大学出版部協会

 

看護動作のエビデンス

バイオメカニズム・ライブラリー
看護動作のエビデンス

A5判 178ページ 上製
価格:2,750円 (消費税:250円)
ISBN978-4-501-41570-9(4-501-41570-3) C3047
奥付の初版発行年月:2003年01月 / 発売日:2003年01月下旬

内容紹介

エビデンスに基づく看護の確立を目指す入門書

 「ボディメカニクス」とは,立位,座位,臥位,など静的あるいは動的姿勢のあり方であって力学に関係する幅広い概念である.人は自然と効率的,能率的に作業を行い,疲労や負担を避けようと自ら努力している.また,エビデンスとはエビデンスベースドメディシン(EBM:evidence-based- medicine)の略で根拠に基づいた医療の意味をもつ.本書では,経験則に頼る医療から脱却し,筆者らが約10年にわたり実験・研究してきたボディメカニクスを意識した看護・介助動作について,有効性や活用事例をまとめた物である.

前書きなど

 看護師の腰痛発症率は,英国では59%(1979),スウェーデンでは46.8%(1976),中国では77.9%(1994),フィンランドでは 81%(1984),ニュージランドでは70%(1985),日本では76%(1994)という報告があります.国や地域によって若干その数字は異なりますが,このように看護師や介護士の腰痛発症率は他の職業に比べ高いということはよく知られています.これに対し,過去1年以内に起こした腰痛という問に対して,1981年の英国の調査では43%でしたが,1995年の調査では14%と少なくなっています.その理由は一人で患者を持ち上げてはならないこと,持ち上げに協力者が得られない場合はホイストのような持ち上げ支援補助機器を使用する,医療従事者の患者取り扱い講習会参加義務などに関する規制が 1993年に施行されたためと考えられます.このような規制が存在し,それを守ることができ,さらにボディメカニクス技術が活用できるなら腰部障害発生率は減少するはずです.
 筆者らは看護や介護動作に関して,ボディメカニクスを意識した実験的研究を過去10年ほど行ってきました.本書は,看護・介護技術を支援するボディメカニクスというのはどのような技術であって,その技術の有効性,活用の現状について述べます.特に,前述した研究成果の一端および腰痛発症の調査結果をまじえたボディメカニクスのエビデンス(根拠)について解説します.1994年には,腰痛とボディメカニクスに係わるアンケート調査を行いました.そのとき自由記述に記載されたボディメカニクスの現場での活用状況と問題点についてはコラムに掲載しました.
 人間工学では,“もの”の使いやすさ,見やすさなど,人間が“もの”を扱う場合の「・・・・・・やすさ」や「・・・・・・作業の安全性」を追求しています.その“もの”という対象物の扱い方を“人”に置き換えるとボディメカニクスの技術になります.看護師・介護士が患者,高齢者,身体障害者を介助する場合がそれで,看護・介護を行う人が安楽,安全に患者・高齢者・身体障害者という人を介助するという場合です.このような看護・介護技術は,専門分野からいえばバイオメカニズムの生体力学という範ちゅうに入り,「・・・・・・やすさ」,「安全性」を問題にするような場合には,人間工学の分野にはいるかと思われます.
 看護・介護を力学と結びつける意義は,人(患者,高齢者,身体障害者)や物(マットレス,汚水バケツ,まとまった薬品びん)を持ち上げ移動するような場合の負担や疲労を軽減し,事故や傷害から患者,高齢者,身体障害者,看護師,介護士の身を守る安全性の確保にあります.
 ボディメカニクスとは,力学原理を人間の身体構造に取り入れ応用する技術です.つまり,重心,支持基底面,テコ,モーメント,摩擦,慣性など物理や力学で教える諸原理を看護師,介護士あるいは患者,高齢者,身体障害者の姿勢や動作に応用する技術です.それにより看護・介護する側,される側のあるべき姿勢,動作が確保できるので,看護・介護業務における介助は楽になり自身の負担も軽減されます.看護師,介護士は,この手法をよく理解し,それを意識して患者や高齢者の移動・移乗を行うとともに自身の姿勢のあり方に注意を払うなら,作業中に起こすかもしれない障害から自身の身,作業対象者の身を守ることができます.
 筆者らは,1999年よりベッド周り研究会という小さな会を設け,隔月にベッド周辺で行う看護,看護動作,介助のあり方を議論しています.そのなかから問題のある看護の力作業に関して実験的な研究を実施してきましたし,引き続きこれからも行っていく予定です.その成果は人間工学会,バイオメカニズム学会,日本看護研究学会などにおいて講演発表を行ってきました.本書は,それらの成果を交えて,ベッド周り研究会のメンバーである5人が分担して,ボディメカニクスのエビデンスとして執筆したものです.今後の看護・介護動作研究にお役にたつことを願っております.
 本書がバイオメカニズム・ライブラリーの一端に加えさせていただけたことを光栄に思っております.本書出版にあたり東京電機大学出版局の石沢岳彦氏に大変お世話になりました.ここに同氏に心より感謝申し上げます.


平成14年12月
小川 鑛一
大久保裕子
小長谷百絵
鈴木 玲子
國澤 尚子


目次

第1章 ボディメカニクスとは

1.1 ボディメカニクスとは
1.2 看護・介護作業とボディメカニクス
 【コラム1】 ボディメカニクスは役立つか?(看護師の声1)
1.3 ボディメカニクスに関する力学の基礎
 【コラム2】 ボディメカニクス有効性・必要性(看護師の声2)

第2章 重心とボディメカニクス
2.1 対象を小さくまとめる
2.2 対象の重心に近づく
2.3 支持基底範囲内に重心移動を入れる
 【コラム3】 ボディメカニクスとその活用意識(看護師の声3)

第3章 摩擦とボディメカニクス
3.1 背上でみる2つの立場の摩擦被害者
3.2 患者側の背上げによる摩擦
 【コラム4】 ギャッチベッド? ギャッヂベッド?
3.3 ずり上げと摩擦
 【コラム5】 ボディメカニクスと看護環境(看護師の声4)

第4章 力のモーメントとボディメカニクス
4.1 前腕・上腕と力のモーメント
4.2 胴体の前傾と力のモーメント
4.3 ボディメカニクスと力のモーメント
 【コラム6】 ベッドにまつわる褥瘡予防
4.4 力のモーメントの応用
 【コラム7】 ギャッチベッドでファウラー位にする

第5章 適度な速さで動く,動かす
5.1 着座動作にみる速度と安定性の関連
5.2 長座位への体位変換における速度と介助しやすさの関連
 【コラム8】 医学用語・看護用語にみる人名

第6章 自然な動き
6.1 日常の人の動き方を知る
6.2 体位変換
6.3 大切な力の方向
6.4 関節の動きは複雑
6.5 高齢者の緩慢な動き
6.6 自らの臀部挙上により得られた主観
6.7 動くものに対する主観
 【コラム9】 ボディメカニクスと腰痛(看護師の声5)

第7章 テクニカルエイドの活用
7.1 テクニカルエイドの必要性
7.2 身近で最強の電動ベッド
7.3 あると便利なリフター
 【コラム10】 力綱をご存じですか?
7.4 移乗介助支援装置
 【コラム11】 自分の身は自分で守る(看護師の声6)

第8章 人の動きとタイミングを合わせるためのかけ声
8.1 微妙な時間「タイミング」:バケツ持ち上げ動作
8.2 担架の持ち上げにおける合図の効果
 【コラム12】 ボディメカニクス活用はここに問題あり(看護師の声7)

第9章 熟練者と初学者の違い
9.1 手の使い方−その1(下肢挙上)
9.2 手の使い方−その2(会陰保護)
9.3 手の使い方−その3(新生児の沐浴)
9.4 手の使い方−その4(上肢の支え方)
9.5 仰臥位から側臥位への体位変換
9.6 手の使い方−その5(注射器)
9.7 情報の取り込み
 【コラム13】 「ワザ」

参考文献
索 引


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