無生物主語他動詞文の日中対照研究 大規模均衡コーパスと多変量解析を用いた新たなアプローチ
価格:2,090円 (消費税:190円)
ISBN978-4-87354-787-9 C3080
奥付の初版発行年月:2024年11月 / 発売日:2024年11月上旬
本書は、日本語と中国語における無生物主語他動詞文の成立要因を解明するための研究である。従来の研究では、角田太作による名詞重視のアプローチ(名詞句階層説)や熊鶯による動詞重視のアプローチ(他動性説)など、名詞と動詞を個別に分析する方法が主流であったが、本書では従来の分析手法とは一線を画し、「連語論的アプローチ」を採用し、これまであまり注目されてこなかった名詞と動詞の組み合わせに焦点を当てている。また、無生物主語他動詞文の文レベルと文章レベルでの成立要因を明確に区別し、それぞれを多角的に分析している。特に文章レベルでは、文脈展開と表現効果の二つの側面からアプローチし、先行研究よりも詳細な分析を行うことで、文の成立を左右する要素を新たな視点から考察していることに成功している。
本書の方法論においては、特にコレスポンデンス分析やロジスティック回帰分析などの多変量解析という統計的手法を駆使しており、内省的な分析では捉えにくい規則性を明らかにしていることが特徴である。これにより、文法の抽象的な概念を客観的かつ直感的に理解・記述することが可能となり、日本語と中国語の文法研究に新たな可能性を提供している。
さらに、本書では従来の対照研究における問題点を指摘し、それを解決するための新しい研究手法を提案している。従来の対訳コーパスや内省を用いる方法では、用例の偏りや訳者のバイアスによる課題が指摘されていたが、本書で採用されている手法では、言語使用の実態にもとづく大規模コーパスを利用し、言語間の根本的な違いを体系的に観察することができる。この点は、ビッグデータやAIの技術が進展する現代において、今後の言語研究に大きな意義を持つと言えるだろう。
この学術書は、大規模コーパスにもとづく実証的な記述方法と、多変量解析を中心とする計量的な分析方法を駆使し、複雑な言語現象の背後にあるパターンを解明し、理論と実証の両面から強固な結論を導き出している。日本語と中国語の無生物主語他動詞文の成立要因に光を当てるだけでなく、対照研究全般における新しい研究手法と理論の可能性も提示している。無生物主語他動詞文の研究における新たな基準を設定し、将来の研究においても重要な指針となるだろう。日本語学や中国語学、さらには一般言語学の学者だけでなく、言語の普遍的な特性に興味を持つすべての読者にとっても価値ある一冊である。特に、文系の研究者にとって馴染みの薄い統計的手法及びその解釈の仕方が参考になるだろう。
麻 子軒(マ シケン)
台湾生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。
関西学院大学日本語教育センター非常勤講師などを経て、現在、関西大学国際部国際教育センター特任常勤講師。
専門分野はコーパス言語学、日本語学、日本語教育学。主に日本語と中国語の大規模コーパスを統計的アプローチで解析し、日中言語間の異同を考察した上で、その知見を日本語教育に応用する研究をしている。
また、近年はゲームコーパスの構築や学習用ロールプレイングゲーム(RPG)の制作など、ゲームを日本語教育に活かす研究にも取り組んでいる。
著作・論文に「一対比較法による日本語名詞句階層の測定」(『現代日本語研究』10, 2018)、「計量的アプローチによる役割語の分類と抽出の試み―テレビゲーム『ドラゴンクエスト3』を例に―」(『計量国語学』32(2), 2019)、「テレビゲームコーパスの構築とその利活用」(『言語資源ワークショップ発表論文集』, 2022)など。
ホームページ:https://kenjima.net/
麻 子軒(マ シケン)
台湾生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。
関西学院大学日本語教育センター非常勤講師などを経て、現在、関西大学国際部国際教育センター特任常勤講師。
専門分野はコーパス言語学、日本語学、日本語教育学。主に日本語と中国語の大規模コーパスを統計的アプローチで解析し、日中言語間の異同を考察した上で、その知見を日本語教育に応用する研究をしている。
また、近年はゲームコーパスの構築や学習用ロールプレイングゲーム(RPG)の制作など、ゲームを日本語教育に活かす研究にも取り組んでいる。
著作・論文に「一対比較法による日本語名詞句階層の測定」(『現代日本語研究』10, 2018)、「計量的アプローチによる役割語の分類と抽出の試み―テレビゲーム『ドラゴンクエスト3』を例に―」(『計量国語学』32(2), 2019)、「テレビゲームコーパスの構築とその利活用」(『言語資源ワークショップ発表論文集』, 2022)など。
ホームページ:https://kenjima.net/
目次
まえがき
第一部 序論
第1章 研究の背景と概要
1 研究動機
2 研究目的
3 研究対象
4 調査資料
5 用語規定
6 本書の構成
第2章 先行研究
1 研究の概観
2 文レベルの成立要因
2.1 名詞句階層説
2.2 他動性説
3 文章レベルの成立要因
4 本書の立場
5 その他の問題点
第3章 調査の概要
1 調査対象の規定
1.1 日本語の場合
1.2 中国語の場合
2 調査資料の選定
2.1 日本語の場合
2.2 中国語の場合
3 用例の抽出方法
3.1 日本語の場合
3.2 中国語の場合
第二部 文レベルの成立要因
第4章 理論の枠組み
1 連語論的アプローチ
2 連語論の適用範囲
3 対格名詞のタイプ
4 対格名詞が物名詞の場合
4.1 主格名詞のタイプ
4.2 動詞のタイプ
5 対格名詞が事名詞の場合
5.1 主格名詞のタイプ
5.2 動詞のタイプ
6 対格名詞が人名詞の場合
6.1 主格名詞のタイプ
6.2 動詞のタイプ
第5章 対格名詞が物名詞の場合
1 集計結果
2 動詞に対する要因分析
2.1 日本語の軸
2.2 中国語の軸
3 主格名詞別に見る結合傾向
3.1 自然自律によるもの
3.2 物質自律によるもの
3.3 機械自律と機械他律によるもの
3.4 身体自律と身体他律によるもの
3.5 植物自律によるもの
3.6 道具他律によるもの
4 まとめ
第6章 対格名詞が事名詞の場合
1 集計結果
2 動詞に対する要因分析
2.1 日本語の軸
2.2 中国語の軸
3 主格名詞別に見る結合傾向
3.1 具体物によるもの
3.2 抽象的関係によるもの
3.3 人間活動によるもの
4 まとめ
第7章 対格名詞が人名詞の場合
1 集計結果
2 動詞に対する要因分析
2.1 日本語の軸
2.2 中国語の軸
3 主格名詞別に見る結合傾向
3.1 具体物によるもの
3.2 抽象的関係によるもの
3.3 人間活動によるもの
4 まとめ
第8章 その他の構文に関して
1 静的描写を表す動詞によるもの
2 機能動詞またはそれに相当する動詞によるもの
3 所有動詞・心理動詞によるもの
第三部 文章レベルの成立要因
第9章 文章レベルの要因の検討
1 先行研究の問題点
2 文脈展開機能によるもの
2.1 視点統一
2.2 焦点化
2.3 連鎖事象
2.4 列挙
3 表現効果によるもの
3.1 行為者不在
3.2 行為者特定困難
3.3 行為者不特定多数
3.4 行為者意図性なし
3.5 臨場感演出
4 まとめ
第10章 ロジスティック回帰分析による日中比較
1 ロジスティック回帰分析
2 分析データ
3 変数の設定
4 分析結果と解釈
4.1 日本語の場合
4.2 中国語の場合
5 まとめ
第四部 結論
第11章 結論
1 本書のまとめ
1.1 文レベルの成立要因
1.2 文章レベルの成立要因
2 今後の課題
あとがき
参考文献
用例出典
索引