慶應義塾大学東アジア研究所 現代中国研究シリーズ
戦後日中関係と廖承志 中国の知日派と対日政策
価格:4,620円 (消費税:420円)
ISBN978-4-7664-2087-6 C3331
奥付の初版発行年月:2013年09月 / 発売日:2013年09月下旬
▼日本生まれの中国人で、戦後、周恩来の下で対日業務・情報収集の責任者であった廖承志(りょうしょうし)と、その下の組織横断的なグループの活動についての、日本で初めての本格的な論考集。
▼日中国交正常化以前の中国が、中華人民共和国建設から国交樹立までの期間、経済および外交分野における対日人脈を利用して情報をどのように集め、政策過程に結びつけていったのか。廖承志の下に集められた緻密な人的組織と決定のプロセスが、一次史料をもとに、ここに明らかにされる。さらにはそこには周恩来と廖承志のたぐいまれな連携が存在した。廖承志亡き後、なぜ日中関係が緊密でなくなったのか、その理由も問うものとなっている。
▼付録として、当時、廖承志と仕事を共にした外交部職員、および周恩来の通訳のインタビューを付す。
王 雪萍(オウ セツヘイ)
東京大学教養学部准教授。1976年生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了、博士(政策・メディア)。専門分野:戦後日中関係史。主要業績:『改革開放後中国留学政策研究―1980-1984年赴日本国家公派留学生政策始末』(北京:世界知識出版社、2009年)、『大潮涌動:改革開放与留学日本』(共編、北京:社会科学文献出版社、2010年)、ほか。
上記内容は本書刊行時のものです。(掲載順)
【編著者】
王 雪萍(おう せつへい/Wang Xueping)
東京大学教養学部准教授。
【執筆者】
杉浦 康之(すぎうら やすゆき)
防衛省防衛研究所地域研究部北東アジア研究室防衛教官。1977年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。専門分野:現代中国政治外交史、戦後東アジア国際政治史。主要業績:『日米同盟論―歴史・機能・周辺諸国の視点』(共著、ミネルヴァ書房、2011年)、『日中関係史 1972-2012 Ⅰ 政治』(共著、東京大学出版会、2012年)、ほか。
大澤 武司(おおさわ たけし)
熊本学園大学外国語学部准教授。1973年生まれ。中央大学大学院法学研究科博士後期課程修了、博士(政治学)。専門分野:近現代日中関係、戦後東アジア国際政治。主要業績:『大日本帝国の崩壊と引揚・復員』(共著、慶應義塾大学出版会、2012年)、『日中関係史 1972-2012 Ⅰ 政治』(共著、東京大学出版会、2012年)、ほか。
山影 統(やまかげ すばる)
早稲田大学社会科学部非常勤講師。1978年生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。専門分野:中国外交。主要業績:『現代中国外交の六十年―変化と持続』(共著、慶應義塾大学出版会、2011年)、「冷戦後の中国・EU関係における対立構造―『政策文書』にみる関係発展プロセス認識の相違」『問題と研究』(第40巻4号、2011年)、ほか。
井上 正也(いのうえ まさや)
香川大学法学部准教授。1979年生まれ。神戸大学大学院法学研究科博士後期課程修了、博士(政治学)。専門分野:日本政治外交史。主要業績:『日中国交正常化の政治史』(名古屋大学出版会、2010年)、「吉田茂の中国『逆浸透』構想」『国際政治』(第151号、2008年)、ほか。
戴 振豊(たい しんほう/Tai Chen-Feng)
国立台北教育大学非常勤助理教授。1972年台湾生まれ。国立政治大学歴史学科博士課程修了、文学博士。専門分野:日台関係史。主要業績:『中国知識分子与近代社会変遷』(共著、台北:国立政大歴史学系、香港:珠海書院亜洲研究中心、2005年)、「邁向和談之路:吉田茂在占領改革下的和談戦略(1945-1951)『亜太研究論壇』(第38期、2007年12月)、ほか。
胡 鳴(こ めい/Hu Ming)
浙江旅游職業学院外国語学部副教授。1968年生まれ。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程単位取得退学。博士(学術)。専門分野:日中関係史、中国の対日政策。主要業績:「对中日邦交正常化中竹入义胜的身份与作用的考辦」『中共党史研究』(第5期、2008年10月)、「田中訪中における中国の国民教育キャンペーン」『国際公共政策研究』(第16巻2号、2012年3月)、ほか。
劉 建平(りゅう けんぺい/Liu Jianping)
中国伝媒大学伝播研究院国際伝播研究センター副教授。1964年生まれ。北京大学(早稲田大学共同)国際関係博士課程修了。専門分野:日中関係、中国政治外交。主要業績:『戦後中日関係』(北京:社会科学文献出版社、2010年)、『当代中国史論』(北京:社会科学文献出版社、2011年)、ほか。
杜崎 群傑(もりさき ぐんけつ) 〔第7章翻訳〕
九州大学大学院法学研究院助教。1981年生まれ。中央大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(政治学)。専門分野:近現代中国政治史。主要業績:「中国人民政治協商会議共同綱領の再検討―周恩来起草の草稿との比較を中心に」『現代中国』(第84号、2010年)、『中国への多角的アプローチ』(共著、中央大学出版部、2012年)ほか。
目次
シリーズ刊行の辞 国分良成
序章 対日政策と廖承志―― 分析の視座 王 雪萍・杉浦康之
はじめに
Ⅰ 先行研究について
Ⅱ 本書の構成
第1部 廖承志と廖班―― 人と組織
第1章 廖承志と廖班の対日業務担当者 王 雪萍
はじめに
Ⅰ 廖承志の革命人生
Ⅱ 実務統括者廖承志の見えざる日本観
Ⅲ 戦後中国の対日業務指導体制
Ⅳ 対日業務担当者の育成
おわりに
第2章 日本人引揚と廖承志
―― 廖班の形成・展開とその関与 大澤武司
はじめに
Ⅰ 日本人管理・教育工作と廖班の源流
Ⅱ 後期集団引揚の始動と廖班の形成
Ⅲ 後期集団引揚の展開と廖班
Ⅳ 後期集団引揚の終結と廖班の制度化
おわりに
第3章 中国の対日経済外交と廖承志の役割
―― 実務統括・政治的調整・象徴 山影 統
はじめに
Ⅰ 戦後の新たな対日関係の構築
Ⅱ 日中経済関係の発展
Ⅲ 「以民促官」の限界
Ⅳ 対日関係の再構築
おわりに
第4章 中国の対日政策における留日学生・華僑
――人材確保・対日宣伝・対中支援 王 雪萍
はじめに
Ⅰ 中国政府と留日学生・華僑団体の関係
Ⅱ 中国の対日業務における留日学生・華僑の役割
おわりに
第2部 廖班の対日工作をめぐる中国・日本・国府の攻防
第5章 知日派の対日工作
―― 東京連絡事務処の成立過程とその活動を中心に
杉浦康之
はじめに
Ⅰ 戦後日中関係における通商代表部/貿易事務所問題の歴史的経緯
Ⅱ 東京連絡事務処の対日工作の胎動
Ⅲ 日中国交正常化における東京連絡事務処の役割
おわりに
第6章 日本から見た廖承志の対日工作―― 自民党親中国派を中心に
井上正也
はじめに
Ⅰ 廖承志と自民党親中国派の形成
Ⅱ LT貿易の成立
Ⅲ 拡大する「半官半民」関係
Ⅳ 廖承志なき日中関係
Ⅴ 日中国交正常化
おわりに
第7章 廖承志の対日工作と中華民国
―― LT貿易協定・廖承志訪日を中心に 戴 振豊(翻訳:
杜崎群傑)
はじめに
Ⅰ LT貿易協定に関する日華の外交交渉
Ⅱ 「谷振海」と「山田武雄」の地下情報活動
Ⅲ 廖承志の訪日への中華民国の対策
おわりに
第3部 現代中国から見る廖承志とその時代
第8章 周恩来と廖承志―― 中国革命から中日友好へ 胡 鳴
はじめに
Ⅰ 廖承志と周恩来との信頼関係の礎
Ⅱ 廖承志の保護者・周恩来
Ⅲ 周恩来・廖承志の対日外交活動の特徴―― 中日関係発展への示唆
第9章 「廖承志時代」をどう理解するか
―― 戦後中日関係の情報政治学 劉 建平(翻訳:大澤武
司・山影 統)
はじめに
Ⅰ 戦後中日関係におけるイシューの設定―― 情報の意義と権力メカ
ニズム
Ⅱ 「人民友好」という言説創造・利益実現のメカニズム
Ⅲ 「日本人民」と国家間政治
―― 情報戦による「人民外交」神話の崩壊
おわりに―― 中日関係の「新時代」は始まったのか?
終章 知日派の役割―― 21世紀の日中関係への示唆 編集委員会
Ⅰ 中国の対日政策における知日派の役割
Ⅱ 知日派と自民党親中国派の共演
Ⅲ 中国人研究者における戦後対日政策への評価
―― 正統的解釈と「修正主義的」解釈
補遺 中国の外交官から見た廖承志
補遺1 中国外交部日本処元処長・丁民氏が語る廖承志
整理・解題:王 雪萍・井上正也
Ⅰ 対日業務組織の構築と外交部
Ⅱ 文化大革命前期の対日業務
Ⅲ 日中国交正常化交渉をめぐって
Ⅳ 日中国交正常化後の対日外交業務
Ⅴ 中国政府の日本情報収集と伝達方法
Ⅵ 対日業務担当者の育成
Ⅶ 部下から見る上司としての廖承志
補遺2 周恩来ら中国指導者の通訳・周斌氏が語る廖承志
整理・解題:大澤武司
Ⅰ 対日政策機構と廖承志
―― 国務院外事辦公室日本組を中心として
Ⅱ 人間・廖承志の魅力―― その実像に迫る
主要参考文献
あとがき 王 雪萍
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