初めて学ぶ
基礎 機械システム
価格:2,200円 (消費税:200円)
ISBN978-4-501-41540-2(4-501-41540-1) C3053
奥付の初版発行年月:2001年09月 / 発売日:2001年09月中旬
複雑な機械運動システムを初学者向けに解説
機械運動システムは,数多くの機械要素(筐体,歯車,リンク,ばね,ダッシュポット,駆動源など)で構成された複雑なシステムである。しかし,その複雑なシステムの動きの概要を理解するためには,そのシステムを数式モデルで表現する必要がある。
本書は,システムの一般的な意味とそれを取りまくいくつかの関連事項について述べ,基本的機械要素であるばね,ダンパー,質量の組合せ機械システムに対する運動方程式(微分方程式,数式モデル)を誘導する方法を解説。さらにそれらを解くラプラス変換に関してもわかりやすく解説。
シミュレーションといえば,アナログ計算機で行われていた時代があった。この計算機は,微分方程式の変数に対応させたアナログ量(電圧)を積分することによって,その微分方程式の解を求めるものである。ところがデジタルコンピュータが出現し,いつのまにかそれがパソコンといわれ,かつてのアナログ計算機を追い抜かす能力をもつようになった。そのマイコン(CPU:中央演算処理装置)が各種機械装置をはじめ,自動車・自動販売機・家庭電気製品など広い分野にわたり影の力となって活用されるようになった。これほどまでにコンピュータが普及するとは誰もが予測できなかったであろう。
今日では,そのコンピュータの取り扱いは,理工系の学生にとって知っていて当たり前になった。しかし,コンピュータを所有しそれを操ることが可能になっても,コンピュータで処理する内容がワープロで文章を書く,ゲームソフトを楽しむ程度であるならその有効性を発揮しているとは言い難い。高度な計算は,専門のプログラマに任せるとしても,身近な物理現象,力学現象を手元のコンピュータでシミュレーションができれば,コンピュータ操作は楽しくもあり勉学に役立つ。
コンピュータの応用技術であるシミュレーションは,一口でいうと物理現象の物まねである。このシミュレーションは,構成要素が複雑にからみ合う大規模システムに対して行われることが多い。シミュレーションは事実そのものではなく,模倣もしくは想像である。試行錯誤,つまり繰り返し実行し洗練する必要がある。コンピュータはもともと人間を模倣してつくられたものである。コンピュータは計算が得意だが,外界の変化を感じとったり,図形や音声を認識する能力はいまのところ人間に及ばない。マン−マシンシステムという言葉があるが,これは複雑な計算処理はコンピュータが受け持ち,むずかしい状況の判断は人間が担当するシステムである。コンピュータ・シミュレーションの対象となる要員訓練用機械装置(フライトシミュレータ,ドライビングシミュレータなど),交通システム,海洋開発や宇宙開発などとひところでは予想もされなかった分野にまでシミュレーション応用の技術は広がりをみせている。このようなモデルのシミュレーションとは,物まねであるが,時間経過に伴う諸事象に関する数値的,物理的モデル実験ということでもある。
機械運動システムは,数多くの機械要素(筐体,歯車,リンク,ばね,ダッシュポット,駆動源など)で構成された複雑なシステムである。しかし,その複雑なシステムの動きの概要を理解するためには,そのシステムを数式モデルで表現する必要がある。そして,そのモデルのシミュレーションを行い,機械運動の良否を判断する。数式モデルは,変数や数値の集合であって,それは抽象化され,実物の本質的特徴を抽出したモデルである。この数式モデル,つまり運動方程式を効率的に誘導するために,思考を支援するフリー・ボディ・ダイヤグラムという図式を本書では利用する。
本書は,まず,システムの一般的な意味とそれを取りまくいくつかの関連事項について述べる。続いて,基本的機械要素であるばね,ダンパー,質量の組合せ機械システムに対する運動方程式(微分方程式,数式モデル)を誘導する方法を述べる。そして最後にそれを解くラプラス変換に関してわかり易く解説する。
本書を学習することによって,システム,機械運動,運動方程式,ラプラス変換が理解でき,手元のパソコンを活用して簡単なシミュレーションができるようになることを願っている。そして機械力学,機械システムの基礎をシミュレーションをとおして学習していただくことを期待する。
最後に,本書を完成させるにあたり絶大なご尽力を賜った東京電機大学出版局の石沢岳彦氏に感謝する次第である。
2001年8月
小川鑛一
目次
第1章 システムと機械システム
1.1 システムとは
1.2 システムを理解するために
[1] 変数とは
[2] パラメータとは
[3] 集中系と分布系
[4] アナログとディジタルについて
[5] 量子化について
[6] 自由度とは
[7] 線形とは(重ね合わせ)
[8] 等価なシステムとは
[9] システムのブロック線図とは
[10] 入力と出力のはなし
[11] システムの簡単な例
1.3 シミュレーションとは
[1] モデルとは
[2] シミュレーションについて
1.4 機械運動システム
[1] 直動運動機械システム
[2] 回転運動機械システム
演習問題①
第2章 機械システムモデル化の基礎
2.1 変数について
2.2 機械要素の特徴について
[1] 質量のはなし
[2] 機械運動に関わる摩擦のはなし
[3] ダンパー,ショックアブソーバー,ダッシュポット
[4] こわさ
2.3 機械要素結合に関する約束
[1] ダランベールの法則
[2] 作用・反作用の法則
[3] 機械システムの変数
[4] フリー・ボディ・ダイアグラムについて
演習問題②
第3章 直動運動機械システムのモデル化
3.1 組合せ機械要素の数学モデル(運動方程式)
[1] 単一機械要素に力が作用した場合
[2] ばね要素とダッシュポット単体要素とその組み合わせシステム
[3] 質量とばね,質量とダッシュポットの組み合わせシステム
[4] 変位x(t)を入力とした場合の運動方程式
3.2 質量が重力の影響を受ける場合の運動方程式
[1] プーリーを介して機械要素をつり下げた場合の運動方程式
3.3 重ね合わせ機械要素の運動方程式
3.4 ばねおよびダッシュポットの並列接続
[1] ばねの並列接続
[2] ダッシュポットの並列接続
[3] ばね,ダッシュポットの並列接続
3.5 ばねおよびダッシュポットの直列接続
演習問題③
第4章 回転機械システム
4.1 回転運動に関わる変数について
4.2 回転機械システムの基本要素
[1] 慣性モーメント
[2] 回転機械システムの粘性摩擦
[3] 回転体のこわさ
[4] てこ
[5] 歯車
[6] ダランベールの法則
[7] トルクの反作用
4.3 回転機械システムの運動方程式
[1] 基本回転機械システム
[2] 2個の回転体が連結した機械システム
[3] 粘性摩擦によるモータ駆動回転機械システム
[4] てこによる物体駆動機械システム
演習問題④
第5章 機械システムの解析手法
5.1 機械システムの入力としての特殊関数
[1] 単位ステップ関数
[2] デルタ関数(インパルス関数)
[3] 正弦関数
5.2 ラプラス変換による微分方程式(運動方程式)の解法
[1] ラプラス変換とは
[2] ラプラス変換法により1階の微分方程式の解を求めるには
[2] ラプラス変換法により2階の微分方程式の解を求めるには
5.3 振動的な外力がばね−ダッシュポット機械システムに加わる場合の応答
5.4 ラプラス変換の上手な使い方のまとめ
演習問題⑤
解 答
付録A ラプラス変換公式表
付録B ラプラス変換公式表
付録C エクセルによる微分方程式解の計算方法と図形の求め方
主な参考図書
索 引