近世庚申塔の考古学
価格:8,140円 (消費税:740円)
ISBN978-4-7664-2041-8 C3021
奥付の初版発行年月:2013年04月 / 発売日:2013年04月中旬
身近なモノから探る近世日本の社会。
▼中世末から民衆の世界に広まり、近世以降、社会に深く浸透した庚申信仰。信仰の様相と、それを育んだ社会の実態の痕跡を現代に伝えているのが、全国各地に数多く建立された庚申塔である。本書は、碑面に青面金剛、地蔵菩薩、三猿などが彫られ、さまざまな大きさ、形状のものがあるそれらの考古学的分析を行う。
戦前戦後を通して、庚申塔は好事家たちによる調査・蒐集の対象となり、歴史学、民俗学などの見地からも研究が積み重ねられてきた。本書は、考古学を基盤にそれらを有機的に統合するとともに、新たな調査、分析を重ね、近世日本人の心性、信仰、紐帯から都市・農村の空間と交通の実態にまで迫る、新しい試みの成果である。
石神 裕之(イシガミ ヒロユキ)
1973年、神奈川県生まれ。2005年、慶應義塾大学大学院文学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(史学)。
日本学術振興会特別研究員(DC・PD)を経て、2007年~2010年、慶應義塾大学文学部准教授(有期)、2010年~2013年、慶應義塾大学矢上地区文化財調査室准教授(有期)。現在、慶應義塾大学文学部非常勤講師。
主要業績に「関東地方の六道銭にみる永楽通寶」(『考古学ジャーナル』No.62、ニューサイエンス社、2012年)、『会津保科(松平)家屋敷跡遺跡-慶應義塾中等部新体育館・プール建設計画に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書-』(編・共著、慶應義塾大学民族学考古学研究室、2011年)、「芝増上寺徳川家霊廟の奉献石灯籠-研究可能性の整理として-」(港区港郷土資料館編・発行『徳川家霊廟』、2009年)、「石造遺物から読み解く歴史」(鈴木公雄ゼミナール編『近世・近現代考古学入門』、慶應義塾大学出版会、2007年)、などがある。
目次
序章 近世庚申塔研究の目的
1 歴史学としての近世庚申塔研究
2 近世庚申塔とは何か
3 庚申塔のもつ多様な資料性
4 庚申塔による歴史復元の可能性
第1章 既往研究の概要と視座
1 石造物研究の歩みと近世石造遺物
2 戦前期における庚申塔研究
3 戦後期における庚申塔研究
(1) 敗戦から高度経済成長期(戦後期Ⅰ)
(2) 高度経済成長期以後~現在(戦後期Ⅱ)
4 近世庚申塔研究の視座
(1) 近世石造遺物の実践的研究事例
(2) 庚申塔研究における考古学的視座の有効性
(3) 庚申塔研究の見取り図
第2章 石塔形態に対する型式学的分析
1 問題の所在
2 分析方法の検討及び資料の集成
(1) 型式学的分析の意義と問題点
(2) 対象地域の選定
(3) 近世庚申塔の型式設定
(4) 分析項目の設定と分析の前提
3 東京都区部における型式学的分析
(1) 東京都区部の庚申塔に対するセリエーション分析
(2) 東京都区部のセリエーション分析の要約
4 東京周辺地域の庚申塔に対する型式学的分析
(1) 対象地域の選定と庚申塔の類型設定
(2) 東京周辺地域の庚申塔に対するセリエーション分析
(3) 庚申塔の流行型式にみる地域差
5 石塔形態に対する考古学的分析の要約
第3章 近世庚申塔の主尊に対する考古学的分析
1 問題の所在
2 庚申塔の像容に対する定量的分析
3 像容に対する定量的分析の要約
4 像容と石塔型式の関係性
(1) 主尊および石塔型式の組み合わせとその変遷
(2) 主尊と像容の史的変遷の要約
5 結語
第4章 近世庚申塔にみる施主名称の史的変遷
1 問題の所在
2 庚申塔の施主分析の研究史
(1) 竹内利美による施主分析
(2) 庚申塔と村落史研究
3 近世庚申塔の施主名称の概要と集成
(1) 施主名称の定義
(2) 施主名称の種類と分析における問題点
(3) 資料の集成方法とその数量的分析の妥当性
4 施主名称の定量的分析
(1) 施主名称の定量的分析
(2) 施主分析の結果の要約
(3) 庚申塔造立者の分類と時期区分
5 庚申塔研究による近世村落史への接近
(1) 施主名称にみる「集団」と「個人」の関係
(2) 近世前期の施主名称の多様性
(3) 庚申塔による集団関係復元への見通し
第5章 近世庚申塔にみる造立期日銘の検討
1 問題の所在
2 東京都区部の造立月銘の計量的分析
3 造立日の計量的分析と庚申日との関係
4 結語
第6章 武蔵国荏原郡馬込村の庚申塔施主
1 問題の所在
2 馬込村の支配関係と地理的環境
(1) 馬込村の支配関係
(2) 馬込村の地理的環境
3 馬込村の庚申塔
(1) 馬込村の庚申塔の概要
(2) 庚申塔施主の人物特定の前提
(3) 享保5年庚申塔の施主
4 寺郷谷の天保11年庚申塔にみる施主の社会関係
(1) 天保11年庚申塔の概要
(2) 庚申塔施主の人物の特定
(3) 庚申塔施主の社会関係・家族構成
(4) 庚申塔施主の土地所有状況
5 結語
第7章 近世庚申塔造立習俗の展開と村落社会の変化
1 問題の所在
2 流行型式の普及と運輸機構の整備
(1) 庚申塔の普及にみる地域差と石工の動向
(2) 利根川の整備と庚申塔の普及
3 近世前期の庚申塔増加の背景―青面金剛と講中―
(1) 庚申塔の造立数の増加と青面金剛
(2) 青面金剛の主尊化
(3) 青面金剛の主尊化と石塔形態
4 庚申塔造立習俗の普及と村落社会
(1) 小農自立と村の成立
(2) 新田の開発と小名集落
(3) 近世村の成立と庚申塔造立習俗の普及
5 結語
第8章 近世後期の庚申塔にみる石造遺物の盛衰
1 問題の所在
2 庚申塔の減少と造立目的の多様化
(1) 近世庚申塔の減少の背景
(2) 新規庚申塔の造立禁止と石塔規模の変化
(3) 村中銘の増加
(4) 石橋供養の庚申塔
(5) 道標銘のある庚申塔
3 近世後期の富士信仰の流行と庚申信仰の変化
(1) 富士信仰の隆盛と庚申信仰
(2) 不二道の活動と百庚申
4 庚申塔にみる石塔文化の盛衰と近世村落社会
(1) 近世後期の「石碑文化」
(2) 再建銘のある庚申塔
5 結語
終章 近世庚申塔研究の地平
跋にかえて
文献目録
索引