啓蒙と社会 文明観の変容
価格:6,380円 (消費税:580円)
ISBN978-4-87698-557-9 C3030
奥付の初版発行年月:2011年03月 / 発売日:2011年03月下旬
人間社会をふさわしく形づくる文明とは何か?現代社会においても今なお普遍的なこの問いは,近代西洋において,その視座を空間的把握から時間的把握へとするどく転換した。この問いに対し,水田洋は「伝記的思想史」を構想し,個々の背景と文脈への理解を重視する思想史学を追究した。その手法を体得した思想史家らによる練達の論集。
佐々木 武(ササキ タケシ)
東京医科歯科大学名誉教授。研究テーマ:近代初期英国(イングランド,スコットランド,北米英領植民地,アイルランド)政治思想史。
主要業績:共著『主権国家と啓蒙【講座「世界史」16】』(岩波書店,1999年)。共著『アメリカ独立革命』(東京大学出版会,1982年)。共訳,シェルドン・ウォーリン『政治とヴィジョン』(福村出版,2007年)。
田中 秀夫(タナカ ヒデオ)
京都大学大学院経済学研究科教授。研究テーマ:啓蒙と経済学の形成。
主要業績:『啓蒙と改革 ジョン・ミラー研究』(名古屋大学出版会,1999年)。『共和主義の思想空間』(共編著,名古屋大学出版会,2006年)。『啓蒙のエピステーメーと経済学の生誕』(編著,京都大学学術出版会,2008年)。The Rise of Political Economy in the Scottish Enlightenment, eds. by T. Sakamoto and H. Tanaka, Routledge, 2003. D. ヒューム『政治論集』(訳,京都大学学術出版会,2010年)。J.G.A.ポーコック『マキァヴェリアン・モーメント』(共訳,名古屋大学出版会,2008年)。H.ディキンスン『自由と所有』(監訳,ナカニシヤ出版,2006年)。その他。
目次
はしがき
第Ⅰ部 初期啓蒙の諸問題
第1章 「問題」としてのアイルランド—その'nature and origins'を求めて [佐々木武]
はじめに—"The Irish problem is the English problem."
第一節 「問題」の限定
第二節 「デイヴィス問題」
第三節 「アイルランドの実情」一六〇〇年
第四節 「モリヌゥ問題」
エピローグ 「アイルランドの対話」—Lodowick Bryskett, A Discourse of Civil Life(1606)に寄せて
第2章 ジョン・ロックの教会論—エドワード・スティリングフリート論をもとに [山田園子]
はじめに
第一節 ロックとスティリングフリート—研究史
第二節 スティリングフリートの教会論概要
第三節 ロックのスティリングフリート論
(1)教会の本質
(2)国教会の存在と非国教徒の分離
(3)寛容と包容
(4)聖職者・教会と王・世俗為政者
おわりに
第3章 カーマイケルの思想形成をめぐる一断面—『倫理学講義』と『義務論』の二つの注釈版から見えてくるもの [前田俊文]
はじめに
第一節 なぜプーフェンドルフが選ばれたのか
第二節 『倫理学講義』と『義務論』注釈版のつながりについて
第三節 ライプニッツ・インパクトと第二版の改訂について
おわりに
第4章 フレッチャーにおける「国民的政治共同体」と国際世界—「ダヴナント的慎慮」から「新たな市民的美徳」へ [村松茂美]
はじめに
第一節 一七世紀における「国家的利益」をめぐる言説—ロアンとテンプル
第二節 スペインの復興と海洋帝国
(1)『スペイン論』の意図
(2)スペイン衰退の原因と復興案
(3)世界帝国への道
(4)「軍人的精神」、「インダストリ精神」および「名誉心」
第三節 「真実の利益」とヨーロッパ連邦構想
むすびにかえて
第5章 経済学の起源とピエール・ニコル—ボワギルベールとの関連で [米田昇平]
第一節 ニコルにおける人間と社会
第二節 自己愛の自己抑制と礼節
第三節 政治的秩序と神慮
第四節 ニコルからボワギルベールへ—むすびに代えて
第Ⅱ部 スコットランド啓蒙
第6章 スコットランド啓蒙における「徳性の涵養」と「精神の解剖」 [篠原 久]
第一節 「穏健派」と「民衆派」
第二節 「二号雑誌」としての『エディンバラ評論』
第三節 ヒュームと「福音派」
第7章 ハチスン『探求』におけるニュートン的方法の問題 [只腰親和]
本章の課題
第一節 道徳学的ニュートン主義への接近法
第二節 目的因の科学方法論的意義
第三節 『探求』におけるニュートン的方法の特徴
第四節 勤労論とニュートン的方法
むすび
第8章 いわゆる「初期覚え書き」とヒューム経済思想の形成 [坂本達哉]
第一節 問題の所在と研究史
第二節 ステュアート説の画期的意義となお残る問題点
第三節 「一七四〇年代後半説」の提示
第四節 ヒューム経済論の成立過程
第五節 ヒュームとウォレス—結びにかえて
第9章 『道徳感情論』における徳の政治学 [渡辺恵一]
問題提起
第一節 「信義」問題とスミスの市民像
第二節 義務論と有徳論
第三節 「商業社会」における徳の政治学
第四節 『道徳感情論』徳性論の古典的枠組みと「同感」倫理学の展開
第10章 D・ヒュームとA・スミスの社会契約論批判と統治原理論 [新村 聡]
はじめに
第一節 D・ヒュームの社会契約論批判と統治原理論の発展
(1)『人間本性論』の統治原理論
(2)『道徳政治論集』「統治の第一原理」の統治原理論
第二節 A・スミスの社会契約論批判と権威原理論の発展
(1)社会契約論から市民社会史論へ
(2)ルソー『不平等起源論』の社会契約論批判
(3)『法学講義』Aノートの権威原理論
(4)権威原理による抵抗権の正当化
(5)AノートからBノートへ
(6)『法学講義』Bノートの権威原理論
(7)『国富論』の権威原理論
第三節 A・スミスの効用原理論の発展
(1)社会契約論とヒュームの統治効用論
(2)『法学講義』の効用原理論
(3)『国富論』の効用原理論
むすび
第Ⅲ部 ヨーロッパ、アメリカ、日本の啓蒙
第11章 アメリカの啓蒙と国民の鍛造—ベンジャミン・ラッシュの苦闘 [田中秀夫]
第一節 ラッシュの旅—エディンバラからロンドン
第二節 急進派との出会い—ロンドンからパリ
第三節 奴隷制批判、アメリカ独立、監獄改革
第四節 教育論—アメリカにエディンバラ大学を
第12章 スミスを読むフランス—コンドルセとコンスタンの系譜 [安藤隆穂]
はじめに
第一節 スミスとコンドルセ
第二節 スミスとコンスタン
むすび
第13章 啓蒙の南限—ジェノヴェージ〈市民の経済〉の生成 [奥田 敬]
第一節 〈エコノミーア・チヴィーレ〉の現在
第二節 〈商業の歴史〉から〈市民の経済〉へ
第三節 「勤労」の展開としての「生計」の変遷
第四節 〈調整者としての君主〉
第五節 〈相互的扶助〉と〈公共の信義〉
第六節 〈巨富〉の末路、あるいは〈帝国〉への挽歌
第14章 ユストゥス・メーザーにおける啓蒙と啓蒙批判 [原田哲史]
第一節 出口勇蔵の視座から
第二節 小林昇のリスト研究を手掛りに
第三節 ロッシャーの叙述から 379
(1)多様性論、ならびにモンテスキューへの賛意とヴォルテールへの批判
(2)古代ギリシアの都市共和国と近代的な商工業
むすび
第15章 明治啓蒙における経済思想の展開—福沢諭吉を中心に [生越利昭]
第一節 「明治啓蒙」とは何か
第二節 「啓蒙」の特質
第三節 「明治啓蒙」の特質
第四節 福沢諭吉の啓蒙思想
(1)公智公徳の形成
(2)独立自尊と経済的独立
(3)「実学」の必要性
(4)エリート主義
(5)福沢における「自主独立」と「文明開化」の問題
第五節 福沢諭吉の経済思想
(1)保護主義と自由主義の併存の問題
(2)実業の担い手
(3)経済人の条件
(4)資本形成の問題
(5)労働の問題
あとがき
人名索引
事項索引