フィルム・アート 映画芸術入門 Film Art: An Introduction
価格:5,280円 (消費税:480円)
ISBN978-4-8158-0567-8 C0074
奥付の初版発行年月:2007年09月 / 発売日:2007年09月上旬
この1冊で、きっと映画の見かたが変わる!――初期から近年までの世界中の映画を視野におさめ、映画の技法・スタイルを中心に、製作・興行、形式・ジャンル、批評・歴史にわたる映画芸術のすべてを、多数の図版とともに体系的に解説したアメリカで最も定評ある映画入門、待望の邦訳。
わたしたちが1977年に『フィルム・アート――映画芸術入門』の執筆に取りかかったころは、映画研究が大学の一般科目になり始めたばかりだった。当時、映画の入門書は多少は出版されていたが、そのどれもが簡略になりすぎていて、映画を構成する基本的な技法の説明を明確に体系化していないように思えた。
そこで、わたしたちはミザンセン、撮影法、編集、音といった技法を体系的に、わかりやすく、しかも網羅的に説明する入門書を作ることにした。それ以外にも、従来の入門書が見過ごしてきたこと、すなわち作り手が特定の技法を選択し組み合わせることによって生み出す、映画の全体的な形式(あるいは形、構造)を扱うことにした。映画の個別のシーンとしてではなく、全体として論じたかったのだ。
初版以来、本書は数回、版を重ねてきたが、映画の基本的な側面を芸術形式として読者に紹介するというねらいは同じである。映画を芸術として強調することで、映画を映画として成立させている基本的な特徴を抽出しようということなのだ。本書では、映画という表現媒体が、映画、彫刻、音楽、文学、演劇、建築、舞踊が人に与えるのと同じような経験を、どのように与えるのかを探究する。
この本を書きながら、わたしたちは三つのタイプの読者を想定した。まず、映画をよく見ていて、映画についてもっと知りたい、映画に興味のある一般読者。次に、本書を教科書に使う、映画入門の科目を履修している学生。そして、さらに上級レベルの映画専攻の学生である。この最後のタイプの読者は本書から、映画研究に役立つ主要な事項や概念とさらに専門的な研究のための示唆を得ることができるだろう。
本書が最初に出版されたのは、およそ30年も前になる。以来、数多くの映画入門書が出版されてきた。しかし、本書こそ、これまでに書かれた本のなかで、もっとも包括的で体系的な映画芸術の唯一の解説書であると信じている。映画のスタイルや形式についての権威ある典拠として本書を引用する映画研究書も多く、喜ばしいかぎりである。
[「はじめに」冒頭より]
デイヴィッド・ボードウェル(デイヴィッド ボードウェル)
David Bordwell
1947年生。ウィスコンシン大学マディソン校ジャック・ルドー教授。2004年に退職後、現在は名誉教授として、世界各地の大学での講演や映画祭への参加を活動の中心にしている。1970年代以降に英語圏で目覚しく発展した映画の学術研究の立役者の一人であり、映画研究の体系化を試みると同時に、論争を果敢に仕掛けてきた。著書に、Narration in the Fiction Film(1985)、『小津安二郎――映画の詩学』(青土社、1992年)、Planet Hong Kong(2000)など多数。ウィスコンシン大学優秀教育賞や香港映画祭特別栄誉賞など数多くの賞を受賞。
クリスティン・トンプソン(クリスティン トンプソン)
Kristin Thompson
1950年生。ウィスコンシン大学マディソン校名誉研究員。緻密な映画分析と映画産業に関する手堅い研究で知られる。ボードウェルとの共著である本書と、その姉妹編Film History: An Introduction(2nd ed., 2003)は、映画の教科書として英語圏の大学でもっとも広く利用されている。ジャネット・スタイガーを加えた3人の共著The Classical Hollywood Cinema(1985)は映画研究の必読書とされている。Exporting Entertainment(1985)、Breaking the Glass Armor(1988)、Storytelling in the New Hollywood(1999)など単著も多数。エジプト学を傍らで研究。
藤木 秀朗(フジキ ヒデアキ)
名古屋大学人文学研究科教授。ウィスコンシン大学マディソン校Ph.D.(映画)。著書に『増殖するペルソナ――映画スターダムの成立と日本近代』(名古屋大学出版会)など。
飯岡 詩朗(イイオカ シロウ)
信州大学人文学部教授。立教大学修士(英米文学)。共著に『映画の政治学』(青弓社)など。
板倉 史明(イタクラ フミアキ)
神戸大学国際文化学研究科准教授。京都大学博士(人間・環境学)。著書に『映画と移民――在米日系移民の映画受容とアイデンティティ』(新曜社)など。
北野 圭介(キタノ ケイスケ)
立命館大学映像学部教授。ニューヨーク大学映画研究科博士課程中途退学。著書に『制御と社会――欲望と権力のテクノロジー』(人文書院)など。
北村 洋(キタムラ ヒロシ)
ウィリアム&メアリー大学歴史学部准教授。ウィスコンシン大学マディソン校Ph.D.(歴史学)。著書に『敗戦とハリウッド――占領下日本の文化再建』(名古屋大学出版会)など。
笹川 慶子(ササガワ ケイコ)
関西大学文学部教授。早稲田大学文学研究科満期退学。著書に『近代アジアの映画産業』(青弓社)など。
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
はじめに
第I部 映画製作、配給、興行
第1章 映画製作、配給、興行
1 映画のメカニズム
2 映画を観客にもたらす
コラム:独立系の製作と主流のハリウッド――グッド・マシーンの場合
3 映画を作る――映画製作
4 製作形態
さらなる探究のために
第II部 映画形式
第2章 映画形式の意味
1 映画形式という概念
2 映画形式の原則
3 まとめ
さらなる探究のために
第3章 形式上のシステムとしての物語
1 物語構成の原則
コラム:ストーリー上の時間をめぐるゲーム
2 語り――ストーリー情報の流れ
3 古典的ハリウッド映画
4 『市民ケーン』の物語形式
5 まとめ
さらなる探究のために
第III部 映画のタイプ
第4章 映画ジャンル
1 ジャンルを理解する
コラム:現代のジャンル――犯罪スリラー
2 3つのジャンル
3 まとめ
さらなる探究のために
第5章 ドキュメンタリー映画、実験映画、アニメーション映画
1 ドキュメンタリー
2 実験映画
3 アニメーション映画
4 まとめ
さらなる探究のために
第IV部 映画スタイル
第6章 ショット――ミザンセン
1 ミザンセンとは何か
2 リアリズム
3 ミザンセンの力
4 ミザンセンの構成要素
コラム:映画俳優の道具箱
5 すべてを1つに組み合わせる――空間と時間のミザンセン
6 ミザンセンの物語上の機能――『荒武者キートン』
7 まとめ
さらなる探究のために
第7章 ショット――撮影法
1 写真的な映像
コラム:怪物から日常まで――『ロード・オブ・ザ・リング』のCGI映像
2 フレーミング
3 映像の持続時間――ロング・テイク
4 まとめ
さらなる探究のために
第8章 ショットとショットの関係――編集
1 編集とは何か
2 映画編集の次元
3 コンティニュイティ編集
コラム:コンティニュイティの強化――『L.A.コンフィデンシャル』と現代の編集
4 コンティニュイティ編集に対するオルタナティヴ
5 まとめ
さらなる探究のために
第9章 映画の音
1 音の力
2 映画の音の基礎
3 音の次元
コラム:2つのトラックのリズム――『ラスト・オブ・モヒカン』の死のダンス
4 映画の音の機能――『抵抗』
5 まとめ
さらなる探究のために
第10章 形式上のシステムとしてのスタイル
1 スタイルという概念
2 映画スタイルを分析する
3 『市民ケーン』のスタイル
4 『透き歯の女たち』のスタイル
5 『ザ・リヴァーのスタイル』
6 『バレエ・メカニック』のスタイル
7 『ア・ムーヴィー』のスタイル
さらなる探究のために
第V部 映画の批評分析
第11章 映画批評――分析例
1 古典的物語映画
2 古典的映画に対するオルタナティヴの物語映画
3 ドキュメンタリーの形式とスタイル
4 形式、スタイル、そしてイデオロギー
さらなる探究のために
第VI部 映画史
第12章 映画形式と映画史
1 初期映画(1893-1903年)
2 古典的ハリウッド映画の発展(1908-27年)
3 ドイツ表現主義(1919-26年)
4 フランス印象主義とシュールリアリズム(1918-30年)
5 ソヴィエト・モンタージュ(1924-30年)
6 サウンド到来後の古典的ハリウッド映画
7 イタリア・ネオリアリズム(1942-51年)
8 フランスのヌーヴェル・ヴァーグ(1959-64年)
9 ニュー・ハリウッドと独立系映画製作
10 現代香港映画
さらなる探究のために
第VII部 映画を見るための手引き
第13章 映画の見方と書き方
1 映画を見る
2 映画について書く
用語集
用語集(英日対応表)
クレジット
訳者あとがき
索引