崩壊の経験 現代ドイツ政治思想講義
価格:5,720円 (消費税:520円)
ISBN978-4-7664-2061-6 C3010
奥付の初版発行年月:2013年10月 / 発売日:2013年10月下旬
▼ルカーチが「持続するもの」、「反復するもの」、「おだやかな仕事ぶり」といいあらわした市民的生活は、世紀転換期から大戦を経た1920年代、テクノロジーの進歩とさまざまな文化領域の爛熟により一気に変貌した。ハイパーインフレーションを決定打とする社会的・政治的力学の変動によって市民層は財産を奪われ、市民的生活は雪崩を打って崩壊していく。仕上げを行ったのが、経済恐慌であった。
この新しい社会への移行期に、ウェーバー、ジンメル、マンハイム、ベンヤミン、シュミット、ユンガー、アドルノらは、その社会に生きる人びとはいかに向き合ったのか。本書では有名無名の人びとの思想的営みが内在的に論じられる。ワイマール時代における人びとの経験とその崩壊を〈現代〉の始まりととらえる著者は、政治が議会を越えて市民生活と文化領域に拡散する一方で「点化」する状況を分析する。現代政治思想の問題はここにこそ潜んでいるのだ。
▼圧倒的なボリュームによる異色の入門書!
蔭山 宏(カゲヤマ ヒロシ)
1945年生まれ。慶應義塾大学名誉教授。法学博士。
著書に『ワイマール文化とファシズム』(みすず書房、1986年)がある。
目次
序論
1 知的世界の変貌
2 市民性の崩壊 (1) ――経験の貧困化
3 市民性の崩壊 (2) ――モデルネの意識
4 溶解の時代、とくに政治の拡散
5 本書の叙述形式
第一部 市民層の社会意識――現代思想の前提
第一章 「資本主義の精神」とルター派
1 ウェーバーにおける「問題の所在」
2 カルヴァン派、ルター派、カソリック
3 「資本主義の精神」――過渡期の精神
(1) 「世俗内的禁欲」の外的継承
(2) 宗教的脈絡から経済的脈絡へ
(3) 倫理の内容としての営利追求
4 近代的個人と職業義務の観念、ルター派
(1) 近代的個人主義の誕生
(2) 「職業義務」の観念
5 ルター派の「エートス」とドイツ
(1) ルターと伝統主義
(2) エートスとしてのルター派の特徴
第二章 「文明化」と「文化」――市民層と貴族
1 「文明化」と「文化」の概念
2 「文明化」と「文化」の社会的基礎
3 宮廷社会と大学
4 社会的対立から国民的対立へ
第三章 市民層の社交形式
1 市民的社交の場としてのカフェ
2 サロンの隆盛と衰退
3 社交形式としての結社
第四章 一九世紀ドイツにおけるブルジョアジーの思想
1 一九世紀のブルジョアジーと都市の改造
2 ショースキーの「ウィーン都市改造」論
3 市民層と百貨店――ベンヤミンの視点から
4 アレントのブルジョアジー論
第五章 保守主義とロマン主義
1 近代批判の思想としてのロマン主義と保守主義
(1) ロマン主義の非政治的性格
(2) 〈近代〉への対応としての保守主義とロマン主義
(3) 後発国の自己主張としてのロマン主義
(4) 過渡期の現象としてのロマン主義
2 保守主義とロマン主義の成立
3 ロマン主義の思考様式
4 ロマン主義的「個性」の両義性
5 ロマン主義の影響と意義
6 世紀転換期以降の保守主義とロマン主義
第二部 〈崩壊〉の始まり――世紀転換期から一九二〇年代へ
第六章 「文明化」の挫折とウェーバーの宗教社会学
1 エリアスの「文明化の挫折」論
(1) 市民階級の挫折と敗北
(2) 戦士貴族の伝統
(3) 戦士貴族と学生組合
2 ウェーバーのドイツ「政治文化」批判の一断面
(1) 選挙法と民主主義
(2) 「貴族主義」の育成
(3) 「精神の貴族主義」と学生組合
3 ウェーバーにおける宗教社会学と政治
(1) 市民層と「貴族主義」
(2) 「貴族主義」と「内面的距離」
(3) 「政治家」の資質
(4) カルヴィニズムと「内面的距離」
(5) 職業人と「鉄の檻」
第七章 社会の多様化――市民層の解体と大衆の成立
1 社会の多様性の増大と一体性の崩壊
2 新しい人間像を求めて
3 大衆の誕生と一九二〇年代
4 ワイマール共和国期の諸政党と市民層
5 ティリッヒの「動態的大衆」論
6 クラカウアーのサラリーマン論
7 ユンガーの〈労働人〉論
8 「ブント」と「有機的構成態」
第八章 モダニズムの展開と社会的基礎
1 ボードレールの「モデルニテ(現代)」論
(1) 「現代生活」の「新しさ」
(2) 「意のままに再び見出された幼年期」
2 「現代性(モデルネ)」の基盤としての大都会
3 ジンメルにおける〈流行とモデルネの社会学〉
(1) ジンメルの方法
(2) 「ベルリン勧業博覧会」と「モデルネ」の意識
(3) 流行現象と「モデルネ」の意識
4 ジンメルにおける〈印象主義と表現主義〉
第九章 生と形式――経験の貧困化と大都市の精神状況
1 生と形式――日本とドイツ
2 ベンヤミンと経験の貧困化
(1) ワイマール共和国の成立
(2) 「経験の貧困化」
(3) 経験の解体とワイマール期の精神状況
(4) 状況化的思考の誕生
3 ベルリンにおける「ゼロ状況」――カネッティのベルリン体験
4 ジンメルと大都市の精神
第一〇章 ダダイズムから新即物主義の時代へ
1 諸領域の自律化論
2 「思想」?としてのダダイズム
3 ダダイズムと同時代
4 「新即物主義」の〈新しさ〉
5 精神史における〈一九二四年〉
6 エルンスト・トラー『どっこい、おいらは生きている』
7 芸術史における新しい現実
8 ルポルタージュの方法
第三部 〈崩壊〉の経験――ワイマール時代の「政治思想」
第一一章 〈ポスト・ロマン主義の世界〉と市民層――マン、ウェー
バー、シュミット
1 作家の「思想」
2 作家の「良心」
3 マンと「共感」
4 マンの方法と戦争論
5 ウェーバーの「学問」論――「知的誠実」の道
6 「明晰性」への奉仕と人格的決断
7 シュミットの歴史哲学――「中立化」の追求と技術の時代
8 シュミットのロマン主義批判(1)――「機会=原因論」的精神
構造
9 シュミットのロマン主義批判(2)――「イロニー」と政治
第一二章 ワイマール期の世代対立
1 〈一八九〇年代の世代〉と〈一九二〇年代の世代〉
――「社会的モデルネ」から「美的・文化的モデルネ」への転換
2 媒介者ジンメル
3 ルカーチのジンメル論
4 アドルノのジンメル論
5 〈一九二〇年代の世代〉と〈一九三〇年代の世代〉
(1) クラカウアーと「待っている人びと」
(2) ノートの「戦後世代」(〈一九三〇年代の世代〉)論
6 〈一九三〇年代の世代〉の意識状況(1)
――学生グスタフ・ホッケの「当惑」を中心として
7 〈一九三〇年代の世代〉の意識状況(2)
――ズーアカンプの「戦後世代」論
第一三章 政治思想の諸類型――現実像との関連
1 シュミットの「政治的なもの」の概念――制度的現実と具体的現
実
(1) 政治領域の独自性
(2) 「政治的なもの」の発生
2 現実イメージの社会学――マンハイムの「知識社会学」
(1) 現実的概念の多義性
(2) マンハイムの〈方法〉
3 政治思想の諸類型とその現実像
(1) 市民的自由主義の現実像
(2) 近代保守主義の現実像
(3) 社会主義の現実像
(4) 「ファシズム」の現実像
4 「ファシズム」における歴史意識の崩壊
5 「市民的自由主義」の溶解と「ファシズム」への接近
第一四章 「複製論」とメディアの世界
1 ベンヤミンの方法
2 密室性と室内――民衆性と接する場所
3 複製技術と芸術作品
(1) 活字の世界
(2) ベンヤミンの「複製論」
4 複製芸術と近代人批判
5 複製技術の時代におけるメディアと政治
第一五章 政治イメージの両極化――政治の「点化」と「溶解」
1 シュミットの方法論と点化的思考様式
(1) シュミットの方法論
(2) シュミットのロマン主義論
(3) 法学的思考における「点化」的思考様式
2 シュミットの価値哲学論と攻撃点
(1) シュミットの方法
(2) 価値哲学をめぐって
(3) ウェーバーと「攻撃点」
3 シュミット理論における政治の溶解
4 ツェーラーにおける政治の溶解
5 「表現主義論争」にみられる政治の溶解の問題
(1) 表現主義と政治
(2) ルカーチの表現主義批判とブロッホ
6 ワイマール時代における〈カオスとしての現実像〉
第一六章 ワイマール時代における「保守」と「革命」
1 「保守的革命」の希求――トレルチ、マン、ホフマンスタール
(1) エルンスト・トレルチとトーマス・マン
(2) ホフマンスタールの「保守革命論」
2 マンハイムにおける「保守」と「革命」
3 「原初的保守主義」――ユストゥス・メーザーの思想
4 ロマン主義的保守主義の形成過程
(1) 近代保守主義成立期の社会学的状況
(2) アダム・ミュラーの思想
(3) ロマン主義、ヘーゲル、マルクス主義
第一七章 保守革命論とナチス
1 ナチズムの思想?
2 保守革命派とは?
3 社会的勢力としての保守革命派
4 ナショナルボルシェヴィズム、ナチス、共産主義運動
5 保守革命派の命運(1) ―― エルンスト・ユンガー
6 保守革命派の命運(2) ―― ハンス・ツェーラー
7 保守革命派の命運(3) ―― 「ナチス左派」
第一八章 ティリッヒの政治思想とナチ、保守革命
1 溶解からの離脱と拠点の模索
2 政治思想としての「根源」の概念
3 ティリッヒ理論と保守革命
4 ティリッヒの『社会主義的決断』の思想史的意味
第一九章 「真剣さ」の時代――シュトラウスとシュミットの「ニヒリ
ズム」論
1 ナチズムと「真剣さ」の時代
2 シュトラウスとニヒリズムの革命
3 〈真面目〉路線の分裂と社会
4 ホッブスとシュミット――シュトラウスのシュミット論
5 〈真剣さ〉の思想――シュミットとシュトラウス
6 「真剣さの世界」と「興味深い世界」――シュミット理論の問題
点
第四部 〈崩壊〉のあと――おわりに
第二〇章 教養と経験――レーヴィットとアドルノの「始まりの意識」
1 レーヴィットの生涯
2 ヘーゲル哲学における思考の前提
3 主体的に受動的であること
4 ヘーゲルの「教養」論
5 自己の忘却から超越へ
6 アドルノの方法意識と媒介
(1) 思想内容と経験内容
(2) アドルノの直接性批判の方法
(3) 認識の社会的次元
7 精神的形成物の堕落形態と経験の概念
第二一章 文化産業とテクノロジーの支配――アドルノとアンダース
1 「文化産業」の時代
2 文化産業と技術的合理化
3 アンダースの世代
4 テクノロジーと快適さの追求
5 「液状化」と「点的存在」
6 等価性の世界
後書き
文献目録
人名索引