大正期日本法学とスイス法
価格:7,700円 (消費税:700円)
ISBN978-4-7664-2201-6 C3032
奥付の初版発行年月:2015年02月 / 発売日:2015年02月下旬
▼明治期から大正期への日本法学の転換期。
スイス法は我が国にどのような影響をあたえたのか?
従来ほとんど顧みられてこなかった我が国におけるスイス法の影響。法学者たちの相互主体的な人物交流の局面と、制度解釈の学説史的な局面とに分け、詳細かつ総合的な視点から、近代日本におけるスイス法の影響を比較法史的に論じる。
第一編では、人物史的観点から、2人の人物に焦点を当てながら、スイス法が日本へと入ってくる過程を見る。また第二編では、制度解釈の学説史的観点から、今日の日本の法学上の言説の中で、スイス法由来とされるひとつの議論に焦点を当て、それがスイス法のいかなる影響の下にあるかを考察する。
フランス法やドイツ法などの大規模な法典的継受を主軸として扱ってきたこれまでの日本近代法史の研究枠組みとは異なる視点から、細かな史実の実証的発見とその創発的な再構成を通して、従来ほとんど顧みられてこなかった我が国におけるスイス法の影響を、詳細かつ総合的な視点から論じた意欲作。
小沢 奈々(オザワ ナナ)
1977年生まれ。日本学術振興会特別研究員(RPD)、東京電機大学情報環境学部非常勤講師、白百合女子大学文学部非常勤講師、大妻女子大学非常勤講師。専攻は、日本近代法史・比較法史。
慶應義塾大学法学部法律学科卒業、ベルン大学法学部附属高等修士課程修了、慶應義塾大学大学院法学研究科前期博士課程修了、慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学。LL.M(ベルン大学)。博士(法学)(慶應義塾大学)。
著書に、『法の流通』(共著、慈学社、2009)、“Louis Adolphe Bridel –Ein schweizer Professor an der juristischen Fakultät der Tokyo Imperial University-”(Frankfurt am Main, 2010)、『夫婦』(共著、国際書院、2012)。
目次
序 論
一 近代日本におけるスイスについての概観
二 法学領域における動向
三 本書の考察対象とその方法
第一編 近代日本とスイスの法学交流
第一章 ルイ・アドルフ・ブリデル(Louis Adolphe Bridel)
一 はじめに
二 ブリデルの生涯とその業績
1 来日までの経歴
2 ブリデル・東京帝国大学間の雇用契約をめぐる交渉
3 来日の理由
三 ブリデルの日本における活動 ―― ブリデル・フーバー書簡から
の考察
四 スイス民法典の紹介
1 講 義
(一) 東京帝国大学「仏蘭西法」及び「独逸法」講義
(二) 明治法律学校「泰西比較法制論」及び「法理学」講義
(三) ブリデルの講義内容の変化
2 スイス民法典に関する書籍・冊子の配布
五 小 括 ―― ブリデルの活動の限界
第二章 穂積重遠
一 はじめに
二 穂積重遠の生涯と学風の点描
1 略 歴
2 法律を学ぶまでの経緯、家族法を専門領域として選択した理由
3 留学期に確立した学風 ―― 「社会学的研究」と「判例研究」
4 「法律」と「社会」とを歩み寄らせるための活動
三 穂積重遠とスイス
1 穂積重遠とスイス人法学者との出会い
(一) 穂積重遠とブリデル
(二) 穂積重遠とオイゲン・フーバー、そして日本人法学者との
交流
2 穂積重遠のスイス民法への関心
(一) 「婚姻の解消」規定におけるスイス民法の参照
(二) 「親権」規定におけるスイス民法の参照
(三) 「家族制度」規定におけるスイス民法の参照
(四) 家族法以外にみられるスイス民法への関心
四 小 括 ―― 戦後民法改正へのまなざし
第二編 蘇る太政官布告
明治8年太政官第103号布告裁判事務心得第3条とスイス民法典第1条第2項
第三章 日本の条理論とスイス民法
一 現代の条理理解
二 「忘却」「再自覚」を辿った太政官布告とスイス民法
三 第二編の課題と方法
第四章 制定時の太政官布告
一 明治8年太政官第103号布告裁判事務心得第3条
二 裁判事務心得の制定過程
三 裁判事務心得の由来について
四 制定時の裁判事務心得にみられる「条理」の位置づけ
第五章 裁判事務心得第3条の消滅?
一 法令集にみる裁判事務心得の効力の可否
二 裁判事務心得の「消滅」の意義
1 大日本帝国憲法
2 裁判所構成法(明治23年法律第6号)
3 民事訴訟法(明治23年法律第29号)
4 旧民法証拠編第9条
5 法例(明治23年10月6日法律第97号 / 明治31年6月21日法律
第10号)
第六章 消滅後の太政官布告
―― 「忘却」から「再自覚」へ
一 明治23年「旧民法典公布」から明治31年「明治民法典施行」ま
で(前半期)
二 明治31年「明治民法典施行」から明治末年まで(後半期)
第七章 「再自覚」された太政官布告
一 民法学領域における「条理」論
1 松本烝治「民法ノ法源」(明治43年)
2 石坂音四郎「法律ノ解釈及ヒ適用ニ就キテ」(明治45年)
3 富井政章「自由法説ノ價値」(大正4年)
4 杉山直治郎「『デュギュイ』ノ權利否認論ノ批判」(大正5
年)
5 穂積重遠『民法総論』(大正11年)
6 我妻栄『民法總則』(昭和5年)
7 末弘厳太郎「法源としての条理」(昭和24年)
二 比較法学領域における「条理」論
1 穂積陳重『法律進化論 原形論』(大正13年)
2 杉山直治郎「明治八年布告第一〇三號裁判事務心得と私法
法源」(昭和6・7年)
(一) 研究の概要
(二) 裁判事務心得第3条の比較法研究
(三) 杉山の問題点
第八章 穂積重遠の「条理」解釈
―― 大正4年1月26日大審院民事連合部判決「婚姻予約有効判決」から
の一考察
一 法律婚主義対事実婚主義
1 太政官期法令、旧民法及び明治民法典に見られる「婚姻の成
立」規定
2 明治民法典制定後の社会事情
3 婚姻予約有効判決(大正4年1月26日大審院民事連合部判決)
二 婚姻予約有効判決をめぐる穂積重遠の見解と「条理」論
1 穂積重遠における内縁問題の基本認識とその解決の方向性
2 穂積重遠による「婚姻予約有効判決」の評価
3 穂積重遠の「条理」解釈
(一) 条理の根拠条文としての裁判事務心得第3条とスイス民法第
1条第2項
(二) 条理と判例法の関連性
(三) 「条理」規定の機能 ―― 重遠の判例研究からの分析
(四) 条理裁判と民法改正
(五) 条理裁判の立法的承認
三 「条理」を重視する穂積重遠の真の目的
第九章 日本近代法学における「条理」理解の転換
結 論
補 論 穂積重遠の法理論
―― 法律進化論を中心として
一 法律進化論と「共同生活規範としての法律」
二 法律進化論と「法律と道徳」
1 法律進化論からみる重遠の「法律と道徳」
2 具体的な法律問題にみる「法律と道徳」との関係について
(一) 法律と道徳の分界 ―― 「家族法」「家族制度」における
「法律と道徳」との関係
(二) 法律の道徳化 ―― 信義誠実の原則と権利濫用の禁止
(三) 「法律と道徳の交渉」としての調停制度
資料 穂積重遠の判例研究一覧
参考文献
初出一覧
あとがき
事項・人名索引