ICTを活用した外国語教育
価格:3,300円 (消費税:300円)
ISBN978-4-501-54400-3 C3037
奥付の初版発行年月:2008年07月 / 発売日:2008年07月中旬
本書は,「ICTを活用した外国語教育」を理論と実践の両側面を通じ,その意義と教育的効果について新たな視点で捉えていこうとするものである.
ICT(Information and Communication Technology)とは情報通信技術を意味し,ITよりも「通信」を強調したい場合に用いられることが多い.総務省は2004年までは「IT政策大綱」とITを使用していたが,2004年8月に発表した「平成17年度ICT政策大綱」から,ICTと呼び始めた.この背景には,コミュニケーション(通信)抜きではITを考えられなくなってきたことがあげられる.
外国語教育においても,CALLをはじめWBT,Moodleを中心とするLMSといったICTを利用した「教授法」「学習法」が注目されている.しかしこうした外国語教育の先端化によって,本当に外国語学習は身近になり,効率的で,容易なものになっているのだろうか.想像を超える速さで発展し続けるICT技術・環境を前に,今一度,一歩離れたところから,現状と将来の方向を見極めておく必要があるのではないだろうか.
また,ICTの発達・普及により外国語教育における「自律学習(Autonomy learning)」は教室を越えた新しい局面を迎えている.外国語教育へのICTの導入と,いつでもどこでも自己管理により進める「自律学習」を切り離して考えることはもはやできない.ICTを用いた「自律学習」が今後の外国語教育改革の切り札になることは確かであるが,その導入をめぐっては,あらたな問題も提起されている.
さらに「コミュニケーション」に焦点を当てると,ICTは教室という閉ざされた空間を開放し,異文化との出会いの場を創出し,異文化間の対話の機会を生み出すことを可能にする.もっとも,一概にICTによる教育活動が最適な学習環境とはならないかもしれないが,「第二言語習得」に重要となる,インタラクション,意味交渉,言語の使用目的,自然な言語使用場面,インフォメーション・ギャップ,学習者中心,異文化理解,異文化に対する積極的な態度といった要素は,ICTによる教育活動の中に自然な形で含まれていることになる.
このようなさまざまな学習環境のもと,ICTを広範囲で捉えるとき,携帯端末の存在も見逃せない・Podの普及率はめざましく,Podcastのスタイルで情報資源の無料提供という基本理念に基づき,今や音楽だけでなく,語学教育においても豊かなコンテンツの開発が行われ,日々,大学・民間を問わずアカデミックな目的でわれわれに配信してくれているという現実がある.
このように,ICTは今や特別なものではないが,外国語学習への実際的な応用は非常に限られており,教育実践数は少数に留まり,長期的継続実践についてはその数はさらに少ない.最適な外国語学習環境とは何かと考えるとき,学習者の年齢,学習年数と経験,言語能力の熟達度,学習方略等,さまざまな要素を考慮しなくてはならない.
本書は,このように急遽に変貌する社会情勢のもとで,外国語教育がどのようにICTと関わっていけばよいかを問いかけながら,その理論的背景を解説するとともに種々の実践例を紹介している.
前半の理論編では,はじめに外国語教育におけるICT活用への歴史が紹介されており,それを知ることにより今日のICT活用の重要性・メリットへの理解へと促している.さらにそれをふまえて学習モデルを構築する必要があり,言語習得理論に基づくICT利用の学習モデルが紹介されている.そして,外国語学習のICT活用の本体部分であるデジタルコンテンツの意義と利点が述べられ,デジタルコンテンツを外国語学習に特化した教材として活用する方法が紹介されている.
後半の実践編では,外国語学習という観点から,英語・ドイツ語・フランス語・中国語・日本語・多言語における活用事例が紹介されている.ドイツ語とフランス語はICT活用の理論的背景とともに活用例が述べられており,英語・中国語・日本語・多言語では,活用例とともに制作方法が紹介されている.最終章では,携帯端末iPodとPodcastingに焦点が当てられている.iPodの歴史およびiTunesとの連携について触れ,デジタルコンテンツをiPod上で利用するための具体的な方法が解説され,Podcastingでは,その具体的な作成方法が紹介されている.
eラーニング,WBT,Chat,Moodle,LMS,Flash,iPodなど,ICTに関わるキーワードはさまざまであるものの,これまでは,「いつまでたっても情報技術を有効活用できない」といわれてきた外国語教育であったが,本書を通じて「大いに使える」ものになることを期待したい.ICTを外国語学習において有効利用できるかどうかは,外国語教育の発展を大きく左右するものである.
編者一同
目次
理論編
第1章 ICTへの道(歴史)
1.1 LLからCALLへ
1.2 スタンドアロンCALLからネットワークCALLへ
1.3 CALLシステムとeラーニング
第2章 外国語教育・学習モデル
2.1 第二言語習得理論に基づく学習モデル
2.2 Ⅳ技能における語彙の位置づけ
2.3 自律学習とICT
2.4 学習ストラテジー
2.5 語彙学習におけるメタ認知ストラテジー
2.6 ブレンディッド・ラーニングによる学習モデル
2.7 おわりに
第3章 外国語学習デジタルコンテンツ—利点と留意点
3.1 デジタルコンテンツの制作過程
3.2 外国語学習のICT利用環境と学習機器
3.3 コンテンツ制作の実際
実践編
第4章 留学シミュレーション型CALL教材”Campus Life at UBC”【英語】
4.1 留学シミュレーション型CALL教材とは
4.2 事例教材の概要
4.3 本教材の開発環境とプラットフォーム
4.4 教材の構成
4.5 教材プログラムの画面例と学習の流れ
4.6 教材の難易度と語彙レベル
4.7 教材の評価と今後の課題
第5章 2Dアバター・チャット・システムを利用したコミュニケーション活動の活性化【英語】
5.1 英語教育とチャット・システム
5.2 アバター・チャット・システムの利点
5.3 thePalaceを使った2Dチャット・システムの構築
5.4 thePalaceチャット・システムを使った教材事例
5.5 試作システムの運用結果と評価
第6章 外国語教育研究プロジェクト VOA番組利用の取り組み【英語】
6.1 はじめに
6.2 VOAプロジェクトの研究経過
6.3 事例1:技術英語関連授業におけるVOAコンテンツ利用
6.4 事例2:VOAコンテンツの多角的利用
6.5 事例3:VOA衛星放送素材とMoodleを活用したESPビデオ教材の開発と実践
6.6 事例Ⅳ:アプリケーション型からネット配信型へ
6.7 まとめ
第7章 Moodleによる教材開発・管理【英語】
7.1 Moodleとは
7.2 活用例
7.3 活用方法での留意点
7.4 評価方法
7.5 今後の展望
第8章 小学校英語活動教材【英語】
8.1 小学校英語活動の現状
8.2 小学校英語活動のためのICT活用の意味とメリット
8.3 事例1:コンピュータ教材とのティーム・ティーチング
8.4 事例2:市販教材”ATR CALL”
8.5 まとめ
第9章 豊かな学びの場としてのLMS—ドイツ語学習における「振り返り」と「気づき」を例に【ドイツ語】
9.1 「知識社会」と生涯にわたる「学び」
9.2 社会構成主義
9.3 行動中心主義における言語使用者と言語学習者
9.4 CALLとTELL
9.5 社会的知識構成の場としてのLMS
9.6 学びの場としてのLMS:具体例
9.7 おわりに
第10章 フランス語教育とICT【フランス語】
10.1 はじめに
10.2 テレビ会議
10.3 電子教材とeラーニング
10.4 電子黒板の活用
10.5 おわりに
第11章 日本語教育とICT【日本語】
11.1 日本語教育現場におけるコンピュータ利用
11.2 ICTと日本語教育
11.3 授業への応用
11.4 おわりに
第12章 多言語Web教材 「長崎・言葉のちゃんぽん村」【多言語】
12.1 フランス語・スペイン語・中国語のWeb教材
12.2 日英仏独西中韓の相互対照による7ヶ国語講座
第13章 Podcastによる多言語音声教材およびテキスト教材の配信—大阪府立大学の事例を中心に【多言語】
13.1 Poscastとは何か?
13.2 大阪府立大学外国語学習Podcastの内容
13.3 大阪府立大学外国語学習Podcastの受信方法
13.4 大阪府立大学外国語学習Podcastの学習方法,および利用者の反響
13.5 学習者から見たPodcastの利点
13.6 教員から見たPodcastの利点
13.7 まとめ
第14章 外国語教育とiPod&Podcasting
14.1 外国語教育とiPod
14.2 Podcast制作の実際
14.3 Flashムービーの発信とVideo Podcastの制作