地域研究叢書25
草の根グローバリゼーション 世界遺産棚田村の文化実践と生活戦略
価格:5,280円 (消費税:480円)
ISBN978-4-87698-249-3 C3339
奥付の初版発行年月:2013年01月 / 発売日:2013年01月中旬
フィリピン,ルソンの山また山の奥,世界遺産の棚田の広がるイフガオ族の村。その僅か千人余りの村から,いま数百人が世界に旅立っている。グローバリゼーションの波に翻弄される日本とは裏腹に,市場経済をしたたかに飼い慣らす先住民。その生活の細部までを描く参与型の民族誌は,「地域で生きる」新しい戦略を教えてくれる。
清水 展(シミズ ヒロム)
京都大学東南アジア研究所教授.
専攻:文化人類学,東南アジア地域研究.
東京大学教養学部卒,東京大学大学院社会科学研究科博士課程退学.社会学博士.東京大学助手(教養学部,東洋文化研究所),九州大学助教授(教養部),九州大学教授(大学院比較社会文化研究院)を経て現職.2010年より,京都大学東南アジア研究所所長.
主要著作
「自然災害と社会のリジリエンシー(柔軟対応力)—ピナトゥボ山大噴火(1991)の事例から「創造的復興」を考える」佐藤孝宏・和田泰三・杉原薫・峯陽一編『生存基盤指数—人間開発指数を超えて』(講座生存基盤論5,京都大学学術出版会,2012年),「アメリカの磁場のなかの自己形成:山口百恵と小泉元首相をとおしてみるヨコスカと戦後日本のねじれ」藤原帰一・ 永野善子編『アメリカの影のもとで—日本とフィリピン』(法政大学出版会,2011年),「辺境から中心を撃つ礫—アフガニスタン難民の生存を支援する中村医師とペシャワール会の実践」松本常彦・大島明秀編『〈九州〉という思想—九州スタディーズの試み』(花書院,2007年),『噴火のこだま—ピナトゥボ・アエタの被災と新生をめぐる文化・開発・NGO』(九州大学出版会,2003年),The Orphans of Pinatubo: AytaStruggle for Existence (Solidaridad Publishing House, 2001).
目次
口絵
第1章 北ルソンの山奥でグローバル化を見る・考える——応答する人類学の試み
1 山奥でグローバル化に対峙・便乗する二人の男——そこに巻き込まれ、深く関わる人類学者
2 グローバルとローカルが接合する人類史
3 山奥から見えるグローバル化の風景
第1部 地域と世界を結びなおす企て
第2章 過去を未来へ反転させる意味付与の実践——村の植林運動家ロペス・ナウヤックの「グローバル」な眼差し
1 バギオでの成功と故郷への帰還
2 インタビュー——ナウヤック自身の語りに耳を傾けよう
3 意味を付与する実践——過去を未来へ反転させる企て
4 グローバル化のなかの陣地防衛戦と散開出撃戦
第3章 「地球一周の旅」のあとで——映画監督キッドラット・タヒミックの自己解体・再構築
1 植民地支配の桎梏
2 はじめて地球を一周した男
3 アメリカ式教育の優等生
4 魂の脱植民地化を目指した学び直し
5 原住民として生きること
6 旅する映画、あるいは文化批評としての戦略的ナイーブ映画
7 政治戦略としてのナイーブさ
第4章 表象のポリティクス——文化を資源化する企て
1 歴史の想起
2 『虹のアルバム』(1981—1994)——激動の同時代を写し取る家族ドキュメンタリー
3 文化のアリーナにおける日常的抵抗・交渉
4 イフガオ文化への憧憬、あるいはバギオからハパオ村に続く道
5 文化を資源として捉える
6 二重の矛盾と相克の中で
第2部 グローバリゼーションと対峙した五〇〇年
第5章 イフガオの生活世界——人類学者と共産ゲリラを惹きつける魅力
1 イフガオの民族誌とその問題点
2 ハパオ村の現在
3 共産党=新人民軍の実効支配が続いた二〇年
4 おわりに
第6章 辺境でグローバル・パワーと対峙する——スペイン、アメリカ、日本の侵入とイフガオの抵抗・逃散
1 スペインによる懲罰遠征と平定作戦への抵抗
2 アメリカによる懐柔策の成功
3 アジア太平洋戦争の主戦場フィリピンと山下将軍
4 イフガオ地域への日本軍の敗走
5 戦争の記憶
6 おわりに
第3部 グローバリゼーションを飼い慣らす
第7章 森の恵みに生きる人々——棚田と木彫り工芸
1 森と棚田のエコ・システム
2 ピヌゴの森と土地所有のシステム
3 現金収入源としての木彫り工芸
4 おわりに
第8章 山奥からの海外出稼ぎと伝統の復活——翼を持つこと、根を張ること
1 海外出稼ぎ者の素描
2 トゥゴ祭の復活
3 広く枝を張り深く根を下ろす生き方とそれを支えるシステム
第4部 草の根のグローバリゼーション
第9章 「山奥どうし」の国際協力——巻き込まれから参与する人類学へ
1 開発の戦略と森林管理の政策
2 イフガオにおける開発を描いた三つの民族誌
3 ピナトゥボ山の大噴火(一九九一)と葛を用いた町おこし
4 私自身の関与——ピナトゥボからイフガオへ
5 ナウヤックの初期の活動、あるいは事前の準備
6 日本からの活動支援の功罪
7 JICAの草の根協力事業
8 おわりに——住民主導の社会開発に向けて
第10章 草の根の実践と希望——グローバル時代の地域ネットワークの再編
1 宇宙船地球号イメージ
2 共有地の悲劇、あるいは成長の限界
3 暗い未来に抗して
4 グローバル化と地域社会
5 「グローカル」な生活世界
6 遠隔地環境主義の鍛え直し
7 おわりに
参考文献
あとがき
索 引