叢書・ウニベルシタス994
文学的自叙伝 文学者としての我が人生と意見の伝記的素描
価格:9,900円 (消費税:900円)
ISBN978-4-588-00994-5 C1398
奥付の初版発行年月:2013年05月 / 発売日:2013年05月下旬
ワーズワスとともにイギリス・ロマン派を代表する詩人の主著であり、英文学史上における文芸批評の最高峰とも見なされる作品、初の完訳。哲学・美学の古典に通じ、同時代のドイツ観念論の衝撃も受けとめて書かれた一八一七年刊行の本書は、詩人の長年の思索と創作に培われた批評理論であり、近代の洞察であり、その精神史的遍歴の告白でもある。訳者による詳細な注・解説および年譜付。
S.T.コウルリッジ(コウルリッジ サミュエル テイラー)
(Samuel Taylor Coleridge)
1772-1834。イギリス・ロマン主義の詩人・思想家・哲学者。20歳代の作品「老水夫の詩」「クブラ・カーン」「深夜の霜」など、幻想的・瞑想的な詩作で知られる。また当時の社会や政治の問題にも関心をもち、執筆・講演を行なった。30歳代以後は哲学と宗教への関心をいっそう深め、古代から同時代にいたる思想家の書物に広く学びながら、独自の思想体系を構築。シェイクスピア論その他の文芸批評に加え、哲学史の連続講演も行なう。自らの思想的遍歴を辿りながら「想像力」理論の確立とその応用を試みた本書(1817)は主著の一つ。晩年には『省察の助け』(1825)などにおいて、宗教に仕えるものとしての哲学の位置づけを明らかにした。病みがちな一生を通じて彼が書き残した数多くの覚書も、未完の素材の味わいを持つ魅力的な断片集である。
[訳者紹介]
安斎 恵子(アンザイ ケイコ)
1990年お茶の水女子大学大学院人間文化研究科(博士課程)単位取得退学。お茶の水女子大学ほか非常勤講師。共著に東京コウルリッジ研究会編『「政治家必携の書─聖書」研究──コウルリッジにおける社会・文化・宗教』(こびあん書房)、『伝統と変革──一七世紀英国の詩泉をさぐる』(中央大学出版部)ほか。
小黒 和子(オグロ カズコ)
1958年東京女子大学文理学部英米文学科卒業。1966年米国ワシントン大学大学院修士課程修了。元東京女子大学助教授、元早稲田大学非常勤講師。主な著書に『詩人の目──コールリッジを読む』(校倉書房)、訳書にニコルソン『暗い山と栄光の山』(国書刊行会)、『円環の破壊』(みすず書房)ほか。
岡村 由美子(オカムラ ユミコ)
1979年法政大学大学院人文科学研究科英文学専攻博士課程単位取得。茨城県立医療大学人間科学センター准教授。共著に『最新和英口語辞典』(朝日出版社)、東京コウルリッジ研究会編『「政治家必携の書─聖書」研究』(こびあん書房)、訳書に『シェイクスピア批評』(同)、『コウルリッジの生涯』(共訳、同)ほか。
笹川 浩(ササガワ ヒロシ)
1992年早稲田大学大学院文学研究科英文学専攻博士後期課程満期退学。中央大学商学部教授。共著に『地誌から叙情へ──イギリス・ロマン主義の源流をたどる』(明星大学出版部)、論文に「コウルリッジとボウルズ」(『イギリス・ロマン派研究』第23号)ほか。
山田 崇人(ヤマダ タカヒト)
1989年東京大学大学院人文科学研究科英語英文学専攻修士課程修了。成蹊大学法学部教授。共著に東京コウルリッジ研究会編『「政治家必携の書─聖書」研究』(こびあん書房)、論文に「Lyrical BalladsにおけるWordsworthの聖書への言及について」(『成蹊法学』第56号)ほか。
目次
凡 例
第一巻
第一章 本書執筆の動機──筆者の最初の詩集に対する反響──学校時代における審美眼の涵養──同時代の作家たちが若者の精神に及ぼす影響──ボールズのソネット──ポープ氏以前と以後の詩人たちの比較
第二章 天才の性格とされる激しやすさ──これに関する事実の検証──このような非難の原因と契機──その不当性
第三章 筆者が批評家から受けた恩義、そしてその理由と考えられること──現代批評の諸原理──サウジー氏の著作と性格
第四章 序文を付した『叙情民謡集』──ワーズワス氏の初期の詩──空想と想像力──芸術にとって重要なその区別の検討
第五章 観念連合の法則──アリストテレスからハートリーに至るその法則の歴史
第六章 ハートリーの体系は、アリストテレスの体系と異なる限りにおいて、理論的に支持し難く、また事実に裏付けられてもいない
第七章 ハートリー理論の必然的結果──その理論が容認される余地を与えた根本的間違い、あるいは曖昧さ──記憶術
第八章 デカルトが導入した「二元論」──最初にスピノザが精密化し、後にライプニッツが「予定調和」説へと発展させた──物活論──唯物論──これらの体系は、いかなる連合理論に基づいても、知覚の理論そのものにはなり得ず、また連合の形成過程の説明にもならない
第九章 哲学は科学として可能か、そして科学となるための条件は何か──ジョルダーノ・ブルーノ──文学貴族階級、すなわち特権階級としての学識者間にある暗黙の協定の存在──筆者が神秘主義者から得た恩恵──イマニュエル・カントから得た恩恵──カントの著作における文字と精神との相違、そして哲学の教えにおける慎重さの擁護──批判哲学体系を完成しようとするフィヒテの試み──その部分的成功と最終的失敗──シェリングから得た恩恵、そして英国人著述家の中ではソマレズから得た恩恵
第一〇章 想像力すなわち形成力の性質と起源に関する章に先立つ幕間としての、余談と逸話の章──衒学および衒学的表現について──出版に関する若い作家への忠告──作家としての筆者の人生の様々な逸話、そして宗教と政治に関する筆者の意見の変遷
第一一章 作家を志す若い人々に贈る心からの勧告
第一二章 次章を熟読するか読まずにおくかについての、お願いと警告の章
第一三章 想像力、あるいは一つに形成する力(エゼンプラスティック・パワー)について
第二巻
第一四章 『叙情民謡集』出版のきっかけ、及び当初の目的──第二版序文──続いて起った論争、その原因と辛辣さ──詩作品(ポエム)および詩(ポエトリ)の哲学的定義と注釈
第一五章 《シェイクスピアの『ヴィーナスとアドーニス』及び『ルークリース』についての批評的分析から明らかになる、詩作力に特有の兆候》
第一六章 《今日の詩人たちと、一五世紀および一六世紀の詩人たちとの間に見られる顕著な相違点――両者に特有な長所を併せ持ちたいという願望の表明》
第一七章 《ワーズワス氏独特の信条の検討――鄙びた生活(とりわけ鄙びた下層の生活)は人間の言葉の形成にとって特に不都合である――言語の最良の部分を生むのは、百姓や羊飼いではなく哲学者――詩は本質的に理想的で普遍的――ミルトンの言葉も農民の言葉と同様に、いや、それよりもはるかに、現実の生活の言葉である》
第一八章 《韻文の言葉、それがなぜ、いかなる点で散文の言葉と本質的に異なるか――韻律の起源と要素――韻律の必然的効果、および用語選択の際に韻文を書く者に課される条件》
第一九章 《前章の続き――ワーズワス氏が、彼の批評的序文においておそらく念頭においていたであろう本当の目的について――その目的の解明と応用――中間的文体、すなわち散文と詩に共通する文体をチョーサーやハーバートらの実例によって例証する》
第二〇章 《前章の主題を引き続き論じる》
第二一章 《文芸批評誌の今日の編集方法に関する見解》
第二二章 《ワーズワスの詩の欠点の特性、及びそれを欠点と見なす判断の基準となる原理――美点に対する欠点の割合――その欠点の大部分がもっぱら彼の詩論の特性に由来すること》
サティレインの書簡
書簡一/書簡二/書簡三
第二三章
第二四章 結論
訳注/解説/訳者あとがき
年譜/索引
関連書
S.T.コウルリッジ著/小黒和子編訳『方法の原理』
W.ワーズワス著/小田友弥訳『湖水地方案内』