「リアル」を掴む! 力を感じ、感触を伝えるハプティクスが人を幸せにする
価格:1,760円 (消費税:160円)
ISBN978-4-501-42000-0 C3053
奥付の初版発行年月:2017年02月 / 発売日:2017年02月中旬
本書は、世界で初めて「鮮明な力触覚の伝送技術」の開発に成功した慶應義塾大学の大西公平教授が、その理論的背景とあらゆる分野に拡がる応用について、インタビューの形式を採りながら、平易に解説したものである。究極の多目的機械である人間の行為を代行するには、力を感じ感触を伝え、環境に順応する能力が必須であり、それが介護や福祉など広範囲に使えるロボットが求められている分野において最重要の技術となることを説く。
はじめに
本書は、著者がこれまで受けてきた専門誌や各種雑誌、テレビ・ラジオでのインタビュー、一般講演における質疑応答などにおいて交わされた、素朴な質問や高度な質問をまとめ、それらが一つの大きな流れを持つように加筆し、再構成したものです。
したがって、その問いかけは,専門家や大学院生から出された高度なものもあれば、専門を異にする現場の開発者の方や、普段は技術的な問題にあまり関心を示されない一般の方などから出された基本的なものまで、多岐に渡るものが渾然一体となって登場します。
そうしたさまざまな問いの中に共通しているのは、「力とは何だろう」「触れるとはどういう行為だろう」というものです。私達には、聞くこと、見ることによって、対象を把握する感覚、いわゆる「聴覚」「視覚」があるのと同じ意味で、力を感じる感覚、すなわち「力覚」、触った感じを捉える感覚、すなわち「触覚」があります。これらをまとめて、力触覚(りきしょっかく)という言葉で表しますが、本書の副題にもなっています「ハプティクス(Haptics)」とは、この力触覚を、力、振動、動きなどを通して、利用者に与える技術です。
古来「百聞は一見に如かず」といいます。これは聴覚よりも、視覚の方が情報の量が多く、「より理解されやすい」ことを表した言葉でしょう。しかし、対象が硬いか柔らかいか、その肌触りは、といったことは、いくら高精細の画像を用いたところで分かりません。ここに力触覚を伝える重要性があるわけです。「ハプティクス」という全く新しい学問分野が注目されている理由です。
一般に理工学に関する著作の内容を、専門的になり過ぎず、かといって表面だけを捉えた底の浅いものに終わらせないように調整することは、なかなかの難事です。加えて、広い層の皆さんに関心を持って頂くためには、大胆な省略を行ったり、身近な体験や具体的な例を引いたりする形で、議論の本質にのみ話題を集中させていくことが必要でしょう。
ましてや、見ても聞いても分からない、皮膚感覚を扱う学問の本質を、著作という紙媒体の上でお伝えすることは、自らの力量を顧みても、まず不可能であろうと諦めていたところ「インタビューの形式を保ったまま、全体を再構成する」というアイデアを出版社からご提案頂き、それならば何とかこの難事に挑むこともできるのではないかと考えを改め、本書ができあがりました。
各章の冒頭は、本書のために新しく行った担当編集者の方との対話が基軸になっています。日吉、溝の口、新川崎という私達研究グループの活動拠点を中心に、周辺の雰囲気も加えてお伝えすることができればと考えました。この本によって、この新しい学問分野に、少しでもご興味、ご関心を持って頂くことができたなら、まさに望外の幸せです。
著者
大西 公平(オオニシ コウヘイ)
慶應義塾大学教授
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
はじめに
第一章 柔らかく掴む
ハプティクス義手の衝撃
足で操る手
工学的実現とは何だろうか
学生のアイデアが活きる時代
柔らかいロボット
連動する指
事前学習無用のロボット
第二章 遠くから掴む
リアルの由来
テレの由来
蒼き海を行け
ハプティクスの医学への応用
ハプティクス鉗子の成果
身近な力センサー
機械設計の思想
第三章 汎用機で掴む
若き研究者たちの秘密基地
プロジェクトの詳細
手術は柔らかい手で
硬さの由来
ロボットという言葉、そしてGPMへ
プレゼンテーションの難しさ
第四章 双対性で掴む
手回し発電機の実験
双対性で掴む
理想世界のMとG
差のモードは位置を制御する
和のモードは力を示す
数学と工学の違い
ニュートンを騙す
ABCからはじめよう
疑似感覚と実感覚
第五章 日本発で掴む
明治維新以降の日本
超成熟社会
「行為」は時空を超える
新時代のハムレット
教育の問題
好奇心の赴くままに
おわりに