熱とエネルギーを科学する
価格:2,860円 (消費税:260円)
ISBN978-4-501-41900-4 C3053
奥付の初版発行年月:2011年05月 / 発売日:2011年05月中旬
本書は熱エネルギーがどのようにして作られ、どのように伝えられ、どのような使われ方をしているのかをわかりやすく解説。また、次世代のエネルギー問題を見据えて熱エネルギーを貯める方法や効率的な利用方法などもわかりやすくまとめた。熱エネルギーの基本的な考え方や仕組みをやさしく説明。
はじめに
経済活動が活発になり,人々の活動範囲が広がるにつれ,活動の源になるエネルギーの使用量も多くなって,世界的にもエネルギー資源の確保が問題になり,新たな資源の開発や節減が課題になっています。
エネルギーというと,電気エネルギーとか機械エネルギーがすぐに思い浮かびますが,エネルギーにもいろいろな種類があります。ここでは熱エネルギーに注目しました。各エネルギーの間には,相互に変換する関係があります。それぞれのエネルギーの実態を知り,扱い方を工夫していくことが,エネルギーを大切に使うために肝要なことです。
電気や機械エネルギーを得るには,物を燃やして得られる熱エネルギーを利用します。熱エネルギーは物を暖め,冷やし,蒸気を発生し,氷を作り,機械エネルギーや電気エネルギーを作るのに役立っていますが,熱エネルギーは分散してしまうと,まとめて再利用することは難しくなります。電気や機械エネルギーを使えば使うほど,熱エネルギーも多く使われ,電気や機械エネルギーを使用した後には,多くの熱エネルギーをエネルギーロスとして発生させ,環境の温暖化を進めます。
日常生活では物が熱いとか,気温が低いということで熱は感じられますが,熱エネルギーがどのように働き,移動しているかなどを意識することはあまりないし,その原理,原則まで考えることは少ないと思います。しかし,今後予想される地球温暖化のことを思うと,温度が上がるということや,そのもとになっている熱エネルギーのことを知り,考えることは生活環境の維持改善にとっても必要なことです。
そこで,我々は日常生活や産業の場における熱エネルギーの働きや,熱エネルギーがどのようにして作られて,どのように伝えられていくのか,どんな使われ方をしているのか,便利な熱エネルギーを貯める方法はあるのか,熱エネルギーの損失を抑え,効率的に利用するにはどのような工夫がされているのかなどを課題としました。そして,初めて熱エネルギーに関心を持った人が,熱や熱エネルギーについて基本的な考えや仕組みを把握できるように,難しい議論は避け,やさしく説明しながら,例題や実例も参考に,皆さんと一緒に考え,科学していくことにしました。
本書は理系の大学生,熱についての知識を必要とする社会人,家庭で熱の合理的使用を考えている人など,熱エネルギーについて関心のある方に読んでいただき,熱エネルギーについて興味を持ち,併せてエネルギー全般についての考えを深められることを期待しています。
さらに進んで,熱やエネルギーの勉強をしたいという方は,熱工学,熱力学,物理化学,化学工学,エネルギー分野の専門的な書物を手に取り,または高校や大学程度の物理,化学の教科書を振り返って見られることをお勧めします。
本書の執筆を担当したのは,(社)化学工学会のシニア技術者の集まりであるSCE・Net(シニア・ケミカルエンジニアーズ・ネットワーク)の会員で,永年,企業で第一線の化学技術者として,技術の管理者として,熱やエネルギーに関わりながら活躍してきた者です。執筆に当たっては,研究開発や生産管理の現場で経験し,考えたこと,知識として学んできたことをもとに,熱エネルギーについてやさしく,分かりやすく,正確に説明することを心がけました。まだ不十分の点がありましたら,ぜひご教示いただきたいと考えます。
最後に,本書を執筆するに当たり,終始ご支援をいただいたSCE・Netの岩村孝雄代表をはじめ,同会エネルギー研究会の皆様,また図表・写真などの引用・転載をご許可いただいた方々,および企画から最終の仕上げまでご指導いただいた(株)工業調査会の一色和明取締役に心から感謝いたします。
2007年9月吉日
執筆者を代表して 弓削 耕
追 記
本書は2007年の初版発行以来,(株)工業調査会から刊行され,幸いにも長きにわたって多くの読者から愛用されてきました。このたび東京電機大学出版局から新たに刊行されることとなりました。本書が今後とも読者の役に立つことを願っています。
2011年5月
執筆者を代表して 弓削 耕
目次
1章 熱とは
1 熱エネルギーと温度
2 エネルギー
3 熱エネルギーへの変換
2章 熱の測り方
1 温度の測定方法
2 温度を測定する計器
3 温度の単位
4 エネルギーの単位
5 SI単位
3章 熱の作り方
1 化石燃料の利用
2 原子力の利用
3 新エネルギーの利用
4章 熱の伝わり方
1 伝導伝熱
2 対流伝熱
3 放射伝熱
5章 熱の伝え方
1 熱を伝える速度を支配する物性
2 熱の移動を速くする
3 ヒートパイプ
4 放射伝熱のコントロール
5 乾燥に必要な因子
6章 熱を伝える機器
1 熱交換器の要素
2 管式熱交換器
3 多管式熱交換器
4 プレート式熱交換器
5 渦巻型熱交換器
6 立方形熱交換器
7 攪拌槽
8 加熱ヒータ
9 熱媒と冷媒
7章 熱を上げる,下げる
1 お湯を沸かす
2 蒸気による加熱
3 物を冷やす
4 暖房と冷房
8章 熱で物の形態を変える
1 熱による相変化
2 物を熱して分ける
3 温度による固体の相変化
4 熱処理
9章 熱を貯める
1 身の回りの蓄熱
2 エネルギーを蓄える効果
3 蓄熱の種類とその特徴
10章 熱を節約する
1 エクセルギーとエネルギー効率
2 熱を回収する
3 軽量化する
4 熱の損失を少なくする
5 摩擦熱,抵抗を少なくする
6 作り方,プロセスを変える
7 クールビス,ウォームビズ運動
11章 熱を効率よく利用する
1 空調
2 ヒートポンプの効率のよい使い方
3 熱のカスケード利用
4 電気エネルギーと熱エネルギーの総合的利用
著者略歴
さくいん