インターネットと人権侵害 匿名の誹謗中傷 その現状と対策
価格:2,200円 (消費税:200円)
ISBN978-4-903281-27-8 C0036
奥付の初版発行年月:2016年01月 / 発売日:2016年01月中旬
名誉毀損、侮辱、信用毀損、脅迫、さらし、ネットいじめ、児童ポルノ、ハラスメント、差別…など、現在、インターネット上で行われているさまざまな人権侵害について、その実態と対策をやさしく解説しています。
現在、インターネットでの誹謗中傷で悩んでいる方はたくさんいるようです。誰が書き込んだのかわからないだけでなく、書き込みの削除も簡単にはできません。たとえその内容が虚偽であったとしても、多くの人が目にすることで悪評となって拡散していきます。「インターネットのトラブル」について、官公庁や一般の企業、学校などで数多くの講演・指導をしている著者が、ネット上で起こっている人権侵害について、数多くの実例をもとに、その対処法を解説しています。
はじめに
「今回も人権侵害だ……」
オフィスに来た講演依頼のメールをチェックする度に、私はネットがもたらしている問題の大きさを思い知らされます。
私はありがたいことに、年間50件ほどの講演依頼をいただきます。特に宣伝や営業活動をしているわけではないのですが、依頼されるテーマの8割は「インターネットにおける人権侵害」です。
講演の主催者や、参加者の方々と接して感じることは、ネット人権侵害の被害がいかに広がっているかということです。
そして、強く思うことがあります。それは、被害者に寄り添い、その痛みを理解して、適切に助言することが必要だということです。
しかし、残念ながら、被害者自身も相談を受けた方も、どう対処したらよいのかわからずに困っているのが現実なのです。
それもそのはず、ネット上の中傷書き込みへの対処は簡単ではありません。壁に貼られた中傷ビラであれば、剥がせばよいでしょう。しかし、ネット上の書き込みは簡単に消すことができません。面倒な手続きが必要だったり、交渉先が複数あったり、書き込んだ本人でさえ削除できなかったり……、と事情が複雑です。
また、「誰が書き込んだのか」を突き止めることも簡単ではありません。壁に貼られたビラに比べると、ネットに書き込まれた中傷への対応には、専門知識が必要であり、多大な手間もかかるのです。
「たまたま私が知ってしまったからいけないのだ。見なかったことにしよう」という大人の対応はお勧めしません。ネット上の書き込みを放置すると、日本国中のどこからでも、いつでも誰でも読める状態が続くのです。
その状況はさしずめ、駅前の電柱に中傷ビラが貼られているようなものです。時間の経過とともに多くの人が目にすることになるのです。
たとえ、内容が虚偽であったとしても、事情を知らない人にとっては、虚偽かどうかがわかりません。書き込みは悪評となって拡散していきます。
ネット人権侵害の問題の大きさは、講演依頼をくださる主催者の分野が多様であることからもわかります。
農林水産省、総務省自治大学校、東京都産業労働局、東京都総務局、横浜市水道局、公共職業安定所、全国各地の自治体、県教育庁、教育委員会、小中高校、PTA、一般企業、協会、公益財団法人など多分野にわたります。
また、対象者もさまざまです。
行政職員、教職員、保護者、児童・生徒、企業の雇用主、役員、従業員、採用担当者、公正採用選考人権啓発推進員、人権擁護委員、一般市民の方々などです。
この分野や対象の広さは、ネット人権侵害が年齢、性別、職業に関係なく、多くの方に関わる問題になっていることを示しています。
インターネットは資格審査もなく、年齢制限もなく、誰もが使える便利な道具です。でも、使い方を誤れば、人権を侵害する道具にもなります。
誰もが被害者になる危険性があり、同時に加害者になる可能性もあるのです。だからこそ、すべてのネット利用者に正しい知識が必要です。
知識を持たずにネットを利用するのは、地雷が埋まっている危険地帯を能天気にスキップしているようなものです。いつ被害者になっても、いつ加害者になってもおかしくありません。ですが、前もってどこに地雷があるのかを知っていれば、危険を避けながら、安全にネットを使うことができるはずです。 そのような思いで本書を執筆しました。
本書は、ネット人権侵害について、現状と対処方法をできる限りわかりやすく解説しています。事例も多く掲載しました。
本書の前半では、ネット人権侵害の現状を紹介しています。読者のみなさんは、ネットの便利な機能がことごとく人権侵害の道具になっていることに驚くことでしょう。
また、後半では、対処や対策を紹介しています。この問題がいかに複雑であるか、そして社会の取り組むべき課題がいくつもあることを知るでしょう。
本書で得た知識を、ぜひ仕事や生活の中に役立てて、安心安全なネット利用をしていただきたいと願っています。
最後になりましたが、本書に対する私の思いを受け止め、企画を通し、前作に続いて編集を担当してくださった、斎藤晃さんにお礼申し上げます。
また、本書をデザインしてくださった、田中眞一さんにも感謝です。プロの仕事に注文をつける、わがままな著者に快く対応してくださりありがとうございました。
多くの方々の協力により本書を刊行することができました。
みなさんに感謝いたします。
著者 佐藤 佳弘
佐藤佳弘(サトウ ヨシヒロ)
(株)情報文化総合研究所 代表取締役所長、武蔵野大学教授、西東京市情報政策専門員、東村山市情報公開運営審議会 会長、東久留米市個人情報保護審査会 会長、京都府・市町村インターネットによる人権侵害対策研究会アドバイザー、東京都人権施策推進指針に関する有識者懇談会 委員、NPO法人市民と電子自治体ネットワーク理事、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員。
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
【目次】
第1章 ネット社会の現状
1 子ども雑誌が描いた未来社会
2 技術と社会の発展
3 たどり着いた現代社会
4 警察に寄せられる相談件数
5 ネット人権侵害の相談件数
6 子どもの人権侵害
第2章 ネット上の人権侵害
1 名誉毀損
2 侮辱
3 信用毀損
4 脅迫
5 さらし
6 ネットいじめ
7 児童ポルノ
8 ハラスメント
9 差別
第3章 ネット時代の法整備
1 法整備の現状
2 プロバイダ責任制限法
3 いじめ防止対策推進法
4 児童ポルノ禁止法
5 リベンジポルノ被害防止法
6 青少年インターネット環境整備法
7 出会い系サイト規制法
第4章 ネットトラブルへの対処法
1 証拠の保存
2 書き込みの削除
3 2ちゃんねる掲示板での削除
4 検索サイトの結果表示停止
5 発信者の特定
6 拡散した書き込みの削除
7 加害者になった時の対処
第5章 法的な手段
1 報われない被害者
2 親告罪という壁
3 被害者に対する法的な救済
4 精神的被害に対する償い
5 裁判に関わる費用
第6章 社会の取り組み
1 自治体の取り組み
2 学校の取り組み
3 警察の取り組み
4 民間の取り組み
第7章 安全・安心のネット社会へ
1 被害者救済の仕組み作り
2 急務の法的整備
3 教育・啓発の推進
付録