ブレンディッドラーニングの戦略 eラーニングを活用した人材育成 The Blended Learning Book: Best Practices, Proven Methodologies, and Lessons Learned
価格:3,520円 (消費税:320円)
ISBN978-4-501-54090-6(4-501-54090-7) C3037
奥付の初版発行年月:2006年03月 / 発売日:2006年03月中旬
効果的な教材の開発方法を事例を交えて解説
本書は,「ブレンディッドラーニング」を冠する,日本で初めての書になります。「ブレンディッドラーニング」というのは,聞き慣れない言葉かもしれません。しかし,副題にある「eラーニング」は,今日ではICTを活用した学習手段として,大学や企業などで注目を浴びています。
このeラーニングで一番の問題は,著者のJosh Bersinも「はじめに」で述べている通り,学習者が途中で学習をやめてしまう「ドロップアウト」です。これまでeラーニング以前にも,多くの通信教育が,この問題にさいなまれてきました。さまざまなメディアを教育・学習に利用できるようになった反面,この問題に対して,私たちが専攻する教育工学の研究成果は,十分に太刀打ちしてきたとは,言えません。
しかし,最近「ブレンディッドラーニング」が,この問題に対する有効なアプローチとして,注目されてきました。通常,ブレンディッドラーニングといえば,対面授業,集合研修とeラーニングと併用することです。対面で行われる集合研修をペースメーカーにすることで,eラーニングによる学習を継続させることが,ある程度可能であるということは,今では広く知られてきています。私の研究室のゼミを熱心に聴講されている青山学院大学の松田岳士さんから,この本の紹介をされたとき,私もそのように思っていました。
しかしながら本書では,ブレンディッドラーニングを,対面の研修ばかりでなく,さまざまなメディアを組み合わせた学習・教授方法として捉えていることに,驚きました。そして,学習目的・教育目的に応じて,あるいは予算に応じて,どのようにメディアを組み合わせて,効果的な教材を開発していけばいいかということを,事例を交えてわかりやすく説明しています。最近,アメリカの企業内教育で急速に利用されはじめている,オンラインセミナーのような新しいメディアについても述べられています。これまで,教育学,教育工学の観点から,インストラクショナルデザインについて書かれた本はありましたが,本書で述べられていることは,まさに企業の現場で行われている実践的なインストラクショナルデザインといえるものです。
本書は,基本的には企業内教育の文脈で書かれています。しかし,そこで述べられていることの多くは,大学をはじめとして,さまざまな教育・学習におけるメディアの活用場面に,実践的に役に立つに違いありません。それは,原題にもあるとおり,長年にわたって,eラーニングの先進国であるアメリカで,著者たちが企業内教育の現場で対峙してきた,さまざまな問題解決のプラクティスの積み重ねであるからこそでしょう。その意味で,企業で人材育成を担当される人や,今後インストラクショナルデザイナーを目指す人ばかりでなく,企業や大学でeラーニングを始めようとされる経営者や,大学や大学院で教育学を学ぶ学生にとっても,良書となるに違いありません。
この翻訳書の原題は,The Blended Learning Book:Best Practices,Proven Methodologies,and Lessons Learnedですが,邦題は「ブレンディッドラーニングの戦略:eラーニングを活用した人材育成」としました。本書はeラーニングの企画から予算確保,ブレンドするメディアの選択方法,開発管理,実施,支援にいたるまでが述べられています。とくに,eラーニングコースを開発しそれを展開していくうえで効果的かつ効率的にするための工夫が書かれており,まさに「戦略」ということばがふさわしいと考えたからです。
なお本書は,松田岳士,望月俊男,山田政寛,新目真紀の新進気鋭の教育工学研究者と,eラーニングの国際標準化について造詣の深い原潔氏によって訳されたもので,より多くの人たちの目にとまり活用していただければ幸いです。
2006年(平成18年)早春
赤堀 侃司
目次
序章 はじめに
インターネットを基礎とした学習:ひとつの冒険
何についての本なのか
ブレンディッドラーニングを定義する
eラーニングの進化:新奇なものから現実のものへ
eラーニングはなぜよく失敗するのか
難問:ブレンドを定義する
実際の経験に焦点をあてる
本書について:実証されたアプローチ
本章のまとめ
第1章 ブレンディッドラーニングへの道 その歴史
テクノロジーを用いたトレーニングの進化
インストラクター主導のトレーニング
メインフレームベースのトレーニング
衛星経由のライブ映像
CD−ROMを用いたコンピュータの時代
学習管理システムの開発と航空産業CBT委員会
ウェブベースのトレーニング(WBT)の登場:第一世代
現在:幅広い選択肢
本章のまとめ
第2章 ブレンディッドラーニングの経営
予算不足の問題
ポートフォリオによる管理:高いインパクトを与える投資分野を特定する
ポートフォリオによるプログラムの資源分配
「コスト削減」プログラムの罠
高インパクトのプログラム
測定可能な目標をつくる
資格認定プログラム:特別なケース
経営目標との整合性
ブレンディッドラーニングは強力な経営ツールである
本章のまとめ
第3章 ブレンディッドラーニングのデザインコンセプト
人はどのように学ぶか
習得のゴール
6つの学習モデル
体験に基づく学習の価値を支持する研究
ブレンドは効果を発揮する:ThomsonNETg社の業務インパクト研究
文化的ゴール:社会化と注目の集中
企業内トレーニングの4タイプ
プログラムの性格のトラッキングと成果報告
本章のまとめ
第4章 ブレンディッドラーニングの実証されたモデル
ブレンディッドラーニングへの2つのアプローチ
5つの具体的なブレンディッドラーニングのモデル
本章のまとめ
第5章 ブレンドモデル選択の8基準
基準1:プログラムのタイプ
基準2:文化的ゴール
基準3:学習者
基準4:予算
基準5:人的資源
基準6:時間
基準7:学習コンテンツ
基準8:技術
本章のまとめ
第6章 予算の算出
予算の規模算出:問題の大きさを定義する
学習者1人当たりのコスト計算
ブレンディッドラーニングの経済性
予算の5要素
現実のコスト:ブレンディッドラーニングWhatWorksによる研究
本章のまとめ
第7章 メディア選択:的確なブレンド
選択基準の再検討
16種類のメディア
インストラクター主導のトレーニングをいつ用いるべきか
OJTをいつ用いるべきか
ライブ研修vs.自学自習
プログラムタイプ1:情報の一斉配信プログラム
プログラムタイプ2:重要な知識の転移プログラム
プログラムタイプ3:スキルとコンピテンシープログラム
プログラムタイプ4:資格認証を伴うスキルとコンピテンシープログラム
メディア選択
本章のまとめ
第8章 コンテンツ開発
インストラクショナルデザインチーム
コンテンツ開発の典型的な課題
プログラム計画の開発
教授計画
基準の取り決め
コンテンツを再利用可能にする
eラーニングコンテンツ開発過程
SMEと働く
オンラインセミナーもしくはライブコンテンツ開発
開発ツール
ツールの例
シミュレーション
コンテンツ開発のヒントとテクニック
コンテンツ開発のアウトソーシング
本章のまとめ
第9章 学習技術とインフラストラクチャー
ブレンディッドラーニングのインフラ再検討
基準の使用・設定
どの程度の価格の学習インフラが必要か
LMSは本当に必要か
低コストLMSを用いたアプローチ
LCMSと開発ツール
本章のまとめ
第10章 プログラムマネジメント 開始,展開,支援
eラーニング活用の課題
プログラムスケジュールの再検討
プログラム開始
役員と経営者からの支援
特定の開始イベント
プログラム実施中のマーケティング
支援と運用
学習センター
現場の調整役
成果の測定と報告の進捗
経営陣とのコミュニケーション
部門管理職とのコミュニケーション
本章のまとめ
今後の展望
なぜブレンディッドラーニングがこれほど重要なのか
ブレンディッドラーニングはどこに向かっているのか
付録
付録A:ケーススタディとソリューション
付録B:ブレンディッドラーニング研究:財務概況
付録C:ケーススタディ ビジネス戦略
付録D:プログラムチェックリスト
付録E:メディア選択の8基準
付録F:16のメディアとその解説
付録G:用語集
付録H:詳細な教授プラン例
索引
著者紹介
監訳者紹介
訳者紹介