シャルル・ドゴール 民主主義の中のリーダーシップへの苦闘
価格:3,520円 (消費税:320円)
ISBN978-4-7664-2045-6 C3023
奥付の初版発行年月:2013年07月 / 発売日:2013年07月中旬
ドゴールはフランスをどのように導いたのか?
民主主義の時代におけるリーダーシップのあり方とは?
ひとりの政治家を通じて描かれる現代フランスの肖像。
▼第一次大戦での奮闘と捕虜生活、第二次大戦期のナチスによるパリ陥落とロンドンでの亡命政府樹立、そして復興フランスの政治家~大統領へ。両世界大戦から戦後冷戦へと続く激動のヨーロッパを舞台に、「現代フランスを築いた父」ドゴールの生涯を生き生きと描く、渾身の書き下ろし。
▼「フランスを解放に率いた軍人ドゴール」。これまで日本でひんぱんに紹介されたドゴールの姿は、しかし多面的でその長い生涯の一部にすぎない。本書では、第五共和制大統領時代の、「行動の自由を得るための外交」政策、アメリカ・ソ連に対する「第三の極」としてのヨーロッパ、という考え方と行動にもより強いスポットをあてるとともに、民主主義のなかの政治的リーダーシップのありかたを探っていく。
▼冷戦期には、米国の「核の傘」に入ることを拒みNATOを脱退、また、大戦の仇敵であったドイツのアデナウアー首相を自宅に招くなど仏独融和を演出したドゴール。アルジェリア独立承認の決断、中国とのいち早い国交樹立など、イデオロギーに囚われない徹底した現実主義と透徹した先見性。そしてその決断力と行動力をもった「政治家」の姿は、国際関係の緊張に懊悩する現在の日本人にも、時代を超えて多くの示唆を与える。
▼政治家としてのドゴールを描写する一方、障害を背負った娘を慈しみ育て、彼女の死後は基金を創設するなど慎ましく生きたその私生活まで、ドゴールの知られざる素顔へとせまる。
渡邊 啓貴(ワタナベ ヒロタカ)
東京外国語大学大学院教授。1954年生まれ。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業、同大学院地域研究科修士課程、慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程、パリ第1大学大学院博士課程修了(DEA)。
パリ高等研究院・リヨン高等師範大学院客員教授、ジョージ・ワシントン大学シグールセンター客員研究員、『外交』 『Cahiers du Japon』 編集委員長、日仏政治学会理事長、在仏日本大使館公使(2008-2010年)などを歴任。
主要著作:『ミッテラン時代のフランス』(芦書房、1991年 渋沢クローデル賞)、『フランス現代史―英雄の時代から保革共存へ』(中央公論社、1998年)、『ポスト帝国―二つの普遍主義の衝突』(駿河台出版社、2006年)、『米欧同盟の協調と対立―二十一世紀国際社会の構造』(有斐閣、2008年)、『フランスの「文化外交」戦略に学ぶ―「文化の時代」の日本文化発信』(大修館書店、2013年)、(編著)『国際政治の基礎知識』(芦書房、1997年)、『ヨーロッパ国際関係史―繁栄と凋落、そして再生』(有斐閣、2002年)、ほか。
目次
第一章 フランス崩壊への道
1 揺籃期のドゴール
幼年時代――尊大さの片鱗/世紀末のフランス――ブルジョワジーと
カトリック的価値観/青年時代の思想形成/兵士ドゴールの誕生
2 雌伏の時代
傲岸な青年将校/終生の伴侶イヴォンヌとの出会い/神の与えた試練
――次女アンヌの誕生とコロンベ・レ・ドゥ・ゼグリーズ/『剣の
刃』――軍人ドゴールの警鐘/新しい軍隊――機械化部隊の創設
3 多党分立政治の混乱と第二次大戦
ナチス・ドイツとフランスの宥和政策/第二次大戦勃発とドゴールの
戦車部隊/フランス第三共和制の崩壊
第二章 レジスタンスの英雄――ロレーヌ十字の下に
1 「六月一八日の男」――英雄伝説の始まり
ロンドンからの呼びかけ/ドゴール一家、ドーヴァー海峡を渡る
2 「自由フランス」の戦い
「自由フランス」の出発とレジスタンス神話/ヴィシー対独協力政
権/孤独と苦悩の亡命家族/対独協力時代の「ひとつの青春」/
チャーチルのリアリズム――英国のフランス艦隊襲撃/アフリカ植
民地との連帯
3 レジスタンス運動の統一とアフリカの戦い
惨殺されたジャン・ムーラン/連合国米英との角遂と連合軍の北ア
フリカ上陸/第二戦線か、トーチ作戦か/北アフリカ上陸作戦とヴィ
シー派フランス軍
4 ドゴールの権力掌握
ドイツ軍のフランス全土占領/「戦うフランス」とジローとの角遂/
国民解放委員会の設立と米英連合国との確執/ドゴールの権力掌握と
孤独
第三章 「砂漠の横断」――政治家への道
1 終戦とドゴール臨時政府
「パリは燃えているか」――フランス解放の光と影/臨時政府による
復興の試み/戦争の犠牲と経済再建――混合経済体制の導入/
一九四五年選挙と政界再編成/ドゴールの辞任
2 英雄から政治家への道――冷戦下フランスの再出発
鄙びた村の「一市民」ドゴール/政党政治への抵抗――エピナルの集
会/第二次大戦後の国際環境とフランス
3 RPFの創設と挫折
フランス国民連合(RPF)の誕生――「ドゴールを権力の座へ」/
RPFの躍進/社会危機と「第三勢力」――不安定な中道政治(一九
四八年―五一年)/「第三勢力」の後退とRPF/政党政治の中での
改革の挫折/カリスマ・ドゴールの政党RPFとその終焉/「砂漠の
横断」――孤独と次女アンヌの死/第二の雌伏の時代――救国の「政
治家」へ/欧州防衛共同体(EDC)構想とドゴール
第四章 アルジェリア独立をめぐる内戦の危機と第五共和制
1 フランス帝国の終焉
ヴェトナムからの撤退と北アフリカ植民地/アルジェリア紛争の拡
大/スエズ紛争と宗主国意識の残存/ドゴール待望論――カリスマ
化の始まり
2 ドゴールの復活――機は熟した
一九五八年五月一三日の危機――第四共和制の終焉/ドゴールの政界
復帰/第五共和制の誕生
3 アルジェリアの独立と政治家ドゴール
「フランス共同体」の挫折――植民地再編成の試みの失敗/ドゴール
のアルジェリア政策/アルジェリア人のアルジェリア――「バリケー
ドの一週間」/「将軍たちの反乱」の鎮圧/アルジェリアの独立――
エビアン協定とOAS/プティ・クラマール狙撃事件とテロ
4 頂点のドゴール体制
「君主制的共和国」と呼ばれたカリスマ体制/国民投票による大統領
選挙――真に正統化された権力の追求
第五章 同盟も自立も
1 「偉大さ」を求めた外交
フランスについての「あるひとつの考え」
2 アメリカに挑戦したドゴール
ドゴール政権発足時の米仏関係/アングロ・サクソン「支配体制」へ
の挑戦の始まり――アイゼンハワーへの書簡/緊張緩和の中の「調停
者」をめざして――パリ四カ国首脳会談の挫折/核兵器開発をめぐる
米仏関係/多角的核戦力構想(MLF)と核不拡散条約の拒否/対米
姿勢の硬化へ――ケネディ時代の期待と角遂/大西洋を渡った「モナ
リザ」――文化外交がもたらした緊張緩和/ジョンソン時代の米仏関
係の冷却/NATO軍事機構からの離脱/離脱後の後始末/ドゴール
における「自立」と今日的解釈/ドルへの挑戦/米仏対話の再開
3 「自主外交」の現実
緊張緩和の世界と「自立」の論理/フランスの核抑止論の「虚構
性」/「演出された自立」――米仏核兵器開発・NATO軍事作
戦協力協定の存在/フランス的ナショナリズムとしてのドゴール
外交/「行動の自由」外交の模索
4 「自由なヨーロッパ」とフランス
ヨーロッパ統合とドゴール外交/米ソ対立の中で揺れるヨーロッパ/
ドゴール政権誕生前の独仏関係/ドゴールとアデナウアー――独仏関
係と西欧軍事協力/フーシェ・プランの失敗――アメリカに翻弄され
るアデナウアー/イギリスEEC加盟拒否とエリゼ条約/米欧関係の
中の独仏関係の論理/エリゼ条約以後のフランスのヨーロッパ政策
5 緊張緩和政策――ソ連・東欧諸国との接近
列強間の均衡政策/東西対立時代の対ソ外交/モスクワへの訪問/
ソ連・東欧諸国との緊張緩和政策の限界
第六章 ドゴール時代の全盛と終焉
1 フランスの近代化とドゴール時代の頂点
フランス社会の近代化――高度経済成長とその歪み/消費社会の到来
――人口増・教育の普及・住宅・都市計画/「シトロエンDS」が疾
駆した時代/一九六五年大統領選挙と六七年総選挙――ドゴール時代
のかげり
2 ドゴール的共和国の終焉
五月危機の背景/一九六八年五月危機――学生の反乱から社会騒動
へ/ドゴール失踪事件/一幕劇の真相/ドゴール政治の終わり――
正統性の喪失/国民投票の敗北から退陣へ/現代フランスの父の死
おわりに
現代史に生きるドゴール/ドゴール研究の概観/誤解されるドゴール
像/民主的リーダーシップの模索/ヴィジョンと意志の人/孤独な
「追放された王様」、ドゴール
あとがき
主要参照文献一覧
索 引