電気の歴史 人と技術のものがたり
価格:3,300円 (消費税:300円)
ISBN978-4-501-11560-9 C3055
奥付の初版発行年月:2011年07月 / 発売日:2011年07月上旬
本書は電気技術の発明・発見史を軸として、その技術の中身をわかりやすく解説し、またその技術が発明されたことにより、社会にどのような変化をもたらしたのかをまとめた。年表を先に示し、次にこれを本文で解説するよう構成。貴重な資料も収録されているので一般の方にもおすすめの一冊。
本書は,電気技術者に電気技術の歴史を知ってもらい,電気技術とは何かを考えてもらうために執筆したものである。それによって電気技術者が人々のためによりよく役立つようになると考える。また,電気技術以外の科学技術関係者や,文科系の方,一般の方にも本書を読んでもらいたい。一般の方が電気技術とその歴史について知ることは,電気技術を利用するに際して役立つと信じるからである。
電気の歴史を述べるには,技術の中身に触れる必要がある。本書では,技術を努めてわかりやすく解説したつもりであるが,どうしても内容が込み入ってしまう場合がある。もしわずらわしく感じたら,飛ばして先を読んでいただいても,電気技術の歴史の全体像を知るのには差し支えない。
本書は,電気技術の発明・発見史を軸にして述べていく。しかし,発明や発見の歴史だけでは電気技術の歩みの全体像は明らかにならない。そこで,学会,ジャーナル,学校,国際条約,会社といった制度(英語ではinstitutionという)の歴史も併せて述べる。
本書は,まず年表があって,次にこれを本文で解説するという構成になっている。年表では,何々が最初に出現したということが強調され,その後の技術の展開を説明するのは容易ではない。このような展開は本文で述べる。本文を読み進むときには,年表も参照してほしい。
本文では,古代から始まって19世紀末まで(電力技術の本格化の頃まで)の歴史をほぼまんべんなく述べてある。発電機・電動機の発達史については,欧米の先行研究にもまとまったものが少ないので,やや詳しく述べた。電信についても重点を置いた。20世紀の電気技術に関しては,トピックを絞った。人々の生活に近い存在であるラジオにはスペースを割いて,電気技術とは何か,その特質は,といったことを,これらの部分で相当に明らかにしたつもりである。
読者の中には,関心のあるトピックは本文にないと感じる人もいるであろう。20世紀の電気技術の展開をまんべんなく述べるには,本書のスペースでは足りず,10倍以上の紙幅が必要である。本書から,分析の視点といったものを読み取っていただければ,関心のあるトピックの歴史を読者自らが考える助けとなるであろう。スペースの関係で,日本の電気技術の歴史はほとんど割愛したが,電気工業における日米比較の重要な点のいくつかは論じておいた。
技術者にとっての技術史への興味は,究極のところ,歴史上の技術者の生き方,つまり”人”である。本文ではこれにも重点を置いて述べた。
本書は,歴史研究者を主な読者として想定した本ではないが,歴史学の批判にも耐えると信じる。発明・発見史である以上,今日の技術につながった技術を,過去の歴史の中に求める(いわゆるレトロスペクティブ史観で見る)ことになるが,努めてそれぞれの当時における(コンテンポラリな)意味を考察するようにした。もとよりすべての事項について一次史料をあたることはできなかったが,原典および同時代史料に拠るように努力した。電気技術史研究への足がかりとしても,本書が役立つのならば,幸いである。
2006年11月
高橋 雄造
新版にあたって
小著『百万人の電気技術史』(工業調査会,2006年)が『電気の歴史 -人と技術の物語-』として東京電機大学出版局から刊行されることになった。多くの方々に本書を読んでいただければ幸いである。この機会に,多少の修正を行った。
東日本を襲った大震災から2ヶ月以上が経過した。電力,通信,制御のどれについても,電気技術の重要性・有用性があらためて明らかになった。”電気はいま出番”であるはずである。しかし,電気技術者や電機工業の主体的な反応は弱いように見える。電機技術の使命も歴史的なものであって,いずれは終末を迎えるのであろうか?筆者は,電気の好きな若い人々が今後も多数現れて,市民に役立つ電気技術の新しい地平を拓くことを期待している。”電気技術を愛する”技術者については,あらためて論じる機会があろう。
2011年5月
高橋 雄造
目次
はじめに
電気技術史年表
第1章 古代からの電気と磁気
1. 人類が電気を知る
2. 天然磁石から羅針盤へ
第2章 近代電気学のはじめ ―静電気の時代
1.ギルバート―近代電気学の創始者
2. ゲーリゲから摩擦起電機へ
3. ホークスビーとグレー ―電気力線を示す糸,絶縁体と導体
4. 静電気をためるライデンびん
5. デュフェとフランクリン ―電気流体説
6. バロックとロココ ―実験遊戯の時代
7. クーロンの法則 ―19世紀への橋渡し
第3章 電池の発明から動電気の時代へ
1. ガルバーニからボルタへ ―電池の発明
2. 電流の磁気作用 ―エールステズの発見
3. 電磁石の発明
4. 電磁誘導の法則
5. マイケル・ファラデー
6. ジョセフ・ヘンリー
7. 電気回路とオームの法則
第4章 発電機と電動機
1. ビキシの発電機
2. 自励発電機の発明と発電機の実用化
3. 電動機の登場
4. ジュールと電気エネルギー
5. 発電機と電動機の可逆性
6. 発電機・電動機の進歩
7. 代表的な実用発電機
第5章 電信と電話 ―電気の最初の大規模応用
1. 腕木伝信
2. 電信の発明
3. 電信網の発達
4. 海底電信線の拡大
5. 電話の登場
6. ファックスの発明と実用化
7. 携帯電話の登場
第6章 電灯と電力技術の時代
1. 白熱電球の発明と配電事業の開始
2. エジソン
3. 交流技術の登場と長距離送電
4. 変圧器の発明
5. ウェスティングハウス,テスラ,ナイヤガラ水力電気
6. 三相交流の発達
7. 現代の直流送電
8. 電車と電気鉄道
第7章 電気技術の世界の形成と拡大
1. ウィリアム・スタージャンと『電気・磁気年報』およびロンドン電気協会
2. 学会と雑誌
3. 電信学校
4. 電気技術の学校の成立と拡大
5. 電気の計測と標準・単位,物理および電気の国立研究所
6. 世界の電機メーカーの起源
第8章 20世紀の社会と市民生活における電気 ―蓄音機からラジオ,テレビまで
1. 20世紀の電気技術
2. 生活と娯楽と電気技術 ―蓄音機(レコード),映画の発明
3. 電波の発見から無線電信へ
4. 無線電話と真空管の発明
5. 放送の開始,ラジオ・ブーム,大恐慌
6. ラジオからテレビへ
7. ラジオ・エレクトロニクスの発達と米国の変貌
8. アマチュアとエレクトロニクス技術者の形成
第9章 半導体とコンピュータ
1. 戦争とエレクトロニクスの進歩
2. トランジスタの登場
3. 半導体集積回路(IC)の発達
4. コンピュータの発明
5. 商用コンピュータから第三世代コンピュータまで
6. マイコン、パソコンからインターネットへ
7. コンピュータの変化
むすび ―電気技術の将来
付録 ―電気の歴史の本
参考文献
図版出典
あとがき
索 引