〈私〉の誕生 生後2年目の奇跡Ⅰ 自分を指差す,自分の名を言う
価格:5,280円 (消費税:480円)
ISBN978-4-13-011146-1 C3011
奥付の初版発行年月:2020年04月 / 発売日:2020年04月下旬
1歳代の子どもが,自らを語る「ことば」を獲得し,それを媒介に周辺の人々やものにかかわり始め,一個のペルソナが生まれてくるまでの過程を,日誌観察法によりつぶさに描き出す.第一分冊では「自分の名前」がいつから一人称とみなせるかをテーマに「自己」の発達を論じる.
麻生 武(アソオ タケシ)
奈良女子大学名誉教授
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
I 自分を指差す,自分の名を言う
序 章 「自分」とは何か?
1.「私」という一人称の不確かさ
(1)日本語の一人称
(2)英語の主語の一人称は必要なのか
(3)「私は私だ」という巨大な“錯覚”
2.「I」や「you」という人称代名詞の背後にあるもの
(1)一人称代名詞を用いる難しさ
(2)自分の名をいつまでも自称詞に用いることは幼いことか
(3)欧米の一人称・二人称と対話の場の成立
(4)「I」や「you」を使えることはそんなにすごいことか
3.自分の名前という不思議
(1)人称語は呼びかけから発生するのか
(2)「呼びかけ」と「名指し(名前を言う)」
(3)人物の名前とは何か
①第三者への名指し
②第一者(自分自身)への名指し
③第二者(子ども)への名指し
(4)人物の名前は固有名詞なのか普通名詞なのか
①「ダディ」とは誰か
②固有名詞の理解
(5)自分の名前とは何か
①名前を持たない人たち
②個人のアイデンティティを大切にする一神教
③「自分の名前」という手形
第1章 生後1年目,「身ぶりからことばへ」
1.乳幼児の日誌的な観察
2.日々の生活における子どもの観察
(1)本研究の観察の目的
(2)観察の対象
(3)観察の方法
(4)観察データの分析方法
3.長男Uの生後1年目の達成
(1)「共同化された対象世界」の出現
①「共同化された“人”的存在」
②突然の出来事を「共同化された事象」にする力
③ツツジの花を指差し,笑い声を出し,父親を見る
(2)「自己」を「他者」と同型的な存在として組織化
①仕草の模倣
②道具の理解
(3)「他者」と並ぼうとする「自己」の欲望の出現
4.生後1年目に関する理論的な留意点
(1)「模倣」をどのようにとらえるか
①コミュニケーションとしての模倣
②他者の行為意図を理解するための模倣
③身体所作の模倣の重要性
(2)「身体」をどのようにとらえるのか
第2章 ことばの世界へ
1.アイコン・インデックスとしてのことば
(1)記号(サイン)をどのようにとらえるのか
(2)Uにとって父親とはいかなる存在か,その多面的な関係性
①一瞬前の体験を共有する相手としての父親
②母親と話題にする対象としての父親
③意図を確認する相手としての父親
④保持される父親の意図
⑤鍵をドアと関連づけ,またその所有者である父親とも関連づける
⑥父親の見つめているモノを確認する指差し
⑦一緒のことにして楽しめる遊び相手としての父親
⑧父親がUに注意をすることを催促?――禁止の内面化
⑨まとめ――Uにとって父親とはどのような存在か
(3)やりとりの不連続的な連鎖
2.投機とグラウンディングを通じてのコミュニケーション
(1)投機とグラウンディング
(2)異なる意志を持つ他者(父親)
3.ことばとしての身体
(1)ことばとして機能し始めるUの身体
(2)他者の同型的な身体図式の形成
(3)自他の身体を結びつける写真やことば(音声言語)
(4)身ぶりと発声でのやりとり
〈まとめ〉
第3章 人称的世界へ
1.父親や母親に対する人称詞の獲得
(1)父親や母親に対する呼びかけ
(2)なぜ父母を「名指す名前」の習得には時間がかかるのか
(3)「お父ちゃん」「お母ちゃん」の言語理解
(4)「トータン」「タータン」といった名前の習得
(5)人称詞「トータン」の獲得プロセスのまとめ
2.自分の名前の獲得
(1)自分の名前が分かるとはどういうことか
(2)なぜ子どもは自分の名前を自分で口にするようになるのか
①「投機的な振る舞い」としての「自分の名」を発する
②「自分の名前」と分かって「自分の名前」が言えるようになる
3.自己と他者とのつながりと駆け引き
(1)自己と他者とのつながりを生きる
①「姿勢・態度を写す模倣」と「模倣の意識化」
②他者の身体運動を模倣する
③受動―能動反転模倣
(2)他者への共感・物語の理解
①絵本の理解
②絵本理解における二つの視点(当事者視点と第三者視点)
③他児への共感
(3)その他の発達について
①表現する力の発達
②交換条件の理解と行動の抑制
③首の横振りと自己主張
〈まとめ〉
第4章 人称的世界の開花I:「自分の名前」と自己意識
1.自分の名前の獲得
(1)「自分の名」を言うことはどのような行為か
①綿巻による「自分を表す語」の分析
②本書の自称詞の分析(分類)カテゴリー
(2)自称詞の爆発的増加
①1歳6ヵ月代の自称詞の用い方
②1歳7ヵ月代の自称詞の用い方
③1歳8ヵ月代の自称詞の用い方
2.「自分の名」が一人称になるのはいつか
(1)自称詞による「プラン宣言」発話
(2)自称詞による「行為者同定」発話
(3)自称詞による「所有主張」発話
3.鏡を通じての新しい自己意識
(1)自己の鏡像理解(先行研究から)
①子どもはいつ頃鏡の自己像を理解できるようになるのか
②鏡の「マーク課題」を通過できることは何を意味しているのか
(2)自己の鏡像理解(Uの日誌データから)
①鏡の前で「Uちゃんどこ?」
②鏡の前で「あれは誰?」
③新しい服を着せると鏡を見に行きたがる
④「マーク課題」について
〈まとめ〉
第5章 人称的世界の開花II:広がる内界と外界
1.広がる自己の世界
(1)内的状態の表現への歩み
(2)「延長された自己」をめぐる議論
①ことばに先立つ「自伝的自己」
②ことばの後に生まれる「自伝的自己」
③エピソード記憶と「延長された自己」
(3)Uの「延長された体験生活」
①ワーキング・メモリ(作業記憶)の拡大
②出来事の記憶をめぐる会話
③エピソード記憶らしきものの出現
2.広がる他者との世界(対人意識の発達)
(1)操られ主体として立ち上がってくる人形
①ライバルとしての人形(ぬいぐるみ)
②人形を行為の主体として操る
③人形の一人称「ボク」ということばの出現
(2)役割の逆転,受け身の立場から能動的立場へ
(3)親に指示し,「コウ,コウ」と手本を示せるまでに
(4)反抗できる力,拒否できる力
①「トータンは?」「タータンは?」と聞き返す
②「アカン」を他者に対して拒否(禁止)として用いる
③「こっち」と言えば「あっち」と自分の意思を主張
〈まとめ〉
第6章 新たな「自己」の出現(1歳9ヶ月代~1歳10ヶ月代)
1.自称詞の展開
(1)Uの自称詞
①1歳9ヶ月代の自称詞の用い方
②1歳10ヶ月代の自称詞の用い方
③1歳11ヶ月代の自称詞の用い方
(2)人形の自称詞「ボク」
①1歳9ヶ月代の「ボク」の用い方
②1歳10ヶ月代の「ボク」の用い方
③1歳11ヶ月代の「ボク」の用い方
2.象徴能力の出現,イメージ世界の展開
(1)象徴能力
(2)広がる仮想世界
①「ナイ」という意識
②内的状態をどう表現するか
③絵本の登場人物の立場を理解する
3.自己と時間
(1)自己の対象化と自己意識
①「ココ」と「ムコウ」など(1歳9ヶ月代)
②「ジブン(自分)」「トイ(一人)」など(1歳10ヶ月代)
(2)時間意識と自己意識
①過去と自己(1歳9ヶ月代)
②過去と自己(1歳10ヶ月代)
(3)自我の出現・反抗期の始まり?
〈まとめ〉
The Emergence of ‟I”, the Miracle in the Second Year of Life, I:
Pointing to One's Self, Uttering One's Own Name
Takeshi ASAO