自動車の運動と制御 車両運動力学の理論形成と応用
価格:3,630円 (消費税:330円)
ISBN978-4-501-41700-0 C3053
奥付の初版発行年月:2008年03月 / 発売日:2008年03月下旬
いまから30年ほど前,空間内あるいは平面内を操縦者の操舵に応じて自由に運動することが出来る航空機や船舶などと同じように,自動車の運動を一つの独立した運動力学としてまとめるという意図で,共立出版(株)より,『車両の運動と制御』を出版した.その後,自動車の運動力学とその運動性能に関する研究・開発は着実に進展してきたが,そうした動向を踏まえて,著者は16年前,上著を大幅に加筆訂正して,(株)山海堂から新たに車両運動力学の入門書,解説書として『自動車の運動と制御』を出版した.この間の自動車の運動力学や運動性能に関する研究や技術開発は目覚しいものがあったが,そのような中で拙著の出版を続けることが出来たことは幸いなことであった.
そして今回,これまでのこの分野の研究・開発の動向,さらには前著に対する読者諸賢の貴重なご指摘などを参考にして,前著の一部を加筆訂正したうえで本書を新たに出版できることになった.
当初より,本書は,その基礎知識となる一般力学,機械力学,振動学,制御工学の一部などについての基本的なことがらを一とおり学んだ程度の知識をいちおうの前提として,車両の運動と制御の問題を可能な限り理論的に扱い,一般的に整理することに努めている.
本書は,大学工学部や高専の機械工学科,あるいは一部は大学院などで講義されている自動車工学や車両工学の教材的要素もあるが,さらに広く,社会に活躍している技術者が,車両の運動やその制御を問題としなければならないときの入門書になるうることも意図している.したがって,本書は車両自体の基本的な運動力学的性質を知るのであれば,第1章から第4章までを,さらに詳しく車両自体の運動の性質を理解しようとするなら,引き続いて第8章までを,特に人による制御を受けた車両の運動を主として問題とするのであれば,第1章から第3章に引き続いて,第9章から第10章を読めば良いような構成になっている.
第1章では,まず本書で対象とする車両の運動とは,どのような運動のことかを明らかにしている.
第2章はタイヤの力学である.本書で対象とする車両の運動においては,タイヤに働く横力が最も基本的かつ重要な振舞いをする.この章では,車両の運動を考えていく準備として,このタイヤに働く力の発生のメカニズムとその性質を明らかにする.しかし,もし,読み進んで行くうちに,この章が難解に感じたら,読みとばしてもかまわない.それによって以降の車両運動力学の基礎を理解するのに大きなさまたげにはならないはずである.
第3章は車両運動の基礎である.この章において,本書が対象とする車両自体の運動が具体的にどのようなものであり,どのような基本的な性質を有するかが明らかとなる.この章で得られる知識が,自立した運動を行ないうるあらゆる車両の運動を考えるときの基礎となるものである.
また,第3章は操舵に対して車両がどのような運動をするのかを見ているのに対し,第4章では,外乱を受けたときに車両がどのような運動を示すかを問題にしている.この第4章も,車両の運動を考えるときの基礎になるものである.
さて第5章では,その車両に付いているかじ取り装置の性質が,運動にどのような影響を与えるかを知る.そして,第6章では,車体のロールが車両の運動に及ぼす影響を明らかにしている.
また,第7章では駆動や制動を伴う車両の運動を扱い,第8章では運動のアクティブ制御を付加した車両の運動を扱っている.
このように,第5〜8章では第3,4章で得た車両運動の基礎知識に加え,さらに詳しく車両自体が持つ運動の性質を明らかにしようとしている.
ところで,自立した運動を行ないうる車両は,車上の運転者などによって制御を受けて初めて意味のある運動を行なう.そこで,第9章では,第3,4章で得たような性質を有する車両が,車上の人による制御を受けたときにどのような運動を示すかを知る.また,客観的に観測できる運動がどのような性質を有するかということと同時に,人による制御を受ける車両の場合には,どのような運動力学的性質を有する車両が制御しやすいかが重要である.第10章では,第3章で得た基礎的な車両の運動力学的性質と制御しやすさの関係について考えている.
このように,第9,10章では,第3,4章で得られたような基本的な性質を有する車両が,適当な制御を受けたときの運動と,それにかかわる諸問題を扱っている.
ところで,車両の運動と制御の問題に関しては,既に多くの人々による優れた研究成果が蓄積されている.本書を執筆するにあたっては,これらの多くの研究成果を自由に利用させていただいた.具体的に引用させていただいたり,参考にさせていただいた文献については本文中にその個所を明示し,各章末にその文献を記載した.ここに,これらの著者各位に対し,深く謝意を表するものである.
また,本書の出版に際しては,東京電機大学出版局の植村八潮氏に大変お世話になった.厚くお礼を申し上げる次第である.
最後に,浅学の著者ゆえ,本書全体を通して思わぬ誤りや考え違い,文献引用の過程での誤解や,内容を正しく伝えていない個所などがあることを恐れるものである.もちろん,これらの責任はもっぱら著者に帰すべきものであるが,将来の改訂のために,読者諸賢のご叱咤を賜れば幸いである.
平成20年3月
安部正人
目次
第1章 車両の運動とその制御
1.1 車両の定義
1.2 4輪車の抽象的モデル
1.3 運動の制御
参考文献
第2章 タイヤの力学
2.1 はじめに
2.2 横力を発生するタイヤ
2.3 タイヤのコーナリング特性
2.4 駆動,制動とタイヤコーナリング特性
2.5 タイヤのコーナリング動特性
参考文献
第3章 車両運動の基礎
3.1 はじめに
3.2 車両の運動方程式
3.3 車両の定常円旋回
3.4 車両運動の動的特性
参考文献
第4章 外乱による車両の運動
4.1 はじめに
4.2 重心点に働く横力による運動
4.3 横風による車両の運動
4.4 外乱による車両運動のまとめ
参考文献
第5章 操舵系と車両の運動
5.1 はじめに
5.2 操舵系の力学モデルと運動方程式
5.3 操舵系の特性が車両運動に及ぼす影響
参考文献
第6章 車体のロールと車両の運動
6.1 はじめに
6.2 ローリングの幾何学
6.3 車体のロールと車両のステア特性
6.4 ロールを含む車両の運動方程式
6.5 車体のロールが車両運動に及ぼす影響
参考文献
第7章 駆動や制動を伴う車両の運動
7.1 はじめに
7.2 前後方向の運動を含む運動方程式
7.3 車両の準定常円旋回
7.4 車両の操舵過渡応答
参考文献
第8章 運動のアクティブ制御と車両の運動
8.1 はじめに
8.2 後輪操舵の付加と車両の運動
8.3 横すべり零化後輪操舵制御
8.4 ヨー角速度モデルフォロイング後輪操舵
8.5 前後輪アクティブ操舵制御
8.6 直接アクティブ操舵制御
参考文献
第9章 人に制御される車両の運動
9.1 はじめに
9.2 人の制御動作
9.3 制御を受けた車両の運動
9.4 車両特性への人の適応
9.5 さらに進んだ人の制御動作モデル
参考文献
第10章 制御しやすい車両
10.1 はじめに
10.2 車両の制御しやすさ
10.3 車両の運動力学的性質と制御しやすさ
参考文献
問題の略解
索 引