被爆者調査を読む ―ヒロシマ・ナガサキの継承
価格:4,180円 (消費税:380円)
ISBN978-4-7664-1956-6 C3036
奥付の初版発行年月:2013年03月 / 発売日:2013年03月下旬
非被爆者である我々は、原爆の記憶を継承することができるのか
▼被爆者調査を読みなおし、〈生存者〉である我々の〈立場性〉と、ヒロシマ・ナガサキの継承の可能性を考える。
▼戦後積み重ねられてきた被爆者調査は、戦後社会調査史の史料であり、原爆被害の記憶を表す資料でもある。被爆者の高齢化と被爆者調査に携わってきた研究者の高齢化が同時に進行しつつある今、本書はヒロシマ・ナガサキの継承、そして被爆者調査という遺産継承の願いも込め、歴史に埋もれ忘れ去られた調査を取り上げ、その手法・分析視角などの観点から、社会調査史における意義や変容を論じる。
▼巻末に被爆者調査史年表・文献一覧を掲載。
浜 日出夫(ハマ ヒデオ)
慶應義塾大学文学部教授。
1954年生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程中途退学。
主要著作に、「ヒロシマからヒロシマたちへ―ヒロシマを歩く」(『戦後日本の社会と市民意識』慶應義塾大学出版会、2005年)、「ヒロシマを擦りとる」(『逍遙する記憶―旅と里程標』、三和書籍、2007年)、『戦後日本における市民意識の形成―戦争体験の世代間継承』(編著、慶應義塾大学出版会、2008年)など。
有末 賢(アリスエ ケン)
慶應義塾大学法学部教授。
1953年生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。
主要著作に、『生活史宣言―ライフヒストリーの社会学』(慶應義塾大学出版会、2012年)、『現代大都市の重層的構造―都市化社会における伝統と変容』(ミネルヴァ書房、1999年)、『戦後日本の社会と市民意識』(共編、慶應義塾大学出版会、2005年)など。
竹村 英樹(タケムラ ヒデキ)
慶應義塾大学教職課程センター准教授。
1963年生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。
主要著作に、「『紀元節式辞』からみた戦時期および戦後期の教育観の連続性と非連続性―東京のある小学校校長が書いた式辞の分析:その3」(『慶應義塾大学教職課程センター年報』第19号、2010年)、「戦間期都市教員層の生活構造」(『法学研究』第77巻1号、2004年)、『近代日本社会学者小伝―書誌的考察』(共編、勁草書房、1998年)など。
【編著者】
浜 日出夫(はま ひでお)
慶應義塾大学文学部教授。
有末 賢(ありすえ けん)
慶應義塾大学法学部教授。
竹村 英樹(たけむら ひでき)
慶應義塾大学教職課程センター准教授。
【執筆者】(掲載順)
高山 真(たかやま まこと)
慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程。
1979年生まれ。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。
主要著作に、「原爆の記憶を継承する―長崎における『語り部』運動から」(『過去を忘れない―語り継ぐ経験の社会学』せりか書房、2008年)、「『長崎』の記憶に関する社会学的研究の可能性―原爆生存者の主体性と立場性の再検討を手がかりに」(『文化環境研究』第3号、2009年)。
松尾 浩一郎(まつお こういちろう)
帝京大学経済学部講師。
1972 年生まれ。 慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。
主要著作に、「日本都市社会学以前の都市社会調査―異質性への視点とその限界」(『法学研究』第85巻6号、2012年)、「『見る社会調査』の源流―フォトジャーナリズムと都市社会調査」(『日本都市社会学会年報』第22号、2004年)、「総合調査の時代と日本都市学会」(『関東都市学会年報』第6号、2004年)など。
深谷 直弘(ふかや なおひろ)
法政大学大学院社会学研究科博士後期課程。
1981年生まれ。 法政大学大学院社会学研究科修士課程修了。
主要著作に、「長崎における若者の被爆体験継承のプロセス―『世代の場所』の形成に着目して」(『日本オーラル・ヒストリー研究』第7号、2011年)。
八木 良広(やぎ よしひろ)
立教大学、埼玉大学他非常勤講師。
1979年生まれ。 慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(社会学)。
主要著作に、「戦後日本社会における被爆者の生きられた経験―ライフストーリー研究の見地から」(博士論文、2012年)、「原爆死没者との向き合い方―継承の実践としての被爆体験の語りに着目しながら」(『フォーラム現代社会学』第8号、2009年)、「被爆者の現実をいかに認識するか?―体験者と非体験者の間の境界線をめぐって」(『戦後日本における市民意識の形成―戦争体験の世代間継承』慶應義塾大学出版会、2008年)など。
木村 豊(きむら ゆたか)
慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程。
1983年生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科修士課程修了。
主要著作に、「家族における東京大空襲『経験』の語り―ライフヒストリーの重ね合わせを通して」(『日本オーラル・ヒストリー研究』第6号、2010年)、「東京大空襲の死者と遺族―〈個別化〉/〈一般化〉の志向性のあいだで」(『三田社会学』第16号、2011年)、「東京大空襲死者の記憶と場所―『仮埋葬地』という写真実践を通して」(『哲学』第128号、2012年)など。
小倉 康嗣(おぐら やすつぐ)
立教大学社会学部准教授(2013年4月より)。
1968年生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(社会学)。
主な著書に、『高齢化社会と日本人の生き方―岐路に立つ現代中年のライフヒストリー』(慶應義塾大学出版会、2006年)、「エイジングの〈経験〉と時間―根拠なき時代における『生の基盤』再構築のために」(『社会学年誌』第52号、2011年)、「ライフストーリー研究はどんな知をもたらし、人間と社会にどんな働きかけをするのか―ライフストーリーの知の生成性と調査表現」(『日本オーラル・ヒストリー研究』第7号、2011年)など。
目次
はじめに 浜 日出夫
第1章 戦後被爆者調査の社会調査史 有末 賢
はじめに
一 戦後社会科学と社会調査
二 被爆者調査の戦後史
三 慶應義塾大学と原爆調査――米山桂三・中鉢正美・川合隆男・
原田勝弘
四 厚生省昭和40年調査――中鉢正美グループと石田忠グループ
1 中鉢正美グループ
2 石田忠グループ
五 R. J. リフトンによる心理学的分析
六 90年代以降の記憶をめぐるポリティックス
七 記憶の表象と場所性
おわりに―――社会調査と被爆者の声
第2章 中鉢正美「生活構造論」の展開と二つの「被爆者生活史調査」
竹村 英樹
はじめに
一 被爆者調査以前──生活構造論の形成まで
1 生物学から経済学へ
2 家計研究から生活構造論へ
二 二つの「事例調査」―─被爆者調査における「生活史調査」の試み
1 「66年事例調査」実施の経緯
2 出発点としての「66年事例調査」
3 被爆者生活の構造と社会階層
――「66年事例調査」から「75年事例調査」へ
三 「中鉢正美原爆関係資料」から「事例調査」を読み直す
1 「中鉢資料」の概要
2 「66年事例調査」および「75年事例調査」の関係資料
3 生活史調査の作品化――未公表原稿「広島のある町、その被爆
三〇年」
4 証言活動や復元運動への応答――未公表原稿「被爆文化」
四 中鉢正美の研究活動と被爆者調査の展開
おわりに
1 まとめ――各節の振り返り
2 中鉢による「被爆者調査」の今日的意義
第3章 「長崎」をめぐる記憶の回路
「企業と原爆」調査の検討を中心に 高山 真
はじめに
一 長崎原爆調査における「企業と原爆」の位置と意義
1 「長崎」を語ることの困難
2 「浦上」、「三菱」そして「死者」という3つの問題領域
二 被爆者カテゴリーの無効化
三 『原爆前後』をめぐって
結びにかえて
第4章 爆心地復元調査が描いたコミュニティ
湯崎稔と集団参与評価法 松尾 浩一郎
一 社会踏査の系譜と湯崎稔
1 社会調査の1960年代
2 湯崎稔と原爆研究・被爆者研究
3 中山町での追跡調査
4 中山町調査から爆心地復元調査へ
二 地図上にまちを復元する――調査者としての市民
1 NHKとの連携の成立
2 復元地図づくりと死者とのつながり
3 集団参与評価法
4 『原爆爆心地』への結実
三 爆心地復元調査の拡大と挫折
1 市民運動としての高揚
2 NHKとの連携関係の解消
3 行政事業化と調査の変質
四 考察――社会踏査の可能性
1 市民的立場と社会調査
2 点から面へ――時間・空間・場所
第5章 慰霊行為としての原爆被災復元調査
長崎市民・行政による爆心地復元調査活動のはじまりとその展開
深谷 直弘
はじめに
一 爆心地復元運動から原爆被災復元調査へ
二 原爆被災復元調査の概要と調査プロセス
1 問題意識と目的
2 調査項目と調査の進め方
3 調査プロセスと爆心地復元の困難――活動初期の取り組みから
三 慰霊行為としての爆心地復元調査活動
四 被爆者調査史の中の長崎爆心復元調査
――広島復元調査・一橋大原爆被害調査との比較から
1 長崎方式と広島方式
2 一橋大学グループの調査との比較
おわりに
第6章 原爆問題と被爆者の人生に関する研究の可能性
R.J.リフトンのヒロシマ研究とそれに対するさまざまな反応を
めぐって 八木 良広
はじめに
一 R. J. リフトンのDeath in Life
1 被爆者の「心の傷」研究としてのDeath in Life
2 リフトンの広島との出会い
3 Death in Life の概要
二 リフトンは被爆者の現実を無視したのか
1 Death in Life に対する様々な反応
2 被爆者は「生きる屍」か
三 リフトンのヒロシマ研究からの示唆
1 Death in Life のその後
2 「ヒロシマ博士」と「われわれ意識」
おわりに
第7章 広島修道大学「被爆体験」調査における〈生者と死者〉
死者と向き合う二つのあり方 木村 豊
はじめに――問題の所在
一 『生者と死者』 再考
1 メモリアル・デーの〈生者と死者〉
2 メモリアル・デーの〈時間―空間〉関係
3 『生者と死者』へのある書評
二 広島の〈生者と死者〉
1 ヒロシマの〈生者と死者〉
2 ヒロシマの〈時間―空間〉関係
3 二つの〈生者と死者〉
三 東京から広島へ
1 東京の〈生者と死者〉
2 広島の〈生者と死者〉再考
おわりに
第8章 被爆体験をめぐる調査表現とポジショナリティ
なんのために、どのように表現するのか 小倉 康嗣
一 被爆者調査のむずかしさ
二 被爆体験の構築と表象をめぐる格闘
1 被爆者の立場に立って飛躍する――石田忠・一橋大学グループ
2 生活構造として表現することの葛藤――中鉢正美・慶應義塾大学
グループ
3 被爆者市民の協働を媒介する――爆心復元調査
三 陳腐化・風化への抗い
1 知の性質への着目による脱構築――米山リサ
2 身体に生起する亡霊=トラウマの感染との対話――直野章子
四 関わりの構築へ
1 体験することの生成と連鎖――高校生が描く原爆の絵
2 社会科学者はどこに立ち、なにをすべきなのか
結びにかえて――「われわれはすべてヒロシマの生存者である」
浜 日出夫
被爆者調査史年表
被爆者調査史文献リスト
事項索引
人名索引
執筆者紹介