デジタルプリンタ技術
ケミカルトナー
価格:3,190円 (消費税:290円)
ISBN978-4-501-62390-6 C3072
奥付の初版発行年月:2008年11月 / 発売日:2008年12月上旬
本書のタイトルである「ケミカルトナー」というのは,電子写真に用いられている種々のトナーのなかで,重合法を中心とする化学的手法を用いて製造されたトナーのことをさし示す言葉である。したがって,タイトルどおりの内容で本書を編纂するならば,読者には専門の技術領域が化学系でトナーの開発・製造に携わっている方を想定し,トナーの化学的製造方法に重点を置くべきであったと思われる。しかしながら,本書はそういう形をとらずに,トナーの化学的製造方法に加えて,トナー全般にかかわる事項もカバーするようにした。理由は,電子写真技術の開発が,感光体とトナーという2つの代表的な機能部材の開発とそれらを使いこなすためのシステム技術の開発という形で行われてきたことによる。すなわち,電子写真技術の開発においてはいろいろな立場の技術者や研究者が直接的あるいは間接的にトナーを取り扱っており,専門の技術領域も化学系に限定されているわけではなく物理系・電気系・機械系と広範にわたっている。また近年では,トナーが機能性粉体であることから粉体工学の立場からもトナーの研究がなされている。
したがって,それらの方々が「ケミカルトナー」というタイトルに惹かれて本書を手に取ってみる理由は,本書にはケミカルトナーの製造方法だけではなく,たとえば,
・電子写真においてトナーに求められる役割・機能
・トナーの役割・機能を発現させているトナー構成材料の物性や特性
・ケミカルトナーの種類・特徴・特性
・トナー挙動制御のために必要とされるトナーの物性や特性
・ケミカルトナーが電子写真システムにもたらした変革
・トナーを取り扱うために必要な知識
などに関しても本書のなかで取り扱われていることを期待しておられるのではないかと考えたからである。
そもそも「ケミカルトナー」が開発されるようになったきっかけは,高画質な電子写真システムを構築するために,画質と相関のあるトナーの微小粒径化,球状化,粒度分布幅のシャープ化の要請に応えるためであった。したがって「ケミカルトナー」に関しての理解を深めるためには,トナーに求められる役割・機能・特性に関しての一般的な基礎知識も理解しておくことが必要であると思われた。本書ではその点を考慮して,ケミカルトナーの製造方法に関してのみに言及するのではなく,トナー全般にわたる共通の必要事項に関しても解説した。
本書を編纂するにあたっては,ケミカルトナーにかかわる項目が非常に多岐にわたるため,複数の執筆者にそれぞれの専門とするところを解説してもらうことにした。そのため,執筆者数が多くなり章ごとに多少表現にばらつきがあるかもしれないが,全体としては体系的に理解できるような構成としたつもりである。また,ページ数の制限で,詳細に関しては割愛した部分もあるが,各章に参考文献を載せているので必要に応じて参照していただければと思う。
本書から,電子写真技術のブラッシュアップを志す読者の方々が多少なりとも有益な知見を得ていただければ幸いである。
2008年10月
竹内 学
多田 達也
目次
第1章 電子写真システムとトナー特性
1.1 電子写真技術とトナー開発の変遷
1.2 電子写真システムの画像形成プロセス
1.3 トナーの分類方法
1.4 トナーに要求される特性
1.5 ケミカルトナーの特徴と電子写真システムへの適用
1.6 むすび
第2章 トナー開発の変遷
2.1 トナーの分類とその特徴
2.2 トナーの製造技術の変遷
2.3 むすび
第3章 トナーの構成材料
3.1 トナーへの要求特性に対するトナー設計
3.2 バインダー樹脂
3.3 顔料
3.4 電荷制御剤(CCA)
3.5 ワックス
3.6 外添剤
3.7 むすび
第4章 ケミカルトナー
4.1 ケミカルトナーの分類
4.2 ケミカルトナーの特徴
4.3 ケミカルトナーの製造技術
4.4 むすび
第5章 ケミカルトナーの帯電機構
5.1 接触・摩擦帯電現象の背景
5.2 粉体(トナー)とフィルム上樹脂の接触・摩擦帯電
5.3 帯電量
5.4 接触・摩擦帯電機構のモデル
5.5 帯電量の時間変化
5.6 帯電に関与する因子
5.7 トナー帯電量の標準化
5.8 むすび
第6章 ケミカルトナーの特性評価
6.1 粉体物性
6.2 熱的性質
6.3 粘弾性
6.4 電気的性質
6.5 磁気特性
6.6 付着力
6.7 むすび
第7章 ケミカルトナーの特徴と適用事例
7.1 画像形成プロセス設計とトナー特性
7.2 電子写真装置への適用事例
7.3 むすび
第8章 トナー技術の将来展望
8.1 高画質化・高安定化対応
8.2 高機能化・特殊機能化対応
8.3 高生産性対応
8.4 エコロジー(省エネルギー,省資源,環境)対応
8.5 人体に対する安全性対応
8.6 トナー技術の応用化対応
8.7 むすび