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社会,まち,ひとの安全とその技術社会安全システム

社会安全システム 社会,まち,ひとの安全とその技術

A5判 320ページ 上製
価格:3,740円 (消費税:340円)
ISBN978-4-501-62210-7 C3036
奥付の初版発行年月:2007年02月 / 発売日:2007年02月下旬

内容紹介

混迷の時代を生き抜くための方策を指南.

前書きなど

 大阪府では,「地域安全マップ」の利用を始めた。大阪市内の分だけ07年2月からの開始となったが,それ以外の地域では,06年12月から小学校区単位で,防犯上の要注意地点や交通の危険個所,「こども110番の家」の位置などが確認できる。大阪府警が犯罪情報などを携帯電話メールなどで流す「安まちメール」とも連動しており,事件が発生した地点やその情報などもこのマップ上で確認できる。
 本書では,社会の安全を守るための仕組みを,社会安全システムであると捉えている。この「地域安全マップ」は,その典型の1つであるが,必ずしもコンピュータシステムだけが社会安全システムであると考えているわけではない。情報通信技術による仕組み,人的仕組み,それらを支える制度や運営ノウハウ体系などの仕組み・・・・・・。社会の安全を守るための取り組みが,これらの仕組みのうちのいくつかを内包して組み立てられているのならば,それを社会安全システムと呼びことをためらう必要はないと思われる。
 府県別のひったくり発生件数首位を30年間続けてしまった大阪府は,系統だったやり方で犯罪件数を減らす道を選んだ。全国に先駆けて,2002年12月には「大阪安全・安心まちづくり支援ICT活用協議会」(略称大安協)を発足させた。大安協は,社会安全システムに関連する企業,行政,学術機関が集う産官学を束ねた組織で,会員相互間の情報交換,特定テーマに関する研究会の組織化,いくつかの実証実験の企画広報窓口の機能を果たしている。
 本書の第7章は,大安協の中に設けられたプライバシー研究会にオブザーバとして参加した小林正啓弁護士が,そこでの議論をきっかけとして考案した内容を独自でまとめ,ネットワークロボットフォーラムの報告書に発表した論考を,加筆修正して掲載したものである。
 大安協には,大阪市立大学大学院創造都市研究科から2名の教員が参加している。その刺激もあって,同大学院では06年夏に「社会安全システム論」という講義を開設した。安藤茂樹,井出明(本属は近畿大学),瀬田史彦,中野潔の4名の教員と,高畑達,田口秀勝,西岡徹,宮野渉の4名のゲストスピーカ(いずれも大安協会員企業)とが演壇に立つ。第7章以外の本書の各章の多くは,その講義録に大幅に加筆修正して構成したものである。
 前田雅英や門倉貴史が指摘しているように,2002年をピークに,日本の刑法犯認知件数は減少傾向に転じた。しかし,国家権力による社会治安維持にだけ期待するのは危険である。07年度の政府予算案では,子ども安全対策で,通学路の安全を確保する危機マニュアル整備,公園や通学路などへの緊急通報装置の設置,犯罪に関する匿名通報のモデル事業などの事業をあげ,30億円を割り当てた。これに対し,外国人入国者の指紋と顔情報をブラックリストと照合するシステムの導入などに164億円も割いている。防衛庁の省への昇格が端的に示すように,「国」の守りは強化するが,市民は各自勝手に自警せよ—といった姿勢が露骨になってきた。柳田邦男や斎藤貴男が指摘するように,ここ数十年間の「国栄えて民荒む」構図の絵が仕上げの段階に入ってきたようにも思える。
 本書にその成果を盛り込みことはできなかったが,大安協では「地域の安全・安心環境基盤整備構築手法研究会(略称基盤研)を設けて,社会安全システムを各地で確立するための社会基盤のあり方について研究してきた。そこでの活動を通じてわかったことは,月並みながら,それぞれ事情の異なる各地域を,それぞれの事情に合わせた手法を模索しながら地域自身が守るしかないという当たり前の事実である。
 書生のおける,すなわち身辺警護に金が使える家に育った為政者たちにしてみれば,「国」の形が保たれる中でなら,階層間や地域間で適度な反目があるぐらいの社会の方が,民衆の力の矛先が1つにまとまる社会より統治しやすい。地域ごとの自警は,何の工夫もなければ,江戸時代の分断統治を再び招きかねない。しかし,グローバルな情報通信環境を手にしたわれわれは,自分たちの得たノウハウを地域を超えて国境を超えて交換し,手を取り合う術を心得ている。
 第7章で詳しく論じているように,防犯(監視)カメラは市民の各種自由を侵害するリスクを秘めているし,国家による市民の行動の追跡につながる可能性もある。さらに,市民による市民の機械的監視という社会の新しい局面さえ招き得る。しかし,2007年頭に発覚した東京都における配偶者による殺人・遺体損壊事件で,マンションの防犯カメラの映像が犯人逮捕につながったように,情報通信技術が防犯や犯罪隠蔽阻止で示す効能も,また無視できない。
 両刃の刃を使いこなす知恵は,本書が目指したような多重多様の論議の中から積み上げていき,伝え合っていくしかないのではなかろうか。
 本書では,安全とは,国家の役割とは,という基本的疑問に始まり,情報通信技術,都市工学,法学,制度など多面的視点から社会安全システムの現状と動向について,全13章で浮き彫りにした。大安協に関連する実証実験事例を4件,当事者の言葉で紹介して,実践にも役立つものにした。第Ⅰ部「社会の安全とまちの安全」が安全学総論と都市工学的側面,第Ⅱ部「まちの安全とひとの安全」が法と制度の側面,および社会安全システムの実例概観,第Ⅲ部「安全のための情報と通信」が情報通信技術,社会安全システムの実例詳解,および情報伝達の側面からの論考である。各章の概要については,序章を参照されたい。
 本書が,各地域,そして国家レベルの社会安全システム関連企業の方々,関連分野の研究者や学生,行政の担当者,学校関係者,NPO,地縁団体,商店街などの関係者,一般企業のセキュリティ分野関係者などの役に立つものであると確信している。
 最後に,関連学会,大安協のシンポジウムおよび研究会での討論に参加してくださった方々,いくつかの論考原案を発表する場となった学会や研究フォーラムの関係者の方々,学校や地域でのインタビュー,アンケートに御協力いただいた方々,大安協の会員および事務局の方々,東京電機大学出版局の方々,議事録作成を引き受けてくれた創造都市研究科情報メディア環境研究分野の院生の方々に心から感謝の念を表したい。
2007年1月吉日
著者代表 中野 潔


目次

序章
第Ⅰ部 社会の安全とまちの安全
 第1章 安全学総論・・・(井出 明)
  1.1 学問の対象としての安全
  1.2 科学であるということと安全概念
  1.3 安全の歴史性
  1.4 ケインズ政策と安全
 第2章 情報化社会における安全・・・(井出 明)
  2.1 情報は科学か?
  2.2 情報化社会の安全
  2.3 安全の二系統
 第3章 法における安全の意味・・・(井出 明)
  3.1 法律論としての安全1:憲法体制
  3.2 法律論としての安全2:補償と賠償
  3.3 法律論としての安全3:無過失責任と国家の役割
  3.4 法律論としての安全4:交通事故
  3.5 法律論としての安全5:個人の法的責任の追及の防止
  3.6 法律論としての安全6:法律論から見た複数解
  3.7 本章の最後に
 第4章 防犯と安全・安心まちづくり・・・(瀬田史彦)
  4.1 防犯まちづくりと都市計画
  4.2 防犯環境設計
  4.3 新技術による防犯環境設計
  4.4 防犯まちづくりとコミュニティ活動
  4.5 防犯まちづくりの意思決定とコスト負担
  4.6 まとめ:日本の防犯まちづくりの課題
 第5章 防災,環境,社会的弱者と安全・安心まちづくり・・・(瀬田史彦)
  5.1 防災と安全・安心まちづくり
  5.2 社会的弱者にやさしいまちづくり
  5.3 環境と都市の関係
第Ⅱ部 まちの安全とひとの安全
 第6章 情報通信技術による社会安全システムの現実・・・(中野 潔)
  6.1 防犯関連システムの概観
  6.2 豊中市と枚方市の地域安心安全情報共有システム
  6.3 池田市のANSINメールシステム
  6.4 KBS京都による見守りカメラシステム
  6.5 その他の安全確保システムの例
  6.6 防犯関連システムの事例,分類と関連要素技術
  6.7 情報通信技術を用いた防犯関連システムの実現における留意点
 第7章 ネットワークロボットの法的問題について—ネットワーク監視カメラ・防犯カメラの設置運用基準—・・・(小林正啓)
  7.1 要旨
  7.2 問題の所在
  7.3 監視カメラ社会を支えるもの
  7.4 監視カメラを巡る裁判例と学説
  7.5 プライバシー権・肖像権の生成と変容
  7.6 ネットワーク監視カメラの設置運用基準
  7.7 記録データの第三者提供
 第8章 防犯カメラの運用に関する公的規則・・・(中野 潔)
  8.1 街頭カメラに関する公的規則の研究の背景
  8.2 公的規則の性格および目的
  8.3 対象者,運用基準の制定
  8.4 管理責任者とその義務
  8.5 第三者との関係および画像データの取り扱い
第Ⅲ部 安全のための情報と通信
 第9章 ユビキタスコンピューティング技術と社会安全・・・(安藤茂樹)
  9.1 今後の日本の課題
  9.2 RFIDの応用分野
  9.3 RFIDの動作原理と特性
  9.4 環境保護分野におけるRFIDの活用の可能性
  9.5 RFIDの活用による環境保護推進の例
  9.6 RFIDの活用による環境保護推進における公的実証実験の役割
 第10章 防犯・防災および食の安全分野におけるRFIDを中心とする・・・(安藤茂樹)
  10.1 センサーと位置検出
  10.2 センサーの応用
  10.3 位置検出,追跡技術の仕組み
  10.4 位置検出,追跡技術の応用
  10.5 防犯と情報通信技術
  10.6 防災と情報通信技術
  10.7 テロ対策と情報通信技術
  10.8 物流,食の安全と情報通信技術
 第11章 情報通信技術による防犯実証実験
  11.1 情報通信技術による防犯実証実験の事例の概要(中野 潔)
  11.2 ICタグと防犯カメラを活用した児童生徒の安心安全確保システム構築(帝塚山学院小学校実証実験事例)・・・(宮野 渉)
  11.3 ユビキタス街角見守りロボットを活用した児童生徒の安心安全確保システム構築(大阪・中央小学校実証実験事例)・・・(高畑 達)
  11.4 IT(アクティブICタグ)を活用した児童生徒の安心安全確保システム構築(古江台中学校実証実験事例)・・・(田口秀勝)
  11.5 Nコードを活用した児童生徒の安心安全確保システム構築(堺市登美丘地区実証実験事例)・・・(西岡 徹)
 終章 安全安心関連およびリスク情報についての社会的伝達における人材育成・・・(中野 潔)
  F.1 理解のために科学技術知識が必要な政策課題の増大と市民の政策形成への市民の関与
  F.2 政策形成への市民の関与
  F.3 科学技術関連情報の伝達を担う人材の育成
 索引
 編集者紹介


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