科学する詩人 ゲーテ
価格:3,080円 (消費税:280円)
ISBN978-4-7664-1727-2 C98
奥付の初版発行年月:2010年04月 / 発売日:2010年02月上旬
ポエジーと科学の交感
▼18世紀の詩人ゲーテは、ヴァイマル公国の高級官吏であり、同時に熱心な自然研究者であった。膨大な自然科学コレクションを収集・分析し、自然科学分野に関する論文も執筆したゲーテは、一方で、新しく獲得した科学の知識を積極的に彼の文学作品に応用した。ゲーテの文学作品の本当の面白さ、そして味わい深さは、「詩人にして官僚、並びに自然研究者」という職業コンビネーションから生み出されたものだと言える。逆にこのことは、ゲーテが活動した時代の自然科学の知識や背景、また政治状況を把握しないとわからない内容も多々あることを意味する。
本書では、ある時は公務ゆえ、またある時は好奇心に目を輝かせて、当時の最先端の科学に積極的に関与しながらも、決して等身大の人間の視点を失うことなく、終生、誠実に自然と対話し続けたゲーテの詩と科学の交感を描く。
『科学する詩人 ゲーテ』(石原 あえか 著、慶應義塾大学出版会)
本書の「お礼の言葉 あとがきに代えて」をご覧いただけます。
本書は、日本図書館協会選定図書です。
石原あえか(イシハラアエカ)
慶應義塾大学商学部教授
慶應義塾大学大学院在学中にドイツ・ケルン大学に留学、同大でDr.phil.を取得。学位論文Makarie und das Weltall(1998)以来、一貫してゲーテと近代自然科学を研究テーマにしている。2005年にドイツ学術交流会Jacob-und-Wilhelm-Grimm-Förderpreis受賞。2005年刊行のGoethes Buch der Naturにより、第三回日本学術振興会賞および日本学士院学術奨励賞(FY2006)を受賞。本会刊行の訳書にH. J. クロイツァー著『ファウスト 神話と音楽』(2007)、M. オステン著『ファウストとホムンクルス ゲーテと近代の悪魔的速度』(2009)がある。2009年4月から1年間、Alexander von Humboldt-Stiftungの研究フェローとして、Friedrich-Schiller-Universität Jenaで研究滞在を行った。
石原あえか(いしはら あえか)
慶應義塾大学商学部教授
慶應義塾大学大学院在学中にドイツ・ケルン大学に留学、同大でDr.phil.を取得。学位論文Makarie und das Weltall(1998)以来、一貫してゲーテと近代自然科学を研究テーマにしている。2005年にドイツ学術交流会Jacob-und-Wilhelm-Grimm-Förderpreis受賞。2005年刊行のGoethes Buch der Naturにより、第三回日本学術振興会賞および日本学士院学術奨励賞(FY2006)を受賞。本会刊行の訳書にH. J. クロイツァー著『ファウスト 神話と音楽』(2007)、M. オステン著『ファウストとホムンクルス ゲーテと近代の悪魔的速度』(2009)がある。2009年4月から1年間、Alexander von Humboldt-Stiftungの研究フェローとして、Friedrich-Schiller-Universität Jenaで研究滞在を行った。
目次
序 章 詩人ゲーテのもう一つの貌 《ポエジー》と《科学》
Ⅰ ようこそ、ゲーテ・ハウスへ
Ⅱ 西欧学術伝統におけるヒエラルキーと象徴的書物
Ⅲ ルクレティウス再発見と「教訓詩」というジャンル
Ⅳ ニュートンの光学実験と詩人たち
Ⅴ ゲーテ作品における虹のモティーフ
第1章 始まりはイルム河畔の「庭の家」 ゲーテと植物学
Ⅰ ヴァイマル仕官の経緯と拝領した「庭の家」
Ⅱ リンネと恋する植物
Ⅲ ゲーテの「原植物」とセイロンベンケイ草
Ⅳ ゲーテの伴侶クリスティアーネと教訓詩『植物のメタモルフォーゼ』
Ⅴ 閑話休題・ゲーテの恋歌変遷 『野薔薇』から『見つけた』へ
Ⅵ イェーナ大学附属植物園と詩『銀杏の葉』
Ⅶ オーストリアから派遣されたブラジル探検隊とヴァイマル宮廷
第2章 種痘と解剖実験 ゲーテと医学
Ⅰ ゲーテと天然痘 『詩と真実』の描写から
Ⅱ ヴァイマルにおける天然痘流行 フーフェラントとシュタルク
Ⅲ 英国医師ジェンナーと牛痘法
Ⅳ ゲーテが理想とした医師像 ヴィルヘルム・マイスターの解剖実習
Ⅴ イェーナ大学新解剖塔とゲーテの師・ローダー
Ⅵ 解剖学図とイェーナ大学専属絵画教師
Ⅶ 若き医学講師マルテンスと蝋製標本
Ⅷ 『遍歴時代』におけるヴィルヘルムと造形解剖学者との対話
第3章 避雷針と望遠鏡 ゲーテと物理学
Ⅰ 避雷針の発明者フランクリンとドイツにおける普及
Ⅱ 啓蒙科学の前哨戦 天体望遠鏡導入をめぐって
Ⅲ 近代のプロメテウス像復活
Ⅳ 啓蒙主義による雷の脱魔術化
Ⅴ 自然研究者の限界
Ⅵ ゲーテ後期作品における《望遠鏡》モティーフ
第4章 生命が充満する宇宙と天文台 ゲーテと天文学
Ⅰ 「世界の複数性」 ゲーテの時代の地球外生命論
Ⅱ ゲーテと近代天文学の興隆期 近代ドイツ天文学の中心地ゴータ
Ⅲ 科学する女性 マカーリエの歴史的文化的背景
Ⅳ 天文学者とアフォリズム あるいは火星と木星の間の小惑星
Ⅴ 一八一一年出現の彗星とイェーナ大学附属天文台建設
第5章 地球の形状とプロイセン大尉 ゲーテと測地学
Ⅰ 二人の測量大尉 オットーとトイドバッハ
Ⅱ 前提としての科学史的背景 地球はオレンジ型かレモン型か?
Ⅲ フランス科学アカデミーが派遣した高緯度および低緯度測量隊
Ⅳ パリ子午線測量と最小二乗法
Ⅴ 『親和力』における大尉の実在モデル ミュフリンク男爵とプロイセン測量
Ⅵ ガウスの愛読書とJ・パウルの描いた数学者・トイドバッハ大尉
Ⅶ ラランドと高橋至時 「北極出地一度」をめぐって
Ⅷ プロイセンと日本を結ぶ三角測量技術 田坂虎之助の足跡を追って
最終章 ゲーテの「世界文学」と物語詩『魔法使いの弟子』
Ⅰ ドイツ文学から「世界文学」へ
Ⅱ ゲーテの世界文学とオーケンのドイツ自然研究者・医師協会
Ⅲ 世界文学の実りある成果 ソレと『植物のメタモルフォーゼ』仏訳
Ⅳ 貨幣流通と翻訳作業 ゲーテ=カーライル書簡より
Ⅴ 情報洪水とゲーテの物語詩『魔法使いの弟子』
Ⅵ 《運河》のメタファー
Ⅶ 近代の錬金術 賢者の石と紙幣発行
註
謝辞
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