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電池・モータ・エコ技術電気自動車の制御システム

電気自動車の制御システム 電池・モータ・エコ技術

A5判 216ページ 上製
価格:3,300円 (消費税:300円)
ISBN978-4-501-41830-4 C3053
奥付の初版発行年月:2009年06月 / 発売日:2009年06月中旬

前書きなど

 二次電池の急速な進歩や回路実装の小型化・高密度化により,長い間固定設備であった電話やコンピュータが持ち運び可能な携帯電話やノートパソコンに進化し,それらの出現によって生活と仕事のスタイルが一変した.二次電池の高エネルギー化はその後も続いており,それを使った電気自動車や家庭用ロボットなどのモービル製品(移動体製品)が,生活の場で身近になろうとしている.携帯電話やノートパソコンがそうであったように,これらのモービル製品は生活シーンとビジネスシーンを大きく変えるものと期待されている.
 内燃機関と比較すると,電動モータは工業製品の二つの属性である構造(レイアウト)と機能(制御)の設計自由度が高い.この自由度を活かした使い方には二つの方向がある.
 一つは,自由な組み合わせ方を容易に実現できることから,全体の系を相互干渉の少ない複数のモジュールに分割し,その間のデザインルールを決め,各モジュールを水平分業で開発・製造することで,モービル製品を低コストに大量生産する方向である.自動車で言えば,ガソリンエンジンの時代には,振動や重量バランス,機械的な動力伝達機構などから,他社のエンジンを利用することに制約が大きかった.これに対して,モータや電池のパワー伝達は電線による,つまりPower-by-Wireであるため,給排気系統などの補機が不要で,小型であり,発熱や振動も少なく,組合せの自由度が高い.パソコン産業がキーボード,ディスプレイ,CPU基盤などを世界中から最適調達して組み立てるのと同様に,いつかは自動車産業にも水平分業の時代が来るだろう.
 もう一つの方向は,レイアウトと制御の自由度を最大限に生かした新しい製品を創造し開発するには,要素部品の異なる組み合わせではなく,多くの専門技術者が知恵を出し合って,妥協のない高いレベルの摺り合わせをすることが必要になる.
 また,システム全体を見ることができる人材も不可欠になる.モービル製品の特徴は,オールインワンで自己完結(Self-contained)するスタンドアローンのシステムであることである.小さな空間に多くの専門技術を集結した一つの閉じたシステムが,屋内屋外を広く移動する.このため,多くの要素部品,要素技術間の負の相互干渉が大きく,摺り合わせの課題が高度で複雑になる.最近は専門技術が分化し高度化しているために,システム全体を俯瞰することがますます困難になっている.
 これに対処するには,システムの各要素を抽出化すること,つまりモデリングして相互のコミュニケーションを正確かつ円滑にすることが必要である.優れたモデルがあれば,門外の技術分野についても「木を見ずして森を見る」ように可視化することが可能になり,開発チーム全員がシステム全体を見通して開発できることになる.
 本書は,モービル製品の代表である電気自動車の,モデリングを軸にした制御システム設計論に関するもので,第1章1.7節で構成を解説している.第1章では,モービル製品にまで波及してきたパワーエレクトロニクスと電気自動車のシステム設計の概要について,第2章では制御系のモデリング全般について触れる.第3章と第4章では,それぞれ2輪と4輪の電気自動車の走行制御システム設計について述べる.電気自動車の主要コンポーネントである電池とモータについては,第5章と第6章で詳しく解説する.パワーデバイスも主要部品であるが,本書では割愛した.これは,熱・回路連成解析用のモデルなどが半導体メーカから提供され,設計開発の現場ですでに活用されているため,また,回路シミュレーションに関する実践的な解説書が多く出版されているためである.
 本書が将来の新製品創造への一助になることを願う.広い技術分野を一冊にまとめることに力量と時間の不足を感じたことも事実であり,読者諸兄よりいろいろなご提言やご叱正を賜れば幸いである.
 本書をまとめるにあたり多くの方々のお世話になったことを,この場を借りて感謝したい.第3章の2輪倒立振子ロボットの実験でご協力をいただいた河原井暎子さん(慶應技術大学足立研究室)に感謝する.
 2009年5月
 廣田幸嗣・足立修一


目次

第1章 モービルパワーエレクトロニクスと電気自動車
 1.1 広がるパワーエレクトロニクスの応用分野
 1.2 モービル製品の設計論
 1.3 パワーコントローラの実装技術
 1.4 熱的調和の技術
 1.5 電磁的調和の技術
 1.6 複合工学としてのモービルパワーエレクトロニクス
 1.7 電気自動車のシステム設計 —本書の構成—
第2章 走行制御システムの設計
 2.1 システム設計の手順
 2.2 モデルベース開発
 2.3 制御のためのモデリングのポイント
 2.4 システム同定法
 2.5 基幹部品のモデリングの例
 2.6 移動体のモデリング
第3章 フィードバック制御系の基本的な設計手順
 3.1 制御系の設計手順
 3.2 簡単な倒立振子の制御系設計
 3.3 倒立2輪ロボット実験
第4章 ハイブリッド車・電気自動車の走行制御
 4.1 走行システムの電動化
 4.2 ハイブリッド電気自動車
 4.3 インホイールモータの電気自動車
第5章 電池と電源システム
 5.1 移動体の電源
 5.2 燃料電池
 5.3 金属空気電池
 5.4 電気化学キャパシタ
 5.5 二次電池
 5.6 バッテリーマネジメント
第6章 走行用モータとその制御
 6.1 電動モータの基本特性
 6.2 交流モータ駆動システムの構成と基本特性
 6.3 移動体システムに使われるモータ
 6.4 交流モータの高性能制御
 6.5 センサレスドライブ
 6.6 モータの駆動回路
索 引


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