象徴機能と物象化 人間と社会の時代診断に向けて
価格:6,600円 (消費税:600円)
ISBN978-4-8329-6756-4 C3010
奥付の初版発行年月:2011年09月 / 発売日:2011年10月上旬
人間の社会において人間はなぜ人間としての地位を奪われるのか? 物象化の問題に挑むことで,本書はこの根本的な時代的問いの答えを探る。物象化に関する三つの問い。すなわち,物象化とは「何かWHAT」。物象化は「如何にHOW」生じるか。そして我々は「何故WHY」物象化から逃れられないのか。この三つの問いが我々の議論を導くことになる。代理母,解離性障害,全体主義言語などさまざまな物象化の場面を追いながら,物象化の一般的作動モデルとそこにおける象徴機能の働きを解明し,同時に他方でA.ホネットの議論をもとに非物象化の基準として人間学的な「原コミュニケーション」モデルを提示することで,最終的に物象化の理念型の構築を目指す。
見附 陽介(ミツケ ヨウスケ)
1979年 北海道広島町(現北広島市)に生まれる
2010年 北海道大学大学院文学研究科専門研究員・札幌大谷大学非常勤講師
主論文 「M.M.バフチンとS.キルケゴール―対話と実存について」『ロシア語ロシア文学研究』(2010),42:41-48.「疎外論の現在―「我有化(Aneignung)」モデルの可能性について」『理想』(2010),685:133-142.「M.M.バフチンの対話理論における人格とモノの概念―C.フランクとの比較の観点から」『スラブ研究』(2009),56:63-89.「アドルノにおける認識批判と社会批判―同一性批判の社会哲学的展開について」『倫理学年報』(2009),58:217-230.「A.ホネットの物象化論―その可能性と限界について」『社会思想史研究』(2008),32:140-157.など
目次
序 章
第一節 主題設定
第二節 本論の構成
第一部 物象化のいくつかの類型
第一章 人間の物象化
第一節 人間の商品化/道具化
一 レイディンの議論
二 売春、子売り、代理母に関するレイディンの分析
三 ヌスバウムの議論
四 売春に関するヌスバウムの分析
まとめ
補論││物象化論の境界としてのヒト胚の問題
第二節 症候的物象化
一 反精神医学の方法論
二 根源的な存在論的不安
三 「呑み込み・内破」と「石化・離人化」
四 自己の物象化
五 虚定的な自己
まとめ
第二章 社会的関係の物象化
第一節 社会の物象化
一 マルクスの商品フェティシズム論
二 バーガー/ルックマンの社会構成主義的な物象化論
三 言語の構成作用と「知識」
四 個人の社会化
五 個人と社会の弁証法的関係
まとめ
第二節 記号の物象化
一 言語の信号化と全体主義言語
二 思考の機械化
三 対話性の封殺││バフチンの言語論的物象化論
四 権威主義的な言葉
五 中心化と脱中心化
六 中心化された言語
まとめ
第二部 物象化の理念型
第一章 原コミュニケーション(Urkommunikation)││非物象化の人間学的モデル
第一節 ホネットの物象化論
一 ホネット物象化論の概要
二 承認の忘却としての物象化
三 自己物象化
まとめ
第二節 実存哲学的基底││承認、我-汝、ケア
一 メルロ=ポンティおよびカッシーラーとの比較
二 ブーバーの我-汝論との比較可能性
三 ケアに関する議論との比較
まとめ
第三節 ホネット物象化論の可能性と限界
一 原コミュニケーションと症候的物象化
二 原コミュニケーションと人間の商品化/道具化
三 脱人格化/物件化
四 ホネットへの批判││脱人格化/物件化と承認について
第二章 機械としての社会││物象化の社会的モデル
第一節 ルカーチの物象化論││「機械化」と「比喩としての機械化」
一 計算可能性
二 テイラー・システム
三 機械化と物象化
四 比喩としての機械化
五 物件化-合理化
まとめ
第二節 役割行為と制度的物象化││廣松渉の役割存在論によせて
一 廣松渉の役割理論
二 廣松渉の制度的物象化論
まとめ
補論││身体の機能化
第二章のまとめ
第三章 モノローグと距離化││物象化の記号的モデル
第一節 バフチンの物象化論
一 バフチンの対話理論における人格とモノの概念
二 バフチンの対話理論における存在論的前提
三 関与と責任
四 初期美学のモノローグ性
五 モノローグ的外在性とディアローグ的外在性
六 人格の内的な未完結性
七 ディアローグとモノローグ
第二節 象徴的距離化││眼差しと戦争について
一 疾患と病い
二 ナラティヴの構成
補論││ナラティヴとケア
三 空間的距離化と象徴的距離化
まとめ
第三章のまとめ
第四章 象徴機能と物象化
第一節 アドルノの同一性批判││社会的モデルと記号的モデルをつなぐ同一化原理について
一 アドルノの言語論的物象化論
二 認識批判と社会批判
三 機能連関としての社会
まとめ
補論││コンステラツィオンについて
第二節 象徴的受胎││同一化と象徴機能について
一 『象徴形式の哲学』の全体像
二 分節化と同一性の成立
三 象徴的受胎
四 音声の記号的理解に関する音韻論の議論
五 音素の具現
補論││構造音韻論の物理的実装
まとめ
第三節 物象化の理念型
一 象徴機能の二つの使用
二 「nomothetisch」と「idiographisch」
三 社会的同一化
四 「みなし」と「扱い」
五 選択の圧力
六 物象化の偏差
結論 我々はなぜ物象化から逃れられないのか
一 支配の記号
二 認識と支配をめぐる解釈
三 社会と支配をめぐる解釈
四 我々はなぜ物象化から逃れられないのか
あとがき
参考文献一覧
事項索引