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数値電界計算の基礎と応用

理工学講座
数値電界計算の基礎と応用

A5判 300ページ 上製
価格:4,290円 (消費税:390円)
ISBN978-4-501-11310-0(4-501-11310-3) C3054
奥付の初版発行年月:2006年09月 / 発売日:2006年09月中旬

内容紹介

最新の計算テクニックを取り入れた一冊

前書きなど

 計算機と計算手法の発展によって数値的な電界計算法は画期的な進展を遂げた。電界計算の基本式であるラプラスの式が見出された1782年から約220年経た現在,非常に複雑な三次元の配置でも高精度で詳細な電界が求められるようになった。その結果,絶縁設計,放電応用,静電気工学,電気環境など電気を利用するさまざまな分野で,定量的に電界を求めることが必須のテクニックとなり,高性能,高能率,小型化,などの要求から最近いっそう重要になっている。電界計算は,一般的な電磁波計算あるいは磁界の計算と相当異なり,多くの場合最大の電界を高精度で求めることが必要である。そのため,電界計算特有の方法が利用されるとともに,計算機性能の向上に応じて新しい技法が開発されてきた。
 筆者の1人が昭和55年(1980年)に著した旧著『数値電界計算法』(コロナ社)は,数値的な電界計算法の基礎から種々の場の具体的な計算法をできるだけ分かりやすく解説して,だれでもが使える道具にするように企図したものであった。実際に数値電界計算法の開発時期に自ら行った計算体験をベースにし,ほとんどが自分の計算例を使用した内容であった。旧著は各分野での数値電界計算に対する必要性を満たす書として歓迎され,中国語でも翻訳出版された。しかし,その後絶版となり,また基本的な手法は変わらないものの,より高度な計算を可能にするテクニックも導入されて内容の一部が古くなった。そこで旧著の内容を全面的に見直し,新しい事項を含めて書き直したのが本書である。この四半世紀の間に,以前は大型計算機を必要とした数値電界計算が,個人が自由に使えるパーソナルコンピュータ(PC)利用技術へと進化し,またさまざまなプログラム(ソフトウェア)をネットワークから取得できる時代となった。しかしながら,ややもすると複雑なプログラムをいわばブラックボックスとして盲信して使用することが多いのも事実である。
 本書は電界計算のみを対象とし,関連の深い磁界計算は扱わない。また周波数の高い電磁波(電波)の計算も範囲外である。いわば比較的低周波の電界の計算だけを説明している。その理由は書中でも説明しているが,電界分布を高精度で求めるための手法とその応用を説明した本であり,それは磁界や電磁波の計算と異なることである。この点が本書の第一の特徴である。第二の特徴は,先に述べたような情勢を背景に,プログラムの詳細よりも計算法の基礎や疑問点をできるだけていねいに説明していることである。
 本書の構成は,第Ⅰ部「各種の数値電界計算法」,第Ⅱ部「各種の場の計算法」,付録からなる。第Ⅰ部では計算法のもとになっているラプラスの式(ならびにポアソンの式)と境界条件から,もっぱら使用されている4種類の数値計算法を基礎的に解説した。4種類の方法とは,領域分割法に属する差分法と有限要素法,境界分割法に属する表面電荷法と電荷重畳法である。さらに,各方法の問題点,長所,短所を述べて比較するとともに,精度の評価方法や,4種類以外の計算法も説明した。さらに最近の新しい発展分野として,曲面形状表面電荷法と高速多重極法をそれぞれ独立した1章として解説した。第Ⅱ部は,第Ⅰ部に解説した計算法で,種々のより複雑な場の電界を計算する方法について説明した。取り上げた場は,複合誘電体,一様電界や既知の電界を含む配置,静電容量計算,静電誘導計算,一般三次元配置,表面導電性や体積導電性を含む配置,空間電荷を含む場合,直流イオン流場,最適形状設計,など多岐にわたる。
 先に述べたように,本書は旧著『数値電界計算法』(コロナ社)の新版に相当し,実際に共通する部分も多い。しかし今回旧著の内容を徹底的に見直して相当部分を書き直すとともに,新しい内容を含めた。そのために,旧著に記載していたいくつかの具体的な計算例や電荷重畳法のプログラムなどを割愛することになったが,その代わり計算法について解説した第Ⅰ部の各章には新たに演習問題を作成した。また付録には,本文に含めるにはいくらか詳細な内容やいささか複雑な式を取りまとめた。
 本書では,全体を通じてなるべく用語や記号を統一するように心がけた。※記号部分省略
 また電位,電界を求める空間を領域,領域を囲む周辺を境界,2種類の誘電体の境界を界面と呼ぶことにしている。
 本書の執筆は,5.6節特異点の処理,第9章曲面形状表面電荷法,第10章高速多重極法,を主に濱田が担当し,他の個所と全体の調整は主に宅間が担当した。なお第Ⅱ部にとりまとめた電界計算の応用は多方面にわたって多数の論文が存在し,重要な内容を記載した文献はできるだけ目を通して言及するように務めたが,不十分と思われる分野もある。たとえば放電シミュレーションなどはレビュー論文しか挙げていない。これらについてお詫びするとともに,今後のために読者からご指摘いただければ幸いである。
 最後に,電界に関するいるいろな問題について始終ご討論,ご指導いただき,旧著の共著者でもある河野照哉先生,ならびに参考文献の共著者としても挙がっている河本正氏,ブンチャイ・テチャアムナート(Boonchai Techaumnat)氏,ほか,電力中央研究所,京都大学の関係者,ならびに本書を出版するにあたりお世話になった東京電機大学出版局植村八潮氏,編集課吉田拓歩氏,京都大学東田紀子氏に心から感謝します。
 2006年7月 著者しるす


目次

第Ⅰ部 各種の数値電界計算法
 第1章 電界計算の方法
  1.1 解析的方法
  1.2 影像電荷法
  1.3 アナログ法(フィールドマッピング)
  1.4 磁界計算法との関係
 第2章 電界計算の基礎
  2.1 ラプラスの式
  2.2 境界条件
  2.3 境界条件と影像電荷
  2.4 時間的変化がある場合
  2.5 数値電界計算法の分類
 第3章 差分法
  3.1 計算法のあらまし
  3.2 テイラー級数式からの導出
  3.3 分割が等間隔でないときの式
  3.4 電位の方程式
  3.5 境界の処理方法
  3.6 計算上の問題点
 第4章 有限要素法
  4.1 計算法の基礎
  4.2 具体的な計算手順
  4.3 電位の方程式と電界
  4.4 回転対称場の場合
  4.5 重みつき残差法
  4.6 簡単な例
  4.7 精度向上の方法 — 高次式の利用
 第5章 表面電荷法
  5.1 計算法の基本
  5.2 平面要素と曲面要素
  5.3 二次元場の計算
  5.4 回転対称場の計算
  5.5 電荷(あるいは電荷密度)の式と電界
  5.6 特異点の処理
 第6章 電荷重畳法
  6.1 計算法の原理
  6.2 仮想電荷の電位,電界
  6.3 仮想電荷の方程式と電界
  6.4 簡単な例
  6.5 計算上の2,3の問題
  6.6 仮想電荷の種類
 第7章 電界計算法の比較と精度
  7.1 差分法と有限要素法の比較
  7.2 表面電荷法と電荷重畳法の比較
  7.3 計算法の比較表
  7.4 計算精度の評価
  7.5 領域分割法の計算誤差
  7.6 境界分割法の計算誤差
 第8章 その他の方法
  8.1 モンテカルロ法
  8.2 境界要素法
  8.3 コンビネーション法
  8.4 FDTD法とFI法
  8.5 SPFD法
 第9章 曲面形状表面電荷法
  9.1 曲面形状の表現
  9.2 面積分
  9.3 電荷密度の表現
  9.4 境界条件の表現方法
 第10章 高速多重極法
  10.1 ツリー法
  10.2 多重極展開と局所展開
  10.3 多重極展開係数の階層的計算
  10.4 距離の判定
  10.5 局所展開係数の階層的計算
  10.6 FMMによる相互作用計算
  10.7 表面電荷法への適用
  10.8 FMM−SCMの計算例
第Ⅱ部 各種の場の計算法
 第11章 複合誘電体の計算
  11.1 差分法による計算
  11.2 有限要素法による計算
  11.3 電荷重畳法による計算
  11.4 表面電荷法による計算
  11.5 誘電率が非常に異なるときの計算
  11.6 計算例 — 三重点効果
 第12章 対称的配置、周期的配置,一様電界,既知電界の計算
  12.1 対称的配置,周期的配置の計算
  12.2 一様電界,既知電界を含む計算
  12.3 計算例
 第13章 静電容量の計算
  13.1 静電容量の基礎式
  13.2 境界分割法による計算
  13.3 領域分割法による計算
  13.4 複合誘電体における問題点
 第14章 静電容量の計算
  14.1 接地導体への静電誘導
  14.2 絶縁された(浮遊)導体への静電誘導 —境界分割法による計算
  14.3 絶縁された(浮遊)導体への静電誘導 —領域分割法による計算
  14.4 複素仮想電荷法
  14.5 複合誘電体場の浮遊電位計算
 第15章 一般三次元配置の計算
  15.1 一般三次元配置の計算の問題点
  15.2 領域分割法による計算
  15.3 電荷重畳法による計算
  15.4 表面電荷法による計算
  15.5 三角形表面電荷法
  15.6 計算例
 第16章 導電率を含む計算
  16.1 計算の基礎
  16.2 差分法による計算
  16.3 有限要素法による計算
  16.4 電荷重畳法による体積抵抗を含む計算
  16.5 電荷重畳法による表面抵抗を含む計算
  16.6 抵抗値が電界に依存する場合
  16.7 浮遊電位の計算
  16.8 数値計算との比較に用いられる配置
 第17章 空間電荷がある場合の計算
  17.1 空間電荷を含む計算の問題点
  17.2 領域分割法による計算
  17.3 電荷重畳法による計算
  17.4 表面電荷が存在するときの計算
 第18章 直流イオン流場の計算
  18.1 イオン流場の基本式
  18.2 イオンの存在が電界に影響しないとする計算
  18.3 イオンの存在が電界の方向に影響しないとする計算
  18.4 領域分割法による計算—単極性イオン流場
  18.5 両極性イオン流場の計算
  18.6 計算の安定化
  18.7 計算例
 第19章 最適形状の設計法
  19.1 電界計算におけるCAE,CAD
  19.2 最適設計法の計算
  19.3 解析的方法による最適形状設計
  19.4 数値的方法による最適形状設計
  19.5 計算例と今後の課題

付録
演習問題解答
参考文献
索引
 


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