自由な精神による翻訳が創造した、近代日本の民主主義
明治の言論界にあって〈東洋のルソー〉と称された中江兆民。その鋭い筆鋒と衰えぬ批判精神は、ルソーとの時空を越えた対話によって形づくられた。本書は、ルソー『社会契約論』と、兆民によるその翻訳書、特に彼の主著ともいわれる『民約訳解』とを詳細に比較検討した成果である。未知の統治制度=民主主義に向き合った兆民の思想的格闘を活写し、彼が手探りで制度の本質を理解していったことを明らかにする。
本書は、日本図書館協会選定図書です。
山田博雄(やまだ ひろお)
中央大学法学部兼任講師、博士(政治学)。
新潟県に生まれる。1995年、中央大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得満期退学。
主要業績に、『体制擁護と変革の思想』 (共著、中央大学出版部、2001年)、『兆民をひらく—明治近代の〈夢〉を求めて—』(共著、光芒社、2001年)、『福沢諭吉の思想と近代化構想』(共著、慶應義塾大学出版会、2008年)など。
目次
序
第一章 『民約訳解』の全体構想
第一節 翻訳の思想──『訳解』の「叙」「民約訳解緒言」「訳者緒言」「著者緒言」
第二節 作品としての『訳解』
第三節 『訳解』を一貫する主題
第四節 『訳解』の原初的着想──巻之一第一章「本巻の旨趣」
第二章 『民約訳解』の基本的視座
──「力」「自由権」「約」──
第一節 家父長権説批判の論理──巻之一第二章「家族」
第二節 「力」と「義」をめぐって──巻之一第三章「強者の権」
第三節 「力」批判論の構造──巻之一第四章「奴隷」
第四節 人民統合の原理──巻之一第五章「終いに約を以て国本と為さざる可からず」
第三章 『民約訳解』の根本概念
──ルソーと兆民の契約観を中心に──
第一節 「社会契約」の訳出──巻之一第六章「民約」
第二節 「主権者」の訳出──巻之一第七章「君」
第三節 「社会状態」の訳出──巻之一第八章「人世」
第四節 「土地支配権」の訳出──巻之一第九章「土地」
第四章 『民約訳解』の「一般意志」論
──「君権」と「公志」(「衆志」)の諸相(一)──
第一節 「君権」論──巻之二第一章「君権は以て人に仮す可からず」
第二節 「公」「私」、「志」「利」──巻之二第二章「君権は以て人に分かつ可からず」同第三章「衆志も亦た錯ること有るか」
第三節 「民」権の擁護──巻之二第四章「君権の限極」(前半)
第五章 『民約訳解』にみえる戦争観
──「君権」と「公志」(「衆志」)の諸相(二)──
第一節 「国」の「難に赴」く時(一)──巻之二第四章「君権の限極」(後半)
第二節 「国」の「難に赴」く時(二)──巻之二第五章「人を生殺するの権」
第六章 『民約訳解』の法思想
──巻之二第六章「律例」──
第一節 「律例」と「道徳」
第二節 「律例」からみた「公」と「私」──「一般意志」再論
第三節 「制作者」の登場と訳出の終わり
第七章 『非開化論』の「文明開化」構想
第一節 『非開化論』の特徴
第二節 「文明開化」批判の諸相
第八章 「民主国ノ道徳」と主体の確立
第一節 「民主国」の側面
第二節 「道徳」の側面
結
参考文献
あとがき
索引