ヒックスと時間 貨幣・資本理論と歴史理論の総合
価格:5,280円 (消費税:480円)
ISBN978-4-7664-1820-0 C3033
奥付の初版発行年月:2011年05月 / 発売日:2011年05月中旬
▼前著、弊社刊『ケインズの思想』で「不確実性」をキーワードにマーシャルからケインズへの思想的継承と発展の過程を読み解いた著者が、本書ではさらにケインズからヒックスへの継承、ケインズ経済学と一般均衡論的枠組みとの総合、オーストリア学派からの吸収と彼らとの論争などを丹念にたどり、「不確実性」と「時間」をキーワードにヒックス後期の「歴史理論」へと結実する知的道程を明らかにする。
▼ヒックスの、挑戦
ケインズの「不確実性」概念を受け継いで経済とりわけ資本の問題を「時間の中で」とらえなおし、やがて『経済史の理論』へと到達するヒックス。その思索過程を精緻に読み込み、彼の歴史理論を現代史の理論へと磨き上げた、ヒックス研究の決定版。
▼[Economics in Time]の探究
新古典派経済学とケインズ経済学とを総合してIS-LM分析を生み出し、ノーベル賞を受賞した輝かしきヒックス。しかし、本書が光を当てるのは、初期の自説に不満を抱き、時間と資本の関係から歴史と経済の関係へと思索を深めた彼のもう1つの顔、「後期ヒックス」である。
ケインズの「不確実性」概念を受け継いだヒックスは、オーストリア学派の動学的思考法を受容し、資本を通時的因果律の中で捉える必要に気づく。そして彼の研究は、歴史理論の構築へと向かう。
本書は、ヒックス生涯の研究を「因果律」の糸で貫き、本来なら彼自身によって完成されるべきもう1つの著書へと思索を巡らせ、そして彼本来の経済理論を現代に甦らせようという、冒険的な企てなのである。
小畑二郎(オバタジロウ)
立正大学経済学部教授、筑波大学名誉教授
1947年生まれ。1970年慶應義塾大学経済学部卒業後,77年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。財団法人日本証券経済研究所研究員,筑波大学社会科学系講師を経て,1995年筑波大学教授,2010年より現職。1993〜94年米国ジョージメイソン大学公共選択研究センター客員研究員,2003年カナダ,アカディア大学客員教授。
主な著書に,『ケインズの思想——不確実性の倫理と貨幣・資本政策』(慶應義塾大学出版会,2007年),『アメリカの金融市場と投資銀行業』(東洋経済新報社,1988年),訳書に,J. ブキャナン著『倫理の経済学』(有斐閣,1997年)等がある。
目次
第1章 経済学的方法論の転換——時間と不確実性の論理を求めて
はじめに
第1節 後期ヒックスの方法論の転換——因果律と時間
第2節 古典派経済学における静学的な因果律と均衡の概念
第3節 同時的因果律とケインズ派のIS-LMモデル
第4節 通時的な因果関係——動学的な論理
第5節 ヒックスによるケインズ確率論の発展
第2章 IS-LM理論から貨幣・資本理論へ
はじめに
第1節 IS-LMモデルから貨幣・資本理論へ
第2節 貨幣・資本理論の出発点——「貨幣理論の単純化のための提案」(1935)
第3節 貨幣・資産の保有動機の分析——「2つのトリアーデ」(1967a)
第4節 貸借対照表の均衡と流動性
まとめ
第3章 流動性の積極理論
はじめに
第1節 資産選択理論における流動性の概念
第2節 準備資産間の代替と取引費用——『貨幣理論』(1967b)
第3節 経済発展と流動性——革新的投資と不確実性に対する補完的役割
第4節 流動性理論と金融政策
第5節 スティグリッツ「信用と情報の理論」との関係
まとめ
第4章 金融市場と金融政策——現代資産市場のマクロ・モデル
はじめに
第1節 貨幣理論の歴史からの展望
第2節 現代資産市場のマクロ・モデル——「核」と「マントル」と「産業」
第3節 金融機関と金融政策
第4節 要約——現代の金融資産市場と金融政策
第5章 資本理論の学説史的研究
第1節 問題の設定
第2節 資本理論をめぐる物質主義と基金主義の対立
第3節 後方指向的または前方指向的資本評価
第6章 新オーストリア資本理論の研究
はじめに
第1節 オーストリア資本理論をめぐる論争史
第2節 新オーストリア資本理論の検討
第3節 将来の資本理論への展望
総括——ケインズ = オーストリア理論の総合への道
第7章 歴史理論の展開——『経済史の理論』の図解と現代への応用
はじめに
第1節 ヒックスは、なぜ『経済史の歴史』を書いたのか
第2節 理論と歴史とを連絡させる途について——Cecco論文からの示唆
第3節 市場経済の基本構造
第4節 経済史の第1段階——市場経済の発展前史、とくに中世の封建制と農村経済
第5節 経済史の第2段階——商人経済の発展
第6節 経済史の第3段階——産業革命
第7節 現代の市場経済への応用
結語——経済理論と歴史との対話に向けて