人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか
価格:2,200円 (消費税:200円)
ISBN978-4-7664-2407-2 C0033
奥付の初版発行年月:2017年04月 / 発売日:2017年04月中旬
“最大の謎”の解明に挑む!
働き手にとって最重要な関心事である所得アップが実現しないのは、なぜ?
22名の気鋭が、現代日本の労働市場の構造を、驚きと納得の視点から明らかに。
▼企業業績は回復し人手不足の状態なのに賃金が思ったほど上がらないのはなぜか? この問題に対して22名の気鋭の労働経済学者、エコノミストらが一堂に会し、多方面から議論する読み応え十分な経済学アンソロジー。
▼各章は論点を「労働需給」「行動」「制度」「規制」「正規雇用」「能力開発」「年齢」の七つの切り口のどれか(複数もあり)を中心に展開。読者はこの章が何を中心に論議しているのかが一目瞭然に理解できる、わかりやすい構成となっている。
▼編者の玄田教授はまず、本テーマがなぜいまの日本において重要か、という「問いの背景」を説明し、各章へと導く。最後に執筆者一同がどのような議論を展開したかを総括で解題する。
▼労働経済学のほか、経営学、社会学、マクロ経済、国際経済の専門家や、厚生労働省、総務省統計局、日銀のエコノミストなど多彩な顔ぶれによる多面的な解釈は、まさに現代日本の労働市場が置かれているさまを記録としてとどめる役割も果たしている。
玄田 有史(ゲンダ ユウジ)
東京大学社会科学研究所教授
1964年生まれ。88年、東京大学経済学部卒業。ハーバード大、オックスフォード大各客員研究員、学習院大学教授等を経て、現在 東京大学社会科学研究所教授。博士(経済学)。
主著
『仕事のなかの曖昧な不安』(中央公論新社、2001年、日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞)
『ジョブ・クリエイション』(日本経済新聞社、2004年、エコノミスト賞、労働関係図書優秀賞)
『孤立無業』(日本経済新聞出版社、2013年)
『危機と雇用』(岩波書店、2015年、冲永賞) ほか多数。
【執筆者・五十音順】
阿部正浩(あべ・まさひろ)中央大学経済学部教授(第3章)
1966年生まれ。慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。
獨協大学教授等を経て現職。
主著 『日本経済の環境変化と労働市場』東洋経済新報社、2005年。
有田 伸(ありた・しん)東京大学社会科学研究所教授(第15章)
1969年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科単位取得退学。博士(学術)。
東京大学大学院総合文化研究科講師、助教授等を経て現職。
主著 『就業機会と報酬格差の社会学』東京大学出版会、2016年。
上野有子(うえの・ゆうこ)内閣府経済財政分析担当参事官付(第16章)
1972年生まれ。エセックス大学経済学部大学院博士課程修了。一橋大学経済研究所准教授などを経て現職。
主論文 “Declining Long-term Employment in Japan,” Journal of the Japanese and International Economics vol. 28(with Daiji Kawaguchi)2013.
梅崎 修(うめざき・おさむ)法政大学キャリアデザイン学部教授(第6章)
1970年生まれ。大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。経済学博士。
主業績 『人事の統計分析』共編著、ミネルヴァ書房、2013年。
大島敬士(おおしま・けいじ)総務省統計局消費統計課統計専門職(第9章)
1982年生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了。総務省統計局国勢統計課労働力人口統計室、内閣府経済社会総合研究所国民生産課等を経て現職。
太田聰一(おおた・そういち)慶應義塾大学経済学部教授(第11章)
1964年生まれ。京都大学経済学部卒業、ロンドン大学にてPh. D. 取得。名古屋大学大学院経済学研究科教授等を経て現職。
主著 『若年者就業の経済学』日本経済新聞出版社、2010年。
小倉一哉(おぐら・かずや)早稲田大学商学部教授(第2章)
1965年生まれ。早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(商学)。労働政策研究・研修機構研究員を経て現職。
主著 『「正社員」の研究』日本経済新聞出版社、2013年。
加藤 涼(かとう・りょう)日本銀行金融研究所・経済研究グループ長(第14章)
1973年生まれ。東京大学経済学部卒業、日本銀行入行。オハイオ州立大学にてPh. D. 取得。国際通貨基金エコノミスト等を経て現職。
主著 『現代マクロ経済学講義』東洋経済新報社、2006年。
川口大司(かわぐち・だいじ)東京大学大学院経済学研究科教授(第7章)
1971年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、ミシガン州立大学大学院にて経済学Ph. D. 取得。大阪大学、筑波大学、一橋大学を経て現職。
主著 『法と経済で読みとく雇用の世界』共著、有斐閣、2012年。
神林 龍(かんばやし・りょう)一橋大学経済研究所教授(第16章)
1972年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京都立大学助教授等を経て現職。
主業績 “Long-term Employment and Job Security over the Past 25 Years : A Comparative Study of Japan and The United States,” Industrial Labor Relations Review Vol. 70, No.3, pp.359-394, Mar. 2017(with Takao Kato).
黒田啓太(くろだ・けいた)連合総合生活開発研究所主任研究員(第4章)
1977年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、厚生労働省入省。雇用政策課課長補佐等を経て2015年に連合総研に出向、現在に至る。
黒田祥子(くろだ・さちこ)早稲田大学教育・総合科学学術院教授(第5章)
1971年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、日本銀行入行。一橋大学助教授、東京大学准教授を経て現職。博士(慶應義塾大学、商学)。
主著 『労働時間の経済分析』共著、日本経済新聞出版社、2014年。
近藤絢子(こんどう・あやこ)東京大学社会科学研究所准教授(第1章)
1979年生まれ。コロンビア大学大学院博士課程(経済学)修了。大阪大学講師、法政大学准教授、横浜国立大学准教授を経て現職。
主業績 “The Effectiveness of Government Intervention to Promote Elderly Employment : Evidence from Elderly Employment Stabilization Law,”with Hitoshi Shigeoka, Industrial and Labor Relations Review, forthcoming.
佐々木勝(ささき・まさる)大阪大学大学院経済学研究科教授(第8章)
1969年生まれ。ジョージタウン大学大学院博士課程修了。
主著 『サーチ理論:分権的取引の経済学』共著、東京大学出版会、2007年。
佐藤朋彦(さとう・ともひこ)総務省統計局統計調査部消費統計課調査官(第9章)
1959年生まれ。新潟大学理学部卒業、総理府(現・内閣府)任官。経済企画庁、総務庁、福岡県調査統計課、東京大学社会科学研究所助教授等を経て現職。
主著 『数字を追うな 統計を読め』日本経済新聞出版社、2013年。
塩路悦朗(しおじ・えつろう)一橋大学大学院経済学研究科教授(第10章)
1965年生まれ。イェール大学大学院博士課程修了。(Ph. D.)。横浜国立大学経済学部助教授等を経て現職。
主論文 「ゼロ金利下における日本の信用創造」照山博司ほか編『現代経済学の潮流2016』所収、東洋経済新報社、2016年。
中井雅之(なかい・まさゆき)厚生労働省政策統括官(統計・情報政策担当)付参事官(第12章)
1966年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、労働省(現・厚生労働省)入省。職業安定局雇用政策課長、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局参事官(兼務)等を経て現職。
主業績 労働経済白書(2012年)、経済白書の分担執筆(1993~95年)など。
西村 純(にしむら・いたる)労働政策研究・研修機構研究員(第13章)
1982年生まれ。同志社大学大学院社会学研究科産業関係学専攻博士後期課程修了。博士(産業関係学)。
主著 『スウェーデンの賃金決定システム』ミネルヴァ書房、2014年。
原ひろみ(はら・ひろみ)日本女子大学家政学部家政経済学科准教授(第7章)
1970年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。労働政策研究・研修機構研究員等を経て現職。
主著 『職業能力開発の経済分析』勁草書房、2014年。
深井太洋(ふかい・たいよう)東京大学大学院経済学研究科博士課程(巻頭基本データ)
1990年生まれ。横浜国立大学経済学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科修了。
主業績 “Childcare availability and fertility : Evidence from municipalities in Japan,” Journal of the Japanese and International Economics vol. 43, pp. 1-18, 2017.
山本 勲(やまもと・いさむ)慶應義塾大学商学部教授(第5章)
1970年生まれ。ブラウン大学大学院博士課程修了、Ph. D. 取得。日本銀行調査統計局、同金融研究所勤務等を経て現職。
主著 『労働時間の経済分析』共著、日本経済新聞出版社、2014年。
目次
基本データ 人手不足と賃金停滞 玄田有史・深井太洋
序 問いの背景 玄田有史
第1章 人手不足なのに賃金が上がらない三つの理由 近藤絢子
ポイント 【規制】【需給】【行動】
1 求人増加の異なる背景
2 医療・福祉:介護報酬制度による介護職の賃金抑制
3 「人手不足イコール労働力に対する超過需要」ではない可能性
4 名目賃金の下方硬直性の裏返し
5 複合的な要因解明が必要
第2章 賃上げについての経営側の考えとその背景 小倉一哉
ポイント 【制度】
1 賃上げ率と賞与・一時金の動向
2 経団連の主張と主な特徴
3 成果主義の普及
4 経営環境の変化
5 今後も不透明は漂う
第3章 規制を緩和しても賃金は上がらない
――バス運転手の事例から 阿部正浩
ポイント 【規制】【制度】
1 バス需要の増加と深刻な運転手の人手不足問題
2 バス運転手の仕事と労働市場の特徴
3 バス運転手の賃金構造の変化
4 なぜ賃金水準は下がったのか
5 バス運転手の労働市場の問題か
第4章 今も続いている就職氷河期の影響 黒田啓太
ポイント 【年齢】【正規】【能開】
1 「就職氷河期世代」への注目
2 同一年齢で見る世代間賃金格差
(1) 学歴別・性別によるちがい
(2) 雇用形態別の給与額
(3) 給与額増減の要因分解
(4) 「就職氷河期世代」の労働者数に占める割合について
3 「就職氷河期世代」の賃金が低い理由
4 氷河期世代の悲劇
第5章 給与の下方硬直性がもたらす上方硬直性 山本 勲・黒田祥子
ポイント 【行動】
1 下方硬直性によって生じ得る名目賃金の上方硬直性
2 名目賃金の下方硬直性が生じる理由とエビデンス
3 企業のパネルデータを用いた検証
(1) 利用するデータと検証方法
(2) 過去の賃金カットと賃上げの状況
(3) 名目賃金の下方硬直性と上方硬直性の関係
4 日本の賃金変動の特徴と政策的な含意
第6章 人材育成力の低下による「分厚い中間層」の崩壊 梅崎 修
ポイント 【制度】【能開】
1 「欲しい人材」と「働きたい人材」のズレ
2 「分厚い中間層」の崩壊
3 New Deal at Workのジレンマ
4 企業内OJTの衰退
(1) 長期競争よりも短期競争
(2) 経験の場の消失
5 解決策は実現可能な希望なのか
第7章 人手不足と賃金停滞の並存は経済理論で説明できる 川口大司・原ひろみ
ポイント 【正規】【需給】【能開】
1 問題意識――パズルは存在するか
2 企業の賃金改定の状況とその理由
3 労働者の構成変化が平均賃金に与える影響
4 女性・高齢者による弾力的な労働供給
5 労働供給構造の転換点と賃金上昇
6 賃金が上昇する経済環境を整えるために――人的資本投資の強化
第8章 サーチ=マッチング・モデルと行動経済学から考える賃金停滞
佐々木勝
ポイント 【需給】【行動】
1 日本だけの問題なのか
2 標準モデルから予想できること
3 モデルは循環的特性を再現できるか
4 なぜ賃金調整は硬直的なのか
5 賃金硬直性の帰結と背景
第9章 家計調査等から探る賃金低迷の理由――企業負担の増大
大島敬士・佐藤朋彦
ポイント 【年齢】【正規】【制度】
1 世帯の側からの視点
2 世帯主の勤め先収入
3 世帯主の年齢分布
4 高齢化・非正規化の影響
5 増加する賃金以外の雇主負担
(1) 上昇する社会保険料率
(2) 非消費支出比率の上昇
(3) 世帯主の勤め先収入
(4) 1人あたり雇主の社会負担
6 社会保険料率等の引き上げの影響
第10章 国際競争がサービス業の賃金を抑えたのか 塩路悦朗
ポイント 【規制】【需給】
1 高齢化社会と「あり得たはずのもう一つの現実」
2 パズルは本当にパズルなのか――国際競争に注目する理由
3 イベント分析の対象としてのリーマン・ショック
4 検証1:求職者は対人サービス部門に押し寄せたか
5 検証2:求職者の波に対人サービス賃金は反応したか
6 検証結果のまとめ
7 労働市場で何が起きているのか? 図解
8 今後の課題:なぜ対人サービス賃金は硬直的なのか
第11章 賃金が上がらないのは複合的な要因による 太田聰一
ポイント 【正規】【需給】【年齢】
1 原因は一つではない
2 非正規雇用者の増大
3 賃金版フィリップス曲線から
4 誰の賃金が上がっていないのか
5 議論――「世代リスク」にどう対処するか
第12章 マクロ経済からみる労働需給と賃金の関係 中井雅之
ポイント 【需給】【正規】
1 日本的雇用慣行の特徴から労働需給と賃金の関係を考える
2 労働需給と賃金は必ずしも連動しない
3 需給変動と内部・外部労働市場
4 雇用の非正規化と一般の時間あたり賃金の動向
5 労働市場の課題と労働政策
第13章 賃金表の変化から考える賃金が上がりにくい理由
西村 純
ポイント 【制度】
1 賃金の決まり方
(1) 賃金表
(2) 三つの要素
2 昇給の仕組み(三つの方法)
3 昇給額決定の実際
(1) 「積み上げ型」の賃金表
(2) 「ゾーン別昇給表」の登場
(3) ベースアップ
(4)賃金表変化の背景
4 賃金を上げるために
第14章 非正規増加と賃金下方硬直の影響についての理論的考察 加藤 涼
ポイント 【正規】【年齢】【行動】
1 なぜ賃金は上がりにくくなったのか――問題の所在
2 賃金が硬直的な下での正規・非正規の二部門モデル
3 賃金の下方硬直性と上方硬直性
4 人的資本への過少投資と賃金の上方硬直性
第15章 社会学から考える非正規雇用の低賃金とその変容
有田 伸
ポイント 【正規】
1 社会学と国際比較の視点から
2 日本の非正規雇用とは何か
(1) 正規/非正規雇用間の賃金格差
(2) 賃金格差の強い「標準性」
(3) 非正規雇用の補捉方法の特徴
3 なぜ日本の非正規雇用の賃金は低いのか
(1) 格差の正当化ロジックへの着目
(2) 企業による生活保障システムと格差の正当化
(3) もう一つの正当化ロジックと都合のよい使い分け
4 非正規雇用の静かな変容
5 なぜ賃金が上がらないのか――非正規雇用に着目して考える
第16章 賃金は本当に上がっていないのか――疑似パネルによる検証
上野有子・神林龍
ポイント 【需給】【年齢】
1 上がらない賃金?
2 賃金センサス疑似パネルからみた名目賃金変化率
3 賃金総額の変化の分解
4 結論――上がらない賃金と人手不足傾向の解釈
結び 総括――人手不足期に賃金が上がらなかった理由 玄田有史
あとがき
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