多文化都市・新宿の創造 ライフサイクルと生の保障
価格:6,050円 (消費税:550円)
ISBN978-4-7664-2266-5 C3036
奥付の初版発行年月:2015年11月 / 発売日:2015年11月下旬
▼グローバル市民はこうして生まれた
多様なルーツをもつ人々が共に暮らすとは、どういうことだろうか?
外国人を単なる「労働力」とみなす発想は、決して豊かさをもたらさない。
共に学び、共に遊び、共に働き、共に祈り、共に弔う。
それは人々の<人生を受け入れる>ことであり、<生を保障する>ことである。
「日本で最も外国人の集まる街」=「新宿」の外国人問題について長年にわたりフィールドワークを続けてきた著者が、都市のグローバル化の実態と経験を「ライフサイクル」の視点で描き出す。
川村 千鶴子(カワムラ チズコ)
大東文化大学環境創造学部教授、博士(学術)Ph.D.(総合研究大学院大学)
慶應義塾大学商学部卒業、多文化教育研究所所長、大東文化大学環境創造学部助教授を経て現職(2013~15年、同学部長)。日本島嶼学会理事、日本オーラル・ヒストリー学会理事、移民政策学会理事などを歴任。
専門は、人の移動の人類学、多文化社会論、移民政策
主な著書に、『多民族共生の街・新宿の底力』(編著、明石書店、1998年)、『創造する対話力 ―― 多文化共生社会の航海術』(税務経理協会、2001年)、『異文化間介護と多文化共生 ―― 誰が介護を担うのか』(編著、明石書店、2007年)、『「移民国家日本」と多文化共生論』(編著、明石書店、2008年)、『移民政策へのアプローチ ―― ライフサイクルと多文化共生』(編著、明石書店、2009年)、『移動する人々と日本社会』(編著、ナカニシヤ出版、2013年)、『多文化社会の教育課題 ―― 学びの多様性と学習権の保障』(編著、明石書店、2014年)ほか多数。
目次
まえがき
序 章
1 本書の目的
2 時代的背景と今日的意義
3 分析視角
(1)ライフサイクルの視座 / (2)オーラル・ヒストリーにおける多
文化意識 / (3)多文化家族の実態とマルチエスニック・コミュニ
ティ
4 先行研究の考察
(1)新宿を舞台としたトランスディシプリナリー・アプローチ /
(2)文化人類学的アプローチ / (3)個人心理学的アプローチ
5 調査の動機と概要
6 本書の構成
第1章 新宿の原風景と人間の誕生 ―― 妊娠と出産のエスノスケープ
問題の所在
1 コンタクト・ゾーン
2 「妊産婦手帳」の誕生
3 在日韓国・朝鮮人の子どもと「母子手帳」
4 親密圏の労働
(1)母子家庭の性労働 / (2)新宿区婦人相談員の人生
5 「お産の博物館」の創設
6 異国で身ごもるとき
(1)在留資格のない女性の妊娠と出産 / (2)無国籍児を守る
7 トランスカルチュラル・ナーシング
(1)新宿区の病院で出産した韓国人女性 / (2)日本語ができないイ
ンド女性の出産 / (3)大久保地区のトンガ女性の事例
8 人の移動と多文化間医療
9 生きる力
第2章 幼児期と学童期のアイデンティティ
問題の所在
1 非正規滞在者の子どもたち
(1)女性のシェルターの誕生 / (2)乳幼児と女性のホームレス
2 文化的多様性に富んだ保育空間
3 多文化保育のメリット
4 異文化間リテラシーの獲得
5 無国籍の子ども
(1)眠らない街の夜間保育園 / (2)無国籍児 ミャンマーのチン族
の出産 / (3)超過滞在中のミャンマーのカチン族の出産
6 外国籍保護者に芽生える多文化意識
7 新宿区の教育への取り組み
8 新宿区教育センターの歴史的経緯
9 新宿区の公立小学校の取り組み
(1)通訳をかって出る外国籍児童 / (2)自ら判断し、生きる力を育
む教育の実施
10 ともに悩む新宿区外国人相談窓口
11 一元化された住民基本台帳制度
第3章 学歴格差と基礎教育の保障 ―― 不登校・不就学の子ども
問題の所在
1 グローバル化する公立小学校
2 いじめに直面する子ども
3 見えない子どもの不就学
4 民間ボランティアの取り組み
(1)安心な居場所の創造 / (2)母親の抱える悩み
5 「コリアNGOセンター」と関係者の取り組み
6 教員の異動による限界
7 受け皿となる夜間中学校
8 マスメディアが公表した不就学の実態
9 グローバル人材を生み出す公立夜間中学
10 広がる学歴格差
11 夜間中学の拡充・増設と学齢超過の子どもたち
第4章 ともに遊び憩う時空の創造
問題の所在
1 外国にルーツをもつ人びととアートで遊ぶ
2 遊びがとりもつ縁
3 庇護申請者のナラティブ
4 収容所の「憩う」時空への渇望
(1)収容所の日々から大学院で学ぶ / (2)アフガニスタンから来た
難民
5 難民受け入れの経緯
(1)インドシナ難民の受け入れ / (2)第三国定住の受入れ
6 東日本入国管理センターでのオーラル・ヒストリー
7 ネパール人の遊びの空間と学校の創造
8 フランス人の集住する箪笥町
9 遊び憩う時空の共有とコミュニティの形成
第5章 キャリア形成と自己実現
問題の所在
1 資格外活動許可の可能性
2 就学と就労を結ぶ日本語学校
(1)留学生のアルバイト先の多国籍な情景 / (2)情報の共有とグ
ローバル化
3 専門学校の情報発信
(1)留学生が集う日本電子専門学校 / (2)手に職をもつ「東京すし
アカデミー」の独創性
4 留学生を支援する世話好きの地域住民
5 留学生の就職支援
6 難民理解への道
7 難民のオーラル・ヒストリー
8 就労と独立の位相、そして「市民権」
第6章 社会参加と多文化型まちづくり
問題の所在
1 出入国管理及び難民認定法の誕生
2 在日コリアン一世の起業と錦衣還郷
3 新宿区役所と指紋押捺拒否
4 家庭内のディアスポラ接触
5 韓国人ニューカマーの動向
6 韓国人留学生の増加
7 90年代の混乱期
8 韓国人ニューカマー経営者と「韓人会」
(1)エスニック・コミュニティの形成 / (2)「韓国広場」という商
標 / (3)多文化共生の駅とプラットホーム
9 多文化都市としての意識改革と成熟期への道程
10 新宿区多文化共生まちづくり会議と区政参加
11 外国人と日本人という二項対立からの脱却
(1)120を超える多様な国籍、約9割がアジアから /
(2)インターカルチュラル・シティ構想 /
(3)多文化型まちづくり
第7章 人生の統合と加齢の価値 ―― ジェロントロジーと幸福な老い
問題の所在
1 外国籍高齢者の増加と異文化間介護
2 無償から有償への介護のパラダイム転換
(1)特定の女性の無償の仕事=介護 / (2)介護保険制度とケア・
ワーカーの出現
3 異文化間介護と加齢の価値
4 在日コリアンの高齢化と在日一世の無年金
5 新宿区の外国籍高齢者のオーラル・ヒストリー
(1)100歳を迎えた外国系高齢者 / (2)在日コリアンの日常生活
6 新宿の外国籍介護ヘルパーの在宅介護
(1)家庭内介護の外国籍介護ヘルパー / (2)独居高齢者を介護する
韓国籍介護士
7 多文化型老人ホーム
8 介護とライフサイクルの視座
9 多文化都市の理念と幸福な老い
第8章 ともに祈り弔う ―― 誰をも見捨てない街
問題の所在
1 信教の自由
2 刑務所の読書の恵みと祈り
3 受刑者の望郷の念と家族との紐帯
4 誰をも見捨てない街
5 ともに祈る街
(1)ビルマ人内部での宗教的多様性 / (2)宗教法人東京恩恵教会
6 ボランティア家族のライフワーク
7 在日ムスリムの埋葬とイスラーム霊園
8 キリスト教会の多様性
(1)韓国系教会 / (2)大久保地区のキリスト教会の歴史 /
(3)ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会の歴史 /
(4)日本福音ルーテル東京教会の歴史
9 多文化都市の多機能性
第9章 多文化都市のルーツと多文化博物館
1 日本の国籍法の誕生とライフヒストリー
(1)国籍法の誕生 / (2)クーデンホーフ・カレルギー光子の半生
2 国際結婚の伝承とファミリーライフサイクル
3 日本文化に寄り添う国際結婚と文化創造
(1)ラフカディオ・ハーンの国際結婚 / (2)入夫と日本人タルノ分
限 / (3)文化創造を語り継ぐ「小泉八雲記念公園」
4 「新宿中村屋」の国際結婚
(1)インド独立運動と近代日本のアジア主義 / (2)日本への脱出と
「中村屋サロン」 /(3)帰化人差別への対抗
5 明治期の留学生の受け入れ
6 梅屋庄吉と孫文
7 移民の世代間サイクル
8 多文化博物館の創造
終 章
1 ライフサイクルの視座
(1)社会の分断を防ぐライフサイクルの視点 / (2)多文化共生能力
と教育実践 / (3)ライフサイクルを主軸におく方法論の有効性
2 多文化都市の定義
(1)多文化都市の条件 / (2)家族・市民団体・地域コミュニティの
歴史
3 多文化都市のライフサイクルとグローバル市民の誕生
(1)実質的市民権と自治体の多文化共生施策 / (2)難民の包摂シ
ティズンシップの新しい視座 / (3)夜間中学の増設と拡充 /
(4)外国系子どもの不就学・不登校の実態 / (5)教育をめぐる差別
の根源
4 提言:親密圏と公共圏をつなぐもの
(1)移民政策の専門機関の創設 / (2)「多文化博物館」の創設 /
(3)多文化共生専門職の養成と資格付与システム /
(4)親密圏と公共圏をつなぐもの
謝辞
参考文献
資料 多文化都市・新宿の歴史年表
索引