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楽園追放とピクサー創立スティーブ・ジョブズIV

スティーブ・ジョブズIV 楽園追放とピクサー創立

四六判 468ページ 並製
価格:3,190円 (消費税:290円)
ISBN978-4-501-55630-3 C3004
奥付の初版発行年月:2018年03月 / 発売日:2018年03月中旬

内容紹介

既刊『スティーブ・ジョブズ』の第4巻。スティーブ・ジョブズがアップル・コンピュータ社から追放された後、ネクスト(NeXT)社の設立から、ピクサー(Pixar)社の買収、そして同社のウォルト・ディズニーへの売却に至るまでを、当時の人間関係や技術的背景・変遷も含め詳細に記述。

前書きなど

 スティーブ・ジョブズの評伝『スティーブ・ジョブズ』シリーズの第IV巻。

 本書は、スティーブ・ジョブズがアップル・コンピュータ社から追放されてネクスト(NeXT)社を設立、そしてピクサー(Pixar)社を買収して同社をウォルト・ディズニーへ売却するに至るまでを、当時の人間関係や技術的背景・変遷も含め、詳細に記述する。
 1985年4月11日、スティーブ・ジョブズは、アップル・コンピュータの取締役会にマッキントッシュの売上げ不振の責任を問われて、まったく実権のない閑職に追いやられた。
 1985年9月12日、スティーブ・ジョブズは、アップル・コンピュータの取締役会に出席し、高等教育市場向けのコンピュータを作る新たな会社を設立する考えを述べた。これに対しアップル・コンピュータの対応は複雑な経緯をたどるのだが、ともかく1985年9月17日、スティーブ・ジョブズの新会社ネクスト・インクの設立の登録届けがカリフォルニア州の州務長官宛に郵送された。
 スティーブ・ジョブズは、早速、人集めを開始し、当初は自宅のジャックリング・ハウスに本社を置き、有名な海賊旗を掲揚し、意気軒昂たるところを見せた。そして1985年12月から、ネクストの本社は、ゼロックスのパロアルト研究所PARCの南側のパロアルト市ディア・クリーク・ロードに移転を開始し、3年間そこに留まった。
 スティーブ・ジョブズは、ネクストを自分の理想に基づいて、新しいカルチャーを持った理想の企業に育てたかったのだろう。そこには1970年代のコミューン文化、カウンター・カルチャーの残照が見られる。
 またネクストという企業は、スティーブ・ジョブズというカリスマ的指導者に率いられた閉鎖的な新興宗教の教団のようだった。
新しい理想の企業、あるいはコミュニティを作るには、構成員の選別が大事である。この選別は社員全員一致を原則としていて非常に厳しかった。
 アップル・コンピュータでの失敗に懲りて、スティーブ・ジョブズは、ネクストの資本金の70パーセントを負担し、ネクストの完全な支配権を確保した。これには良い面と悪い面があった。乗っ取りの不安はなくなったが、忠告をしてくれる人がいなくなってしまったのである。
 スティーブ・ジョブズが会社経営の哲学として参考にしたのはエドウィン・ランド、トーマス・エジソン、ヘンリー・フォードなどの大発明家であり、大企業家であった。
ネクストは前進を開始したが、初めてのコンピュータが出荷されるのは、最短でも18か月後の1987年という見通しであった。それすら厳しいという感じであった。
 不思議なことにスティーブ・ジョブズは、ネクスト以外にも目を向け、1986年2月3日、ジョージ・ルーカスのルーカス・フィルムのコンピュータ部門のグラフィックス・グループを1000万ドルで買収した。買収後の社名はピクサーという。したがって、スティーブ・ジョブズは、一九八六年のスタート時にネクストとピクサーという2つの会社を持ち、同時に運営していくという2正面作戦を採った。これはたやすい道ではなかった。
 ネクストとピクサーの発展を切り替えながら叙述していくやり方もあるが、本書ではピクサーを主に扱い、ネクストについては、いつかまた別の書物で扱うことにしたい。執筆を始めた当初は、ピクサーを簡単に扱って、ネクストに移るつもりであった。そのための資料も草稿も準備した。しかし、ジョージ・ルーカスのルーカス・フィルムからピクサーに至る道は非常に複雑で、とてもそう簡単に語り尽くせるものではないということが次第に分かってきた。
 そこでスティーブ・ジョブズのネクストの創立、アンセル・アダムスの写真、エドウィン・ランドのインスタント・カメラ、ジョージ・ルーカスのルーカス・フィルムの映画、NYITコンピュータ・グラフィックス研究所、ルーカス・フィルムのコンピュータ部門、スティーブ・ジョブズのピクサーの買収、ピクサーのアニメーションという順に話を展開させることにした。
 いくぶん変わった構成であるかもしれないが、私にとってスティーブ・ジョブズを理解するための大事な道程であったと思う。 本書の叙述には、できる限り慎重を期したつもりであるが、浅学非才の筆者ゆえ、気が付かなかった間違いも多々あるかもしれない。読者の御寛恕を頂ければ幸いである。
本書が成立できたのは本書の編集に熱心に取り組んで頂いた東京電機大学出版局の江頭勝己氏、小田俊子氏、渋谷則夫氏をはじめとする皆さんのおかげである。厚く感謝する。
 また本書執筆のお勧めを頂いた東京電機大学 加藤康太郎理事長には深甚なる感謝の意を表したい。

2018年2月
著者 脇 英世


目次

第1章 アップル・コンピュータ追放と訴訟の追い打ち
 ネクスト設立前夜
 ネクスト最初の5人のメンバー
 リッチ・ペイジ
 バド・トリブル
 ジョージ・クロウ
 スーザン・バーンズ
 弁護士 ラリー・ソンシーニ
 ネクスト・インクの設立
 アップル・コンピュータとの決別
 マイク・マークラへの辞表提出
 アップル・コンピュータによる告訴
 だらだら続く訴訟とその終焉
第2章 ジャックリング・ハウスにひるがえる海賊旗
 クリスアン・ブレナンとバーバラ・ヤシンスキー
 ジャックリング・ハウス
 ティナ・レドセと家具のない家
 イオ・ミン・ペイ
 ビル・クリントン大統領との出会い
 モニカ・ルインスキー事件
 青いドレスの絵の紛失事件
第3章 ネクスト本社の移転
 ディア・クリーク・ロード3475番地
 ネクストの新しい社員達
 ブルース・ブランバーグ
 トム・カーライル
 リン・フランクリン
 スーザン・ケア
 レオ・フルビッツ
 ジョアンナ・ホフマン
 キャロライン・ローズ
 ビル・ワーゼン
 J・デイビッド・ワグナー
 ネクストのロゴとポール・ランド
 ブラック・キューブとデザイン優先の思想
 ハルトムット・エスリンガーの獲得
 ブラック・キューブの鋳造の難しさ
第4章 ターゲットを絞り準備を整える
 大学側の希望を聞く
 3Mマシン
 アップル・ユニバーシティ・コンソーシアム
 ダニエル・ルイン
 ネクストの方針決定のリトリート
 一九八六年二月 ペブル・ビーチ
 ジョー・ノセラ
第5章 強敵 サン・マイクロシステムズ
 ワークステーションの足音
 フォーレスト・バスケット教授とサン・ターミナル計画
 アンディ・ベクトルシャイム
 ビノッド・コースラとサン・マイクロシステムズの創立
 スコット・マクニーリ
 ビル・ジョイ
 BSD
 サン・マイクロシステムズの躍進
第6章 アンセル・アダムス
 巨匠への思慕
 アダムス家
 ベイカー・ビーチと甘やかされた子供
 父の家業の没落
 音楽との出会い
 ヨセミテ
 巨匠アルフレッド・スティーグリッツとの出会い
 ボーン・フリー・アンド・イークォル
 ゾーン・システムの教科書とワークショップ
第7章 エドウィン・ランド
 スティーブ・ジョブズとエドウィン・ランドの遭逢
 トム・ヒューズ
 光に興味を持つ少年
 光学への憧れと読書
 ハーバード大学入学と最初のドロップアウト
 クラレンス・ケネディとポラロイド社
 ポラロイド株式会社の設立
 立体視
 第二次世界大戦とポラロイド社
 ポラロイド・カメラの発明
 メロエ・モースと白黒フィルム
 ハワード・ロジャースとカラー・フィルム
 SX―70カメラ
 ビル・マッキューン
 ポラビジョン
 エドウィン・ランドの退陣
第8章 ジョージ・ルーカスの帝国
 ジョージ・ルーカスの青春時代
 USCの映画学科
 マーシャ・グリフィン
 ゾイトロープ
 ゲアリー・カーツ
 様々な試行
 アメリカン・グラフィティ
 アメリカン・グラフィティ2
 地獄の黙示録
第9章 スター・ウォーズ
 アラン・ラッド
 ラルフ・マッカリー
 SFXとILMの設立
 スター・ウォーズの大成功
 スプロケット・システムズ
 チャーリー・ウェーバー
 帝国の逆襲
 ジェダイの帰還
 スカイウォーカー・ランチ
 ジョージ・ルーカスとマーシャ・ルーカスの離婚
第10章 NYITコンピュータ・グラフィックス研究所
 エドウィン・キャットマル
 ユタ大学とアニメーション
 アレクサンダー・シュア
 アルビー・レイ・スミス
 PARCのリチャード・シャウプ
 NYITコンピュータ・グラフィックス研究所
 フレーム・バッファ
 トム・ダフ
 ラルフ・グッゲンハイム
 アンペックス
 NYITからの集団大脱走
第11章 ルーカス・フィルムのコンピュータ部門
 サンアンセルモ
 アルビー・レイ・スミスとデイビッド・ディフランチェスコ
 ジョン・シーモンズ
 ラルフ・グッゲンハイム
 ビル・リーブス
 アンディ・ムーラー
 トム・ダフ
 ローレン・カーペンター
 トム・ポーター
 ジム・ブリン
 ロブ・クック
 タンステッドへの移転
 ノバートの工業団地への移転
 ピクサー・イメージ・コンピュータ
 待ち焦がれていた注文の到来
 ルーカス・フィルムのコンピュータ部門
 ポイント・レイズへの道
第12章 ルーカス・フィルムのゲームへの進出
 ノーラン・ブッシュネルとアタリ
 ピーター・ラングストン
 デイビッド・フォックス
 デイビッド・レビン
 チャーリー・ケルナー
 スティーブ・アーノルド
 ジャック・トラミエールのアタリ買収
 チップ・モーニングスター
第13章 ザ・ドロイド・ワークス
 編集ロボットのエドロイド
 エディットドロイド
 サウンドドロイド
 ザ・ドロイド・ワークス
第14章 スティーブ・ジョブズによるピクサー買収
 ジョン・ラセター
 一九八四年のシーグラフ
 ウォルト・ディズニー・プロダクションとの交渉
 ダグラス・ノービーとグラフィックス・グループの売却話
 アラン・ケイとスティーブ・ジョブズ
 3社合同での試みの崩壊
 スティーブ・ジョブズによる買収
 止まるピクサー・イメージ・コンピュータの売れ行き
第15章 アニメーションへの転進と大逆転
 ピクサーの初期の短編アニメーション
 ディズニーとのCAPSの契約
 レンダーマン
 CMへの転進
 ポイント・リッチモンドへの移転
 アルビー・レイ・スミスとの衝突
 株式の取り上げと社員解雇
 ウォルト・ディズニーとの契約
 スティーブ・ジョブズの悲鳴とピクサー売却交渉
 スティーブ・ジョブズの一打逆転戦術
あとがき
引用・参考文献
索引


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