙思想への影響
第二章 マリアナの貨幣論―貨幣を操作する暴君は王にあらず[村井明彦]
第一節 研究史と議論のコンテクスト
第二節 マリアナの生涯と思想の概要
第三節 マリアナの貨幣論―貨幣・国家・自由
第四節 オーストリア学派と「大陸経済学」
第三章 一七世紀イングランドのトレイド論争―オランダへの嫉妬、憧れ、警戒[伊藤誠一郎]
第一節 歴史のなかのオランダとイングランド
第二節 ジョン・キーマー
第三節 大空位期
第四節 王政復古期
第五節 利子論争後
おわりに
第四章 重商主義にみる野蛮と啓蒙―「帝国」の政治経済学[生越利昭]
はじめに
第一節 近代的所有権の確立と自由な経済活動の解放
第二節 植民帝国における野蛮と啓蒙
第三節 重商主義的経済論における野蛮と啓蒙
おわりに
第五章 スコットランドの文明化と野蛮―平定から啓蒙へ[田中秀夫]
第一節 スコットランドの野蛮とジェイムズ六世
第二節 ジャコバイトは高貴か
第三節 文明化と啓蒙
第四節 宗教問題
第五節 貧困問題
第六節 啓蒙・社交・知識人
第Ⅱ部 盛期啓蒙―大ブリテン
第六章 D・ロッホのスコットランド産業振興論にみる無知と啓蒙[関源太郎]
第一節 スコットランドの経済発展とロッホ
第二節 ロッホの経済環境認識
第三節 亜麻織物製造業への反対論
第四節 毛織物製造業の推奨
おわりに―無知と啓蒙
第七章 オークニー諸島の野蛮と啓蒙―改良と抵抗のはざまで[古家弘幸]
はじめに
第一節 パンドラー訴訟の背景―ユニオン体制下の市場経済の拡張と地域の伝統
第二節 パンドラー訴訟をめぐる抗争と一八世紀のオークニー諸島
第三節 パンドラー訴訟をめぐる論戦―ジェイムズ・マッケンジーとトマス・ヘップバーン
おわりに―パンドラー訴訟とスコットランドにおける「啓蒙」
第八章 アダム・スミスの文明社会論―啓蒙と野蛮の諸相[渡辺恵一]
はじめに
第一節 初期スミスの思想形成―オックスフォード留学の残影
第二節 文明社会の自然史―富裕の「自然的順序」と「逆行的順序」
第三節 近代文明社会の富裕化と不平等=支配の拡大
おわりに 287
第九章 ジョセフ・プリーストリと後期イングランド啓蒙―奴隷制[松本哲人]
第一節 野蛮としての奴隷制と啓蒙
第二節 イングランドにおける奴隷制と奴隷制廃止運動
第三節 奴隷制擁護論―キリスト教と所有権
第四節 スミスの奴隷制批判―経済的合理性の観点から
第五節 プリーストリの奴隷制批判―人道的見解と経済的見解
おわりに―啓蒙における奴隷制批判の意義
第Ⅲ部 盛期啓蒙―フランス
第一〇章 J・F・ムロンの商業社会論―啓蒙の経済学[米田昇平]
はじめに
第一節 商業の精神と進歩の観念
第二節 勤労・産業活動、就労人口
第三節 奢侈
おわりに―啓蒙と野蛮
第一一章 ムロンとドラマール―一八世紀前半フランスのポリスと商業[谷田利文]
はじめに
第一節 アンシァン・レジームにおけるポリス
第二節 ムロンの生涯と著作
第三節 ムロンにおける自由と商業
第四節 ムロンにおける立法者とポリス
第五節 ドラマールとムロンとの差異―奢侈と穀物
おわりに
第一二章 モンテスキューと野蛮化する共和国像―共和主義的「文明」理解の盛衰をめぐって[上野大樹]
第一節 共和国から文明社会へ
第二節 共和国への懐疑―モンテスキューと古典的政治学の脱構築
第三節 統治と商業
おわりに―文明批判としての共和主義の成立
第一三章 テュルゴとスミスにおける未開と文明―社会の平等と不平等[野原慎司]
はじめに
第一節 テュルゴの啓蒙のプロジェクトの神学的背景
第二節 旅行記におけるアメリカの「未開人」の平等と文明の不平等
第三節 テュルゴにおける文明の不平等の擁護と未開
第四章 スミスにおける未開社会の平等
おわりに
第一四章 ルソー焚書事件とプロテスタント銀行家―焚書と啓蒙[喜多見洋]
第一節 焚書事件とは
第二節 『社会契約論』および『エミール』の焚書事件
第三節 ロガンとその親族
第四節 『植物学についての手紙』とプロテスタント銀行家の家族たち
第五節 社会的ネットワーク
おわりに
第Ⅳ部 啓蒙の終焉と継承
第一五章 ランゲと近代社会批判―永遠の奴隷制と野蛮[大津真作]
はじめに
第一節 社会の誕生と奴隷制
第二節 文明社会の新たな奴隷制
第三節 黒人奴隷制批判―テュルゴとスミス
おわりに―文明社会の新たなる奴隷制をめぐるランゲとマルクス
第一六章 クリスティアン・ガルヴェの貧困論―文明化のなかの貧困と人間[大塚雄太]
はじめに
第一節 『貧民研究』から『貧困論』へ
第二節 歴史と貧困
第三節 貧困の諸形態と貧困の人間学
おわりに
第一七章 ペイン的ラディカリズム対バーク、マルサス―市民社会における有用性と野蛮[後藤浩子]
第一節 「野蛮」の二つの含意―ドイツ思潮やフランス思潮との違い
第二節 ファーガスンの「市民社会」概念の本質的特徴
第三節 バークにおける有用性と野蛮
第四節 ブリティッシュ・ラディカリズムの分化―ペイン的ラディカリズムとバーク思想との差異
第五節 一九世紀におけるペイン的ラディカリズム対マルサス的原理
おわりに
第一八章 マルサスのペイン批判―啓蒙の野蛮化との戦い[中澤信彦]
はじめに 593
第一節 先行研究の概観 599
第二節 『人口論』第二版第四編第六章前半の分析 603
第三節 『人口論』第二版第四編第六章後半の分析 607
おわりに
第一九章 ドイツ・ロマン主義の経済思想家における啓蒙と野蛮の問題―アダム・ミュラーとフランツ・フォン・バーダー[原田哲史]
はじめに
第一節 アダム・ミュラーの場合
第二節 フランツ・フォン・バーダーの場合
おわりに
終 章 近代文明とは何であったか[田中秀夫]
第一節 文明化の両義性
第二節 文明の様々な転機
第三節 自由主義の現代的意義
第四節 アメリカを野蛮な帝国にしないために
あとがき[田中秀夫]
索引(人名・事項)