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第2版 自動車エンジン工学

第2版 自動車エンジン工学

A5判 256ページ 上製
価格:2,970円 (消費税:270円)
ISBN978-4-501-41820-5 C3053
奥付の初版発行年月:2009年04月 / 発売日:2009年04月中旬

前書きなど

 1876年(明治9年),未だ開拓がその緒についたばかりの北海道に,はるばる米国マサチューセッツ州からウイリアム・クラーク博士が訪れて,少数の選ばれた学生達に“Boys be ambitious.“を教えられた.丁度その年に,ドイツでは二コラス・オットーが往復動式エンジンの実用化に成功している.以来120年,内燃機関は近代社会のあらゆる分野で広く用いられ,現在の我々は,エンジン抜きの生活など想像することすら困難である.
 その中で一番数が多いのは自動車用であり,現在地球上には約4億台の内燃機関を利用した自動車が走り回っている.言うまでもなく,わが国は世界有数の自動車生産国であって,国内における自動車の登録台数は7,000万台に達している.
 日本で最初に小型エンジンが製造されたのは1896年(明治29年)であり,自動車の生産も昭和の初期に始められたのであるが,本格的に自動車の生産が開始されたのは,戦後間もない1949年(昭和24年)である.以来50年の間に,わか国の自動車産業は長足の進歩,発展を遂げ,エンジン性能も大幅に向上してきた.例えばこの間に,大型トラック用ディーゼルエンジンのオーバーホール間隔は10倍に延び,燃費も35%近く改善されて来ている.
 筆者らは,わが国における自動車産業の発展期の10年前後,自動車会社に勤務して,エンジンの開発研究に従事する機会を与えられた.その当時は,コンピュータなどもなく,すべての計算は計算尺と手回計算機で行ない,実験用エンジンの分解・組立から始まり,耳が痛くなるような騒音の中で排気の臭いをかぎなから,出力性能の測定も自分達で行なった.その後は両名とも大学に戻って,主としてディーゼルエンジンの燃料,燃焼を中心とした研究に従事して,内燃機関を学生に講義することで人生を過ごしてきたのであるが,「光蔭矢の如し」,考えてみると,エンジン120年の歴史のうちで30あるいは40年の間をエンジンとともに過ごしてきたことになる.
 エンジニアリングが技術を意味することからも明らかなように,エンジンは,あらゆる技術の成果が集積されて出来上がっているものであるが,その基本的な構造は19世紀中にほぼ完成の域に達していて,以後は,細かい改良の積み重ねと電子技術の導入とによって進歩を遂げてきたと言えよう,例えば,厳しくなる一方の排気公害規制に対しては,燃焼学や測定法の進歩,EFIを始めとする各種電子技術,センサーの開発などが,これをクリアすることを可能にしてきた.また,かつては実験部品を山と積み上げて対処してきた吸・排気系,冷却系などの改良も,有限要素法やコンピュータシミュレーションによって,いとも簡単に行なわれるようになった.そして構造材料も,考えられないような進歩を遂げて,今やセラミックエンジンさえも実現するに至っている.
 21世紀に向けて大きく躍進を続けているアジア諸国の中にあって,わが国が今後ともリーダーシップを発揮していけるかどうかは,第一に最先端の技術を確保し続けられるか否かにかかっているが,これが可能なためには幅の広い各種の基礎的な技術の支持が必要である.このような中で,各種の高等教育機関が果たさなければならない役割には極めて大きなものがあると言えよう.
 しかし,わが国の産業構造は第三次産業に向かって大きくシフトして,学生の理工系離れは識者の間で深刻な問題として取り挙げられている,そして,大学のカリキュラムの中で,内燃機関のようなハードウェアは従来ほどには重視されておらず,エンジンなどは見たことも触ったこともなく,エンジンの講義など聞かないで卒業する機械系の新人が多く産業界に送り出されている.しかし,短大,高専などでは,どちらかというと実際の機械に立脚した教育が行なわれており,そこではエンジンに関する知識の習得は依然として重要な一課題である.
 このような状勢の中で筆者らは,かねてから広い読者層を対象とした自動車用レシプロエンジンの教科書の執筆を考えてきたのであるが,村山がぼつぼつ書き貯めてきた原稿を常本が全面的に加筆して書き直す形で(単位もSIに統一して)どうにか一冊にまとめたのか本書である.なるべく数式は省略して,寝ころんで読み飛ばせるようなものを目指したのであるが,果たしてどうであろうか.
 なお,筆者らが永年つきあってきたエンジンは小型のレシプロエンジンであるので,中型,あるいは大型の定置式あるいは舶用エンジン,ガスタービン,ロータリーエンジンなどについては,全く触れていない.これは,当初から別の教科書にゆずることを考えて執筆を行なっている.
 執筆に際しては,多くの先陣の資料や著作を参考にさせていただいた.できるだけ拾い上げて章末に付記するようにしたが,あるいはもれたものもあるのではないかと心配される.ここで,改めて謝意を表明したい.また,執筆に際しては,二人で何回も議論を重ねはしたが,抜けているところや誤りも多いのではないかと考えられる.これらの点に関しては,読者各位からの御指摘を頂いて,できるだけ早い機会に改訂したいと考えている.
 また,図面の制作等では,北見工業大学の石谷博美氏および学生諸氏の多大の協力を得たものであり,ここに感謝の意を表したい.
1997年3月
村山正
常本秀幸

追記
 本書の初版は,(株)山海堂から1997年に刊行され,幸いにも多くの読者から愛用されてきた.このたび東京電機大学出版局から新たに刊行されることとなった.本書が今後とも読者の役に立つことを切に願っている.
2009年3月
村山正
常本秀幸


目次

第1章 内燃機関の歴史
 1.1 ルノアールからオットーまで
 1.2 ダイムラー,ベンツの功績
 1.3 ディーゼル機関の夜明け
 1.4 内燃機関性能の歴史
第2章 サイクル計算,および出力
 2.1 安全ガスサイクル
 2.2 燃料・空気サイクル
 2.3 実際のサイクル
 2.4 出力の計算
 2.5 燃費
 2.6 ヒートバランス
第3章 燃料,および燃焼
 3.1 内燃機関用燃料の特性
 3.2 炭化水素の燃焼
 3.3 燃焼計算
第4章 火花点火機関
 4.1 混合気の形成
 4.2 気化器
 4.3 電子式燃料噴射装置
 4.4 点火システム
 4.5 ガソリン機関の燃焼
 4.6 リーンバーン燃焼
第5章 ディーゼル機関
 5.1 燃料噴射システム
 5.2 ディーゼル機関の分類
 5.3 ディーゼル機関の燃焼
第6章 内燃機関による大気汚染
 6.1 大気汚染の歴史と現状
 6.2 大気汚染物質の発生
 6.3 排気ガスと健康
 6.4 ガソリン機関の排気対策
 6.5 ディーゼル機関の排気対策
第7章 シリンダー内のガス交換
 7.1 4サイクル機関の吸排気行程
 7.2 吸入効率
 7.3 体積効率の静的改善方法
 7.4 体積効率の動的改善
 7.5 2サイクル機関の掃気過程
 7.6 過吸システム
 7.7 吸排気騒音
第8章 冷却
 8.1 冷却の基本
 8.2 冷却方式
第9章 潤滑
 9.1 潤滑概論
 9.2 エンジンオイル
 9.3 潤滑系
第10章 内燃機関の機械力学
 10.1 バルブ機構
 10.2 ピストン・クランク機構の運動と慣性力
 10.3 平衡
 10.4 トルク変動とフライホイール
 10.5 クランク軸系の捩り振動とトーショナルダンパ


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