ニュー・ミュージコロジー 音楽作品を「読む」批評理論
価格:3,520円 (消費税:320円)
ISBN978-4-7664-1978-8 C3073
奥付の初版発行年月:2013年04月 / 発売日:2013年04月下旬
▼西洋音楽史研究の一学派、ニュー・ミュージコロジー。1980年代半ばから英米の音楽研究者に実践されてきた。
▼ポスト構造主義、記号論、ポスト・コロニアル批評、フェミニスト批評、ジェンダー論など幅広い領域にクロスオーヴァーする理論と動機に基盤をおくその全容を、世界的権威の主要論文の翻訳および訳者の詳細な解説で紹介する、本格的入門書。
▼音楽という極めて専門化された対象を、文化的・社会的所産という、より広い文脈から批評するためのきっかけを提供する本書は、音楽学や音楽美学を専門とする研究者のみならず、学際的な視点から文化現象にアプローチする研究者、現代哲学や倫理学の研究者にも最良の書である。
福中 冬子(フクナカ フユコ)
東京芸術大学大学院音楽研究科(音楽学)准教授。国立音楽大学音楽学部器楽科卒業。ニューヨーク大学人文大学院音楽学部修士課程および博士課程修了 (Ph.D.)。ニューヨーク大学、慶應義塾大学、明治学院大学非常勤講師等を経て、現職。専門は西洋音楽史 (近現代)、音楽美学。
著書に Wolfgang Rihm: Interpretive Examination of His Creative Sources (UMI,2003)、「〈文化的自由の為の会議〉 にみる、音楽における冷戦の射程」 (『慶應義塾大学 日吉紀要 人文科学第23号』、2008年)、 『オペラ学の地平』 (共著、彩流社、2009年)、 “Narrative, Voice, Reality in the Operas of Toshio Hosokawa and Misato Mochizuki,” Vocal Music and Contemporary Identities (Routledge, 2012) 等。
ジョゼフ・カーマン(Joseph Kerman, b. 1924)
カリフォルニア大学バークレー校名誉教授 (音楽学)。プリンストン大学でオリヴァー・ストランク、ランダル・トンプスン、カール・ワインリヒの指導の下、音楽学の博士号を取得。専門はルネサンス期のイギリス音楽およびベートーヴェンの室内楽曲。主要著作に Opera as Drama (University of California Press, 1956) など。
リチャード・タラスキン(Richard Taruskin, b. 1945)
カリフォルニア大学バークレー校教授 (音楽学)。19世紀ロシア・オペラに関する論文でコロンビア大学にて博士号取得後、同校での教職に続き、1987年より現職。ロシア音楽から15世紀のシャンソンまで幅広い研究を発表している。主要著作に Stravinsky and the Russian Traditions: A Biography of the Works through Mavra (University of California Press, 1996)、 The Oxford History of Western Music (Oxford University Press, 2005) など。
リディア・ゲーア(Lydia Goehr, b. 1960)
コロンビア大学教授 (哲学)。エクスター大学、マンチェスター大学を経て、ケンブリッジ大学で哲学の博士号を取得。音楽領域における 「作品概念」 や意味作用を主たる研究対象とする。主要著作に The Quest for Voice: Music, Politics, and the Limits of Philosophy (Oxford University Press, 1988)など。作曲家アレクサンダー・ゲーアは父にあたる。
ピーター・キヴィー(Peter Kivy, b. 1934)
ラドガース大学教授 (哲学)。哲学 (ミシガン大学)と音楽学 (イェール大学)で修士号を取得した後、コロンビア大学で音楽哲学の博士号を取得。音楽の美的作用の哲学的検証を中心に研究を行う。主要著作に The Corded Shell: Reflections on Musical Expression (Princeton University Press, 1980)。
スーザン・カウラリー(Susan McClary, b. 1946)
カリフォルニア大学ロサンジェルス校音楽学部教授 (音楽学)。ハーヴァード大学より音楽学で博士号取得後、ミネソタ大学、マギル大学での教職に続き、1994年より現職。フェミニスト批評音楽学の草分け的存在。主要著作に Feminine Endings: Music, Gender, and Sexuality (University of Minnesota Press, 1991) [『フェミニン ・ エンディング――音楽 ・ ジェンダー ・ セクシュアリティ』 (女性と音楽研究フォーラム訳、新水社、1997年)]。
フィリップ・ブレッド(Philip Brett, 1937-2002)
カリフォルニア大学リヴァーサイド校元教授 (音楽学)。英国出身。1965年にウィリアム・バードに関する論文でケンブリッジ大学より博士号を取得。カリフォルニア大学バークリー校での教職に続き、1991年より2002年までカリフォルニア大学リヴァーサイド校音楽学部教授。ゲイ・レズビアン音楽学の草分け的存在。主要著作に Benjamin Britten: Peter Grimes (編著、CUP、1983年) および Queering the Pitch: the New Gay and Lesbian Musicology (エリザベス・ウッドとの共著 Routledge、1994年) など。
スザンヌ・キュージック(Suzanne Cusick, b. 1942)
ニューヨーク大学音楽学部教授 (音楽学)。1975年にノース・キャロライナ大学より音楽学の博士号を取得後、ヴァージニア大学等での教職に続き、現職。ジェンダー批評の切り口から、ルネサンス、バロック期のイタリア音楽を中心に研究。主要著作に Francesca Caccini at the Medici Court: Music and the Circulation of Power (University of Chicago Press, 2009) など。
キャロリン・アバテ(Carolyn Abbate, b. 1955)
ペンシルヴァニア大学音楽学部教授。イェール大学にて学士号 (音楽学)取得の後、プリンストン大学にて博士号を取得。オペラにおける声とナラティヴを中心に研究。プリンストン大学、ハーヴァード大学での教職に続き、現職。主要著作に Unsung Voices: Opera and Musical Narrative in the Nineteenth Century (Princeton University Press, 1996) や In Search of Opera (Princeton University Press, 2003) など。
ジャン = ジャック・ナティエ(Jean-Jacques Nattiez, b. 1945)
モントリオール大学音楽学部教授 (音楽学・音楽理論)。ソルボンヌ大学でニコラ・リュヴェの指導の下、音楽記号学で博士号を取得。1972年より現職。ワーグナーからブーレーズ、アイヌ音楽まで守備範囲は広い。主要著作に Proust musicien (C. Bourgois, 1984) [『音楽家プルースト――『失なわれた時を求めて』 に音楽を聴く』 斉木真一訳、音楽之友社、 2001年] 、および Musicologie générale et sémiologie (C. Bourgois, 1987) [『音楽記号学』 (足立美比古訳、春秋社、1996年/2005年)] など。
ニコラス・クック(Nicholas Cook, b. 1950)
ケンブリッジ大学教授。ケンブリッジ大学で音楽学の博士号を取得。専門は音楽理論および西洋音楽史。また英国における演奏研究の草分け的存在のひとり。香港大学、サザンプトン大学、ロンドン大学での教職を経て、現職。コレッリからヘンドリクスまで、広範囲に亘る研究を発表している。主要著作に A Guide to Musical Analysis (Oxford University Press, 1987) など。
ローズ・ローゼンガード・サボトニック(Rose Rosengard Subotnik, b. 1942)
ブラウン大学教授。ウェルズリー大学にて学士号 (音楽学)取得の後、コロンビア大学にて博士号を取得。シカゴ大学、ニューヨーク市立大学での教職に続き、現職。英米の音楽劇およびアドルノの音楽思想を中心に研究。主要著作に Developing Variations: Style and Ideology in Western Music (University of Minnesota Press, 1991) や Deconstructive Variations: Music and Reason in Western Society (University of Minnesota Press, 1996) など。
【訳・解説者】
福中 冬子(ふくなか ふゆこ)
【著者】
ジョゼフ・カーマン(Joseph Kerman, b. 1924) [第Ⅰ部 第1章]
リチャード・タラスキン(Richard Taruskin, b. 1945) [第Ⅱ部 第1章]
リディア・ゲーア(Lydia Goehr, b. 1960) [第Ⅱ部 第2章]
ピーター・キヴィー(Peter Kivy, b. 1934) [第Ⅱ部 第3章]
スーザン・マクラリー(Susan McClary, b. 1946) [第Ⅲ部 第1章]
フィリップ・ブレッド(Philip Brett, 1937-2002) [第Ⅲ部 第2章]
スザンヌ・キュージック(Suzanne Cusick, b. 1942) [第Ⅲ部 第3章]
キャロリン・アバテ(Carolyn Abbate, b. 1955) [第Ⅲ部 第4章]
ジャン = ジャック・ナティエ(Jean-Jacques Nattiez, b. 1945) [第Ⅳ部 第1章]
ニコラス・クック(Nicholas Cook, b. 1950) [第Ⅳ部 第2章]
ローズ・ローゼンガード・サボトニック(Rose Rosengard Subotnik, b. 1942) [第Ⅳ部 第3章]
目次
はじめに
「ニュー・ミュージコロジー」 とは何か―― 「ニュー・ミュージコロジー」 再考に向けて
第Ⅰ部 ニュー・ミュージコロジーの 「夜明け」
第1章 歴史、カノン、実証主義
音楽学と実証主義――その戦後期 (ジョゼフ・カーマン)
第Ⅱ部 作品、テクスト、歴史
第1章 過去との軋轢
修正 [改訂] の修正 (リチャード・タラスキン)
解題
第2章 作品概念
音楽作品の唯名論的理論 (リディア・ゲーア)
解題
第3章 オーセンティシティー
意図としてのオーセンティシティー
(ピーター・キヴィー)
解題
第Ⅲ部 音楽とジェンダー批評
第1章 フェミニズム批評
オペラ――音楽のフェミニスト批評に向けて
(スーザン・マクラリー)
解題
第2章 クイア・ミュージコロジー
ブリテンのオペラにおけるエロスとオリエンタリズム
(フィリップ・ブレッド)
解題
第3章 ジェンダー
当代音楽のジェンダー化
――モンテヴェルディ・アルトゥージ論争を巡る考察
(スザンヌ・キュージック)
解題
第4章 身体、声
オペラ、あるいは女性の具声化 (キャロリン・アバテ)
解題
第Ⅳ部 音楽、言語、意味作用
第1章 音楽記号論
言語学――楽曲分析への新たなアプローチ?
(ジャン = ジャック・ナティエ)
解題
第2章 音楽の意味作用
音楽的意味の理論化 (ニコラス・クック)
解題
第3章 音楽の歴史性
アドルノによる後期ベートーヴェン創作様式の検証
――ある致命的状況の初期症状
(ローズ・ローゼンガード・サボトニック)
解題
あとがきにかえて
初出一覧
索引