日中戦争の国際共同研究5
戦時期中国の経済発展と社会変容
価格:7,040円 (消費税:640円)
ISBN978-4-7664-2148-4 C3031
奥付の初版発行年月:2014年06月 / 発売日:2014年06月下旬
▼中国にとって,日中戦争とは何であったか。8年間にわたり各地で繰り広げられた戦争は,中国の経済と社会にも多大な影響を及ぼすものとなった。本書は,戦時期の中国における経済発展と社会変容の過程を新たな史料と,これまで見過ごされてきた視点によって解明するとともに,それを戦後まで見通した長期的な視野の中で位置づけようとする試みである。
▼日中戦争期には,侵略に対する中国の抵抗の拠点になった四川や雲南のほか,日本の占領下に置かれた満洲(東北),華北,華中地域においても,軍需工業を中心に経済の急速な発展が見られ,それは戦後の中国経済へと継承された。戦時期の経済発展は,四川の製糸業や重慶の市内交通から銀行業・保険業などの金融業に至るまでの多くの分野に及んでいたことを示す。
▼ついで,こうした経済発展と密接に関連しつつ,戦時総動員体制の整備・強化によって社会的な統合が進む一方,新たな政治を求める民主化運動も進展したことを明らかにする。
▼最後に日中戦争研究の新たな動向を示す3つの代表的論文、および特別寄稿として、巻末にエズラ・ヴォーゲル氏による「日中改善のための提案」を付す。
※掲載順
【編者】
久保亨(くぼ・とおる)
信州大学人文学部教授。
専攻は中国近現代経済史。
波多野澄雄(はたの・すみお)
筑波大学名誉教授、アジア歴史資料センター長。
専攻は日本外交史。
西村成雄(にしむら・しげお)
大阪大学名誉教授、放送大学客員教授。
専攻は20世紀中国政治史。
【執筆者】
林孝司(はやし・こうじ)
成城大学経済学部准教授。
1975年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了、博士(社会学)。
専攻は中国銀行史・商業史。
主要著作に、『近代中国と銀行の誕生―金融恐慌、日中戦争、そして社会主義へ』(御茶の水書房、2009年)、「日中戦後の民間銀行―重慶聚興誠銀行:1945~1949」『一橋論叢』134巻2号(2005年8月)、「大戦後台湾における同郷会組織の形成―四川人の移動と人脈経済を事例として」『成城大学経済研究』200号(2013年3月)など。
劉志英(りゅう・しえい)
西南大学歴史文化学院教授。
1964年生まれ。復旦大学博士課程修了、博士(歴史学)。専攻は中国近現代経済史。
主要著作に、『近代上海華商証券市場研究』(学林出版社、2004年)、『抗戦時期的上海経済』(共著、上海人民出版社、2001年)、『近代中国華商証券市場研究』(中国社会科学出版社、2011年)など。
木越義則(きごし・よしのり)
大阪産業大学経済学部准教授。
1974年生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学、博士(経済学)。専攻は近代中国貿易史。
主要著作に、『近代中国と広域市場圏―海関統計によるマクロ的アプローチ』(京都大学学術出版会、2012年)、『中華民国経済と台湾:1945―1949』(共著、東京大学社会科学研究所、2012年)、「満鉄撫順炭鉱の労務管理制度と小把頭―1901~1940年」『日本史研究』560号(2009年)など。
内田知行(うちだ・ともゆき)
大東文化大学国際関係学部教授。
1947年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専攻は中華民国社会史。
主要著作に、『黄土の村の性暴力』、(共編、創土社、2004年)、『日本の蒙疆占領1937―1945』(共編、研文出版、2007年)、「戦時首都重慶市居住者の籍貫構成と職業構成」日本現代中国学会編『現代中国』第84号(2010年)など。
趙国壮(ちょう・こくそう)
西南大学歴史文化学院講師。
1980年生まれ。博士(華中師範大学、歴史学)。専攻は中国近現代経済史。
主要著作に、「日本調査資料中清末民初的中国砂糖業―以『中国省別全志』及『領事報告資料』為中心」『中国経済史研究』2011年第1期、「日本糖業在中国市場上的開拓与競争(1903―1937)」『中国経済史研究』2012年第4期、「糖業融資与近代金融資本市場―以近代四川糖業融資問題為中心」『中国社会経済史研究』2013年第2期など。
耿密(こう・みつ)
西南政法大学管理学院教師。
1980年生まれ。博士(西南大学、歴史文化学)。専攻は中国近現代経済史。
今井就稔(いまい・なるみ)
群馬大学教育学部准教授。
1977年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了、博士(社会学)。専攻は中国近現代史、日中関係史。
主要著作に、『中国経済史入門=An Introduction to China’s Economic History』(共著、東京大学出版会、2012年)、「日中戦争後期の上海における中国資本家の対日「合作」事業―棉花の買付けを事例として」『史学雑誌』第115編第6号(2006年)、「1930年代中国のマッチ製造業と日本―生産・販売カルテルをめぐって」『社会経済史学』第78巻第2号(2012年)など。
吉井文美(よしい・ふみ)
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程。
1984年生まれ。専攻は日本近代外交史、東アジア国際関係史。
主要著作に、「『満州国』創出と門戸開放原則の変容―「条約上の権利」をめぐる攻防」『史学雑誌』第122編第7号(2013年)、「一九三五年の『新生』不敬記事事件」『日本歴史』789号(2014年)、「日中戦争初年の天津海関―マイヤーズ税務司と堀内総領事の交渉とその背景」『東京大学日本史学研究室紀要』第18号(2014年)など。
笹川裕史(ささがわ・ゆうじ)
上智大学文学部教授。
1958年生まれ。広島大学大学院文学研究科博士課程中途退学、博士(文学)。専攻は中国近現代史。
主要著作に、『中華民国期農村土地行政史の研究―国家・農村社会間関係の構造と変容』(汲古書院、2002年)、『中華人民共和国誕生の社会史』)(講談社〈選書メチエ〉、2011年)、『銃後の中国社会―日中戦争下の総動員と農村』(共著、岩波書店、2007年)など。
段瑞聡(だん・ずいそう)
慶應義塾大学商学部教授。
1967年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学、博士(法学)。専攻は中国近現代政治史、日中関係史、現代中国政治。
主要著作に、『蔣介石と新生活運動』(慶應義塾大学出版会、2006年)、『改訂版 岐路に立つ日中関係』(共編著、晃洋書房、2012年)、『蔣介石研究―政治・戦争・日本』(共著・東方書店、2013年)など。
中村元哉(なかむら・もとや)
津田塾大学学芸学部准教授。
1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、博士(学術)。専攻は中国近現代政治史・思想史、東アジア国際関係史。
主要著作に、『憲政と近現代中国―国家、社会、個人』(共編著、現代人文社、2010年)、岩波講座 東アジア近現代通史7―アジア諸戦争の時代:1945―1960年(共著、岩波書店、2011年)、『講座東アジアの知識人5―さまざまな戦後』(共著、有志舎、2014年)など。
水羽信男(みずは・のぶお)
広島大学大学院総合科学研究科教授。
1960年生まれ。広島大学大学院文学研究科博士課程後期単位取得退学、文学修士。専攻は中国近現代史。
主要著作に、『中国近代のリベラリズム』(東方書店、2007年)、『中国の愛国と民主―章乃器とその時代』(汲古書院、2012年)、『講座東アジアの知識人5―さまざまな戦後』(共著、有志舎、2014年)など。
島田美和(しまだ・みわ)
慶應義塾大学総合政策学部専任講師。
1976年生まれ。大阪大学大学院言語文化研究科博士課程単位取得退学、博士(言語文化学)。専攻は中国近現代史。
主要著作に、『中華民国の制度変容と東アジア地域秩序』(共著、汲古書院、2008年)、『中国社会主義文化の研究』(共著、京都大学人文科学研究所附属現代中国研究センター研究報告、2010年)、「日中戦争期楡林における大漢族主義とモンゴル族の自治」『現代中国』第80号(2006年)など。
小林基裕(こばやし・もとひろ)
新潟国際情報大学国際学部教授。
1963年生まれ。立教大学大学院文学研究科博士課程後期課程退学、博士(文学)。専攻は日中近現代史。
主要著作に、『近代中国の日本居留民と阿片』(吉川弘文館、2012年)、『近現代日本の戦争と平和』(共著、現代史料出版、2011年)、『中国・朝鮮族と回族の過去と現代―民族としてのアイデンティティの形成をめぐって』(共著、創土社、2014年)など。
ハンス・ヴァン・デ・ヴェン(Hans van de Ven)
ケンブリッジ大学アジア中東学部教授。
1958年生まれ。博士。専攻は、中国研究。
主要著作に、From Friend to Comrade: The Founding of the Chinese Communist Party, 1920-1927 (University of California Press, 1992), War and Nationalism in China, 1925-1945 (Routledge, 2003), Breaking with the Past: The Maritime Customs Service and the Global Origins of Modernity in China (Columbia University Press, 2014)など。
加藤陽子(かとう・ようこ)
東京大学大学院人文社会系研究科教授。
1960年生まれ。東京大学大学院人文系研究科博士課程単位取得退学、博士(文学)。専攻は日本近代史。
主要著作に、『天皇の歴史8 昭和天皇と戦争の世紀』(講談社、2011年)、『新装版 模索する1930年代―日米関係と陸軍中堅層』(山川出版社、2012年)、『大日本帝国の崩壊と引揚・復員』(共著、慶應義塾大学出版会、2012年)など。
藩洵(はん・じゅん)
西南大学歴史文化学院教授。
1965年生まれ。博士(四川大学、歴史学)。専攻は中国近代史。
主要著作に、『抗戦時期西南後方社会変遷研究』(重慶出版社、2011年)、『抗戦時期重慶大轟炸日誌』(重慶出版社、2011年)、『抗日戦争時期重慶大轟炸研究』(商務印書館、2013年)など。
【訳者】
吉田建一郎(よしだ・たていちろう)
大阪経済大学経済学部准教授。
1976年生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科後期博士課程修了、博士(史学)。専攻は近代中国経済史。
主要著作に、『日本の青島占領と山東の社会経済―1914-22年』(共著、財団法人東洋文庫、2006年)、『近代中国を生きた日系企業』(共著、大阪大学出版会、2011年)、『近代中国の地域像』(共著、山川出版社、2011年)など。
菊地敏夫(きくち・としお)
神奈川大学外国語学部特任教授。
1947年生まれ。日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了、博士(総合社会文化)。専攻は中国近現代史。
主要著作に、『民国期上海の百貨店と都市文化』(研文出版、2012年)、『上海職業さまざま』(共編著、勉誠出版、2002年)、『租界都市・上海における近代的都市空間の形成』『史潮』新71号(2012年)など。
李仁哲(り・じんてつ)
筑波大学大学院人文社会科学研究科非常勤職員。
1982年生まれ。筑波大学大学院人文社会科学研究科博士課程修了、博士(学術)。専門分野は日中関係史。
主要著作に、『汪兆銘南京国民政府参戦問題に関する一考察』『東アジア近代史』第16号(2013年)など。
柳英武(りゅう・えいぶ)
筑波大学人文社会系研究員。
1971年生まれ。筑波大学大学院人文社会学研究科博士課程修了、博士(国際政治学)。専門分野は東アジア国際関係史。
主要著作に、「東アジアにおける近代条約システムの形成―1899年中韓通商条約の締結とその国際的意味」『筑波大学国際公共政策論集』第31号(2013年)など。
目次
『日中戦争の国際共同研究』(第5巻)に寄せて
総論・戦時期中国の経済発展と社会変容 久保亨・波多野澄雄・
西村成雄
第1部 戦時経済の発展と継承
第1章 戦時中国の工業発展 久保亨
はじめに
一 重慶政府による鉱工業統計
二 重慶政府統治地域の鉱工業
三 中国戦時経済の全体像
四 戦時経済から戦後経済への展開
おわりに
第2章 日中戦争と重慶銀行業 林幸司
はじめに
一 近代重慶における経済状況
二 重慶における銀行公会の設立
三 日中戦争と重慶銀行業
おわりに
第3章 抗戦期中国の保険業 劉志英(林幸司訳)
はじめに
一 抗戦期大後方保険業の発展概況
二 抗戦期大後方保険業の主な業務
三 抗戦期大後方保険業の特徴とその役割
第4章 戦時期中国の貿易 木越義則
はじめに
一 戦時期中国の貿易行政
二 戦時期中国の対外貿易の推計
三 戦時期中国の対外貿易の実勢
おわりに
第5章 戦時首都・重慶市の市内交通網 内田知行
はじめに
一 市内交通網の概況
二 市内自動車交通事業
三 市内道路交通(軽車両による交通・運輸事業)
四 市内舟運事業
おわりに
第6章 抗戦期四川の製糸金融と製糸業 趙国壮(吉田建一郎訳)
はじめに
一 後方製糸業の危機と四川糸業股份有限公司の設立
二 四川糸業股份有限公司の資金調達と経営
三 四川糸業股份有限公司の努力と後方蚕糸業の改良
四 戦時金融と後方蚕糸業の発展
おわりに
第7章 抗戦期重慶の工場間労働移動 耿 密(菊池敏夫訳)
はじめに
一 労働者の移動の概況
二 労働移動に関する個別事例の検討
三 国民政府の対応と措置
四 社会各界の認知と対応
おわりに
第8章 戦争初期日中両国と上海租界経済 今井就稔
はじめに
一 日本占領地と上海租界
二 重慶国民政府と上海租界
おわりに
第9章 日本の華北支配と開灤炭鉱 吉井文美
はじめに
一 開灤炭鉱とイギリス人
二 国民政府との離別
三 日本と開灤炭鉱
おわりに
第2部 変容する社会体制
第10章 中国の総力戦と基層社会 笹川裕史
はじめに――日中戦争・国共内戦・朝鮮戦争
一 総力戦による基層社会の混乱と変容
二 出征兵士家族の救済・援護
三 労働力支援の進展とその行方
おわりに
第11章 蔣介石と総動員体制の構築 段瑞聡
はじめに
一 蔣介石の総動員理念の形成と特徴
二 総動員に関わる諸機関の変遷
三 総動員設計委員会の成立、改組と解散
四 不発の「総動員法」と「総動員計画大綱」
五 国家総動員会議の成立と総動員体制の確立
おわりに
第12章 戦時中国の憲法制定史 中村元哉
はじめに
一 近現代中国憲政史の中の“戦時中国の憲法制定史”
二 国民参政会憲政期成会の憲法草案修正意見と自由・権利の保障
三 憲政実施協進会の憲法草案意見書と自由・権利の保障
おわりに
第13章 戦国策派と中国の民主主義 水羽信男
はじめに
一 戦国策派について
二 戦国策派の民主主義論の位相
――林同済・雷海宗の議論を中心として
三 戦国策派の個人主義の位相
――陳銓・沈従文の議論を中心として
おわりに
第14章 戦時国民党政権の辺疆開発政策 島田美和
はじめに
一 戦時辺疆政策の転換
二 戦時における辺疆工作人員
三 辺疆工作人員の応募者
四 辺疆工作人員の合格者
おわりに
第15章 日中戦争と華北の日本居留民 小林元裕
はじめに
一 日中戦争の勃発と北平の日本居留民
二 日中戦争の勃発と天津の日本居留民
三 日中戦争の全面化と天津での戦闘
四 日本居留民の「銃後」
おわりに
第3部 日中戦争史研究の新地平
第16章 抗日戦争の新たな歴史像の模索 ハンス・ヴァン・デ・ヴェン(李仁哲訳)
はじめに――抗日戦争研究の課題
一 戦争勃発と近代戦の破綻
二 新たな戦法の模索
三 共産党の人民戦争論
四 日本軍の「一号作戦」
おわりに
第17章 日中戦争と興亜院の歴史的位置 加藤陽子
はじめに
一 日中戦争の性格
二 興亜院の性格
三 内閣による統制
おわりに
第18章 重慶爆撃死傷者数の調査と統計 潘 洵(柳英武訳)
はじめに
一 戦時と戦後に行われた死傷者数の調査・統計
二 戦時期の文書史料に基づく爆撃死傷者数
三 死傷者数の調査・統計に影響を与える諸要因
あとがき 編者一同
日中関係改善のための提案 エズラ・F・ヴォーゲル
編者・執筆者紹介/訳者紹介
索引