民事法実務の理論研究Ⅰ
倒産法実務の理論研究
価格:7,040円 (消費税:640円)
ISBN978-4-7664-2218-4 C3032
奥付の初版発行年月:2015年04月 / 発売日:2015年04月下旬
「理論の支えある実務」と「実務に生きる理論」
実務の世界には絶えず新たな法律問題が発生する。そしてこの実務上新たに生じた法律問題について、合理的かつ妥当な対応への指針を与えるのは、理論研究である。
いま、実務と理論を架橋する。「民事法実務の理論研究」第Ⅰ巻。
「理論と実務の架橋」を目指したロースクール制度が発足して10年。今こそ「実務に生きる理論」「理論の支えある実務」を感得できる「民事法実務の理論研究」シリーズ、Ⅰ巻『倒産法実務の理論研究』、Ⅱ巻『会社法実務の理論研究』、Ⅲ巻『民事訴訟法実務の理論研究』の全3巻を刊行。本書はその第Ⅰ巻。
「実務の世界には絶えず新たな法律問題が発生する。そのことの理由を問うとき、1つの解は時代の変化にあるといえよう。法改正を経て新たな制度が世に登場した折に、既存の法律関係では想定していなかった事象が発生することとなるのはその例である。さらに別の解としては、利害関係人の利益追求の態様の変化を挙げることができよう。様々な異なる利益を背景とする利害関係人が、それぞれの立場から各自の利益を実現しようと行動するとき、これらの人間の所為が法の想定を超えた新たな状況を生み出す。そこに既存の議論の枠を超えた新たな法律問題が生じる。こうして実務上新たに生じた法律問題について、合理的かつ妥当な対応への指針を与えるのが、理論研究の役割の1つであることに異論はなかろう。また、先行する理論研究の進化が実務上の諸問題の解決に糸口を与える場面も多く、法律学自体の未来への発展に大きな影響を及ぼす。ここに法律学における実務と理論研究の架橋が重視され、法律学の進歩・発展の在り方として実務と理論研究の融合が求められる。」(本書「はしがき」から)
岡 伸浩(オカ ノブヒロ)
慶應義塾大学大学院法務研究科教授、弁護士(岡綜合法律事務所代表)。
1963年東京都生まれ。慶應義塾高等学校を経て、慶應義塾大学法学部法律学科卒業。1990年司法試験合格。弁護士登録(第一東京弁護士会)、梶谷綜合法律事務所勤務、2000年筑波大学大学院経営・政策科学研究科修士課程修了、2006年同大学院ビジネス科学研究科博士課程単位修得退学。筑波大学大学院ビジネス科学研究科法曹専攻(法科大学院)教授を経て、現職。2010年度第一東京弁護士会監事、2013年・2014年度第一東京弁護士会総合法律研究所倒産法研究部会部会長、2015年度第一東京弁護士会総合法律研究所委員長。
実務では、企業法務(株主総会、コンプライアンス、企業危機管理、調査委員会、契約法その他会社法を中心とする企業関連法)、倒産法務(企業倒産、事業再生)、労働法務(主に使用者側)、民事・商事に関する訴訟(役員責任その他会社関係訴訟・名誉毀損訴訟・製造物責任訴訟等の特殊訴訟を含む訴訟実務)を中心に執務。
著書・論文に、「支払停止概念の再構成と判断構造」伊藤眞先生古稀祝賀論文集『民事手続の現代的使命』(有斐閣・2015年)所収、『民法講義録』(共編著・日本評論社・2015年)、『民事訴訟法判例インデックス』(共編著・商事法務・2015年)、「倒産債権」『実務に効く 事業再生判例精選』(分担執筆・有斐閣・2014年)、『最新 企業活動と倒産法務』(共編著・清文社・2014年)、『平成25年 会社法改正法案の解説』(編著・中央経済社・2014年)、『倒産と訴訟』(共編著・商事法務・2013年)、「再生債務者の法的地位と第三者性―公平誠実義務に基づく財産拘束の視点から―」慶應法学26号(法科大学院開設10周年記念号・2013年)所収、『民事訴訟法の基礎〔第2版〕』(法学書院・2008年)ほか多数。
目次
はしがき
序 論 理論の支えある実務と実務に生きる理論
Ⅰ 理論の支えある実務と実務に生きる理論
Ⅱ 各章の成り立ちと主題
1 各編について
2 各章について
Ⅲ まとめ
第1編 破産法実務の理論的課題
第1章 賃借人破産における原状回復請求権の法的性質
Ⅰ はじめに
Ⅱ 賃借人破産の場合の解除権の行使
1 破産管財人からの解除
2 賃貸人からの解除 ―― 法定解除権・倒産解除特約に基づく約定
解除権
Ⅲ 破産手続開始決定前の解除と原状回復請求権
Ⅳ 破産手続開始決定後の解除と原状回復請求権
1 財団債権説と破産債権説
2 財団債権説とその根拠
3 破産債権説とその根拠 ―― 私見
Ⅴ 東京地判平成20年8月18日
1 事案の要旨
2 判 旨
3 検 討
Ⅵ まとめ
第2章 ファイナンシャルアドバイザリー会社の法的責任に関する考察
―― 否認権行使の対象となった事業譲渡の助言をしたFAに対する破産管
財人からの損害賠償請求の可否
Ⅰ 事案の概要
1 事案の概要
2 争 点
3 第1審判決(東京地判平成25年7月24日)の判断
Ⅱ 控訴審(東京高判平成26年1月23日)におけるXの主張
1 債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求
2 不当利得に基づく報酬の返還請求
Ⅲ 本判決の判旨
1 本件①損害に関する判断
2 本件②損害に関する判断
Ⅳ 考 察
1 助言に際しFAが負担する義務の内実
2 相当因果関係論による画一的処理の不合理
3 FAの責任制限規定の適用の有無
4 否認対象行為該当性の判断
Ⅴ まとめ
第3章 破産管財人の情報提供努力義務
Ⅰ はじめに ―― 本章の目的
Ⅱ 法的性質
Ⅲ 情報提供努力義務違反の効果
Ⅳ 破産手続開始決定前の使用者の情報開示義務との関係
Ⅴ 破産管財人の善管注意義務との関係
Ⅵ 提供すべき情報の内容
Ⅶ 具体的事例の検討
1 年俸制における時間外手当の取扱い
2 インセンティブ報酬の取扱い
Ⅷ おわりに
第4章 役員責任追及訴訟
Ⅰ 役員責任査定の申立て、査定決定に対する異議訴訟、役員責任追及
訴訟の概要
1 はじめに
2 破産手続における役員責任査定制度
3 再生手続における役員責任査定制度
4 更生手続における役員等責任査定制度
Ⅱ 役員責任査定の申立て、査定決定に対する異議訴訟、役員責任追及
の訴えの請求の趣旨の記載方法
1 はじめに
2 役員責任査定の申立ての趣旨
3 査定決定に対する異議訴訟の請求の趣旨
4 役員責任追及の訴えの請求の趣旨
Ⅲ 管財人等からみた主張立証上の留意事項、相手方等からみた主張
立証(反論反証)上の留意事項
1 はじめに
2 役員等の会社に対する任務懈怠責任
3 取締役の行為類型ごとの考察
第5章 預り金の破産財団帰属をめぐる信託的構成に関する考察
Ⅰ はじめに
Ⅱ 問題設定
Ⅲ 預金者の認定をめぐる解釈論
1 学 説
2 定期預金の事案における客観説の採用
3 平成15年の2つの最高裁判例
4 預金口座の名義に関する考察
Ⅳ 救済法理としての信託的構成
1 預金者の認定からの帰結 ―― 信託的構成の必要性
2 信託的構成からの帰結
3 信託の成立要件の検討
Ⅴ 考 察
1 問題の所在
2 信託成立の場合の効果からのアプローチ
3 信託の本質 ―― 信認関係に基づく財産主体と利益享受主体の分
離
Ⅵ 弁護士の預り金との関係
第2編 濫用的会社分割をめぐる理論的課題
第6章 濫用的会社分割と民事再生手続
Ⅰ 問題提起 ―― 濫用的な会社分割
Ⅱ 会社分割手続における債権者保護手続との関係
Ⅲ 民事再生手続上の諸問題
1 会社分割無効の訴えとの関係
2 詐害行為取消権・否認権との関係
3 民事再生法25条4号の「不誠実な申立て」との関係
4 再生債務者の公平誠実義務との関係
5 民事再生手続の廃止事由との関係
6 役員の損害賠償請求権の査定との関係
7 再生計画案の不認可事由との関係
Ⅳ まとめ
第7章 濫用的会社分割と破産法上の否認権
―― 詐害行為取消権との対比からの考察
Ⅰ はじめに
Ⅱ 裁判例の概観
1 主な裁判例
2 動 向
Ⅲ 会社分割の性質
1 包括承継(一般承継)
2 検 討
Ⅳ 濫用的会社分割と詐害行為取消権
1 詐害行為取消訴訟の要件事実
2 濫用的会社分割に対する詐害行為取消権の可否
3 詐害性の有無について
4 受益者の悪意について
5 詐害行為取消権行使の効果について
Ⅴ 濫用的会社分割に対する否認権行使の場面との対比
1 はじめに
2 詐害行為取消権との対比
3 最判平成17年11月8日
4 考 察
Ⅵ おわりに
第8章 濫用的会社分割に関する改正提言
Ⅰ はじめに
Ⅱ 従来の議論
1 濫用的会社分割の概念
2 債権者保護との関係
3 否認権行使に関する裁判例
Ⅲ 濫用的会社分割に対する否認権行使の根拠に関する学説の対立
1 破産法160条説
2 破産法161条説
3 破産法162条説
4 小 括
Ⅳ 会社法(平成17年7月26日法律第86号)改正
1 承継会社等に対する債務の履行請求
2 倒産手続との関係
Ⅴ 考 察 ―― あるべき制度設計について
1 新たな否認類型の創設というアプローチの当否
2 訴訟手続の受継規定の整備というアプローチの当否
3 改正会社法の提起した課題 ―― 破産法上の直接履行請求権の創
設
第3編 民事再生法実務の理論的課題
第9章 再生債務者の法的地位と第三者性
―― 公平誠実義務に基づく財産拘束の視点から
Ⅰ はじめに
Ⅱ 大阪地判平成20年10月31日(判時2039号51頁)
Ⅲ 大阪高判平成21年5月29日(判例集未掲載)
Ⅳ 両判決のアプローチの違い
Ⅴ 再生債務者の法的地位をめぐる議論 ―― 手続機関説
Ⅵ 公平誠実義務の内実 ―― 個別執行禁止と財産拘束
Ⅶ 再生債務者の第三者性
Ⅷ 実体法上の「第三者」該当性
Ⅸ まとめ
第10章 別除権協定の効力をめぐる考察
Ⅰ はじめに
Ⅱ 別除権協定の意義と必要性
Ⅲ 別除権協定の内容
Ⅳ 裁判例の概観と考察
1 事案の概要
2 第1審判決(松山地判平成23年)の判旨
3 第2審判決(高松高判平成24年)の判旨
4 最高裁判決(最判平成26年)の判旨
5 考 察
Ⅴ 受戻合意に基づく請求権の法的性質について
1 問題の所在
2 学説の対立
3 考 察
第11章 小規模個人再生手続における巻戻しと競売費用の法的性質
Ⅰ 事 実
一 事案の概要
二 前提事実
三 争 点
四 当事者の主張
1 争点(1)(共益債権該当性)について
2 争点(2)(再生計画による権利変更の有無)について
Ⅱ 判 旨
Ⅲ 評 釈
一 争点(1)(共益債権該当性)について
1 住宅資金貸付債権
2 巻戻しの意義
3 巻戻しと競売手続
4 本判決の判断
5 住宅資金特別条項中に競売費用の支払について定めることの可否
二 争点(2)(再生計画による権利変更の有無)について
1 問題の所在
2 本判決の判断
3 将来給付の判決
三 控訴審の判断
1 控訴人(第1審原告)の補充主張
2 控訴審の判断
初出一覧
事項索引
判例索引