電気と磁気の歴史 人と電磁波のかかわり
価格:2,640円 (消費税:240円)
ISBN978-4-501-11630-9 C3054
奥付の初版発行年月:2013年05月 / 発売日:2013年05月中旬
古来から人や動物を惑わせてきた電磁気の魅力を豊富なエピソードを交えて伝える。電気/磁気の学問の世界で活躍した人物伝を収録。電磁気の知識がなくても楽しめる一冊。
私たちの住んでいる空間には,地球に由来する地磁気,雷などの自然現象による電磁波,アンテナから放射される電磁波,加えて日々の生活で使っている電気・電子機器からも電磁波が放射されています。電磁波は肉眼で見ることできませんし,電磁波は地球表面だけではなく,宇宙空間にまで広がっています。電磁波は電界と磁界が組み合わさって,波として空間を振動して伝わっていきます。そのため,電磁波は周波数と波長で表わすことができ,両者の積は一定の値,つまり光の速度である30万km/s(3×108m/s,正確には2.997924 58×108m/s)です。
私たちが家庭で使っている電化製品は,50Hzまたは60Hzの周波数からなる電磁波を発生しています。たとえば,周波数が50Hzの電磁波は,波長で表わすと6,000kmになります。また,電子レンジで使われている周波数2.45GHzは,波長が約12.24cmになります。
電気については古くギリシャ時代に,静電気つまり琥珀を毛皮で擦ると電気が貯まるという現象が観察されていました。磁気については1600年に,イギリスのギルバートが『磁石論』を著わし,磁気を科学的に扱った最初の人として有名になりました。この『磁石論』が,その後の西欧における科学の発展に大きく寄与し,自然の中の電気と磁気についての理解が進んでいきました。
18世紀,静電気の時代の大きな発明は,電気を貯めることができるライデン瓶でしょう。ライデン瓶を用いて多くの電気実験が行なわれました。1752年にはフランクリンが雷雲に向かって凧を揚げ,雷の電気をライデン瓶に蓄えることに成功しています。イタリアの科学者ガルバーニは,カエルの足が痙攣するのを見て動物電気を発見しました。その後,1800年に,ガルバーニとボルタとの間でなされていた動物電気と金属電気の討論から,ボルタが安定的に電気を取り出すことができる電池を発明することになりますが,電池の発明以前は,科学者がどちらかというと興味本意で電気や磁気について実験を繰り返していました。
1800年を境として電気の研究は,静電気の時代から,ボルタ,エルステッド,アンペール,オーム,ファラデーなどと継続して動電気の時代に入り,マックスウェルによって今日の電磁気学が開花するに至りました。1860年代から1870年代にマックスウェルが電磁波の理論予測を発表し,1886年にヘルツが火花放電により電磁波の存在を実験的に確かめることに成功しました。この間,今日の電磁気学の体系は,完成してから約150年の歴史を有しています。電磁波を利用することで,私たちの文明は大きく進歩し,近代社会に大きな変革をもたらしました。
本書は,1600年のギルバートの『磁石論』の発表以降,静電気の時代を経て,電力・通信技術の確立や電信や電灯などの電気を用いた技術が成立していった19世紀中葉から20世紀初頭,また電力や通信技術が完成していった20世紀後半までの電気の歴史の中で,私たちと電磁波がどうかかわってきたかをいくつかの話題に沿ってまとめたものです。とくに自然を発生源とする環境中の電磁現象,電力や通信技術にみられる人工的な電磁波と,私たち人間や生き物がどのようにかかわってきたかを,わが国も含めた歴史的な視点をふまえ,時代を交差させながら,時代を鳥瞰できるように心がけました。電気を送るのに使われている50Hzや60Hzのように周波数が低く,波長の長い電磁波は電磁界(または電磁場)として扱うことができます。本書では周波数の低い場合も電磁波という表現を用いてタイトルと調和をとっていますが,引用している文献のオリジナリティを尊重する場合には必要に応じて,電磁界または電界,磁界という用語を用いています。
本書ではコラムとして,電気の基本的な単位に名前を残している著名な科学者にまつわる話題も取り上げました。電気の歴史の中で,人が電磁波とどのようにかかわってきたか,その一端を覗いていただければ幸いです。
2013年2月
著者しるす
目次
第1章 磁気と磁石
1.1 西暦1600年という年
1.2 磁気・磁石の医学的効用
1.3 催眠療法と生体磁気
コラム1 ファラデー
第2章 地球の静電気
2.1 動物電気
2.2 空中電気
2.3 エレキテル
2.4 清々しさ
コラム2 オーム
第3章 地球を駆ける
3.1 生物圏の物理環境
3.2 シューマン共鳴
3.3 脳波との類似性
3.4 低周波電界と概日リズム
コラム3 クーロン
第4章 植物と電磁波
4.1 電気刺激
4.2 収穫・生長促進
コラム4 アンペール
第5章 診断とホルモン
5.1 ノーベル生理学・医学賞
5.2 メラトニン仮説
コラム5 ワット
第6章 自然電磁界とのかかわり
6.1 電気感覚と探索行動
6.2 回遊とストランディング
6.3 魚の電気感受
6.4 マグネタイト
コラム6 ガウス
第7章 低周波電磁波を巡る
7.1 地磁気とミツバチとウシ
7.2 送電線との調和
コラム7 テスラ
第8章 高周波電磁波をたどる
8.1 アレニウスと高周波電流
8.2 マイクロ波との付き合い
8.3 エジソンと電気椅子
コラム8 ヘルツ