戦後法制改革と占領管理体制
価格:7,480円 (消費税:680円)
ISBN978-4-7664-2433-1 C3032
奥付の初版発行年月:2017年05月 / 発売日:2017年05月下旬
戦前と戦後は連続しているのか、それとも断絶しているのか?
戦後日本史の起点ともなる占領期。この極めて混乱した権力・政治状況下における法制改革の実態と占領管理の構造を解明する。
GHQ側・日本側双方の史料の掘り起こし、在アメリカの貴重史料に基づいた歴史的実証、また理論的論証において他の追随を許さない精緻な議論を展開し、日本近現代法史の新しい局面を開く。
占領期前後の日本の法制度・法文化の跛行した歩みをまさに連続性をもって描く、学界未到の領域への挑戦的著作。
▼戦前と戦後は連続しているのか、それとも断絶しているのか?
本書においては、第二次世界大戦後の占領期(1945~52年)の日本で行われた法制改革と当該時期の法的構造について、刑事司法をめぐる動向を主な素材として検討が行われる。第一部では「戦後法制改革」が、第二部では「占領管理体制」が取り扱われる。
第一部においては、日本国憲法の規定を踏まえて全面改正されることになった刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)の制定過程について、隣接する法領域における改革の過程との関係を踏まえながら分析が行われ、第二部においては、連合国による軍事占領を法的に担保した、「「ポツダム」宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件」(昭和20年勅令第542号)に基づく委任法令群である所謂「ポツダム命令」、及び、その一つとして発出された「連合国占領軍の占領目的に有害な行為に対する処罰等に関する勅令」(昭和21年勅令第311号)について、新旧の憲法秩序との衝突という観点から分析が行われる。
本書の試みは、戦後法制改革を法の継受の観点から分析することにより、戦前との「断絶」のみならず「連続」の側面についても視野に入れた歴史像を提示しながら、これまであまり分析の俎上に載せられて来なかった占領管理体制の複雑な法的構造についても、重層化された委任法令のあり方を中心として描き出すものである。
出口 雄一(デグチ ユウイチ)
桐蔭横浜大学法学部教授。1972年生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学大学院法学研究科公法学専攻後期博士課程単位取得退学。
専攻領域:日本近現代法史、法文化論。
著書に、『戦時体制と法学者 1931~1952』(共編著、国際書院、2016年)、『憲法判例からみる日本――法×政治×歴史×文化』(共編著、日本評論社、2016年)、『戦後システムの転形(年報日本現代史20号)』(共著、現代史料出版、2015年)ほか。
目次
序 論――本書の分析視角
一 本書の概要
二 戦後法制改革――戦前・戦後の「断絶」と比較法的自覚
三 占領管理体制――日本占領の軍事的側面と憲法秩序
四 本書の構成
第一部 戦後法制改革の過程――刑事司法を中心に
第一章 戦後法制改革研究の現況
一 序
二 日本占領の法的構造
(一) 「占領管理」の実際
(二) 「管理法令」の性質
三 戦後法制改革研究の現況
(一) 日本国憲法の制定過程――史料状況の紹介を兼ねて
(二) 臨時法制調査会と民政局――主要法令の改正
(三) 「戦後改革」と法制改革
四 結びに代えて
第二章 GHQの司法制度改革構想
第一節 GHQの司法制度改革構想から見た占領期法継受
──戦後日本法史におけるアメリカ法の影響に関連して
一 序
二 占領初期における司法制度改革構想の諸相
(一) 日本側の司法制度改革構想
(二) GHQの司法制度改革構想――民間諜報局と民政局
三 占領期司法制度改革の方向性の確定
(一) GHQの司法制度改革構想の確定経過
(二) マニスカルコ提案排斥の要因
四 結びに代えて
第二節 裁判所法の制定と国民の司法参加
──占領期法継受における陪審制度復活論
一 序
二 占領初期における国民の司法参加構想
(一) 陪審法の運用と占領初期における日本側の議論
(二) 占領初期におけるGHQ側の議論
三 占領期司法制度改革の経過と陪審法の行方
(一) 占領期司法制度改革の方向性の確定と国民の司法参加
(二) 裁判所法の制定と陪審制度
四 結びに代えて
第三章 戦後刑事司法の形成
第一節 検察庁法の制定と検察審査会制度
一 序
二 日本国憲法施行に至るまでの刑事司法制度改革
(一) マッカーサー草案とマニスカルコ提案
(二) 裁判所法及び検察庁法の制定
三 検察審査会法の制定
(一) 司法省の改組と「検察の民主的コントロール」
(二) 検察審査会法の制定
四 結びに代えて
補 論 検察補佐官から検察事務官へ
一 序
二 検事直属の司法警察官設置構想
三 昭和二一年勅令第六〇〇号をめぐって
四 結びに代えて
第二節 刑事訴訟法の制定と運用――検察官・警察官の関係を中心に
一 序
二 警察改革と検察制度
(一) 警察改革と地方分権
(二) 警察法の制定
三 現行刑事訴訟法の成立
(一) 警察法の制定と刑事訴訟法改正作業
(二) 刑事訴訟法最終案の確定
四 結びに代えて
第四章 GHQの法律家たち
第一節 「亡命ドイツ法律家」アルフレッド・C・オプラー
――異文化接触としての戦後法制改革
一 序
二 オプラーの来日に至る経緯
(一) ドイツからアメリカへ
(二) 「亡命ドイツ法律家」として
三 戦後法制改革と比較法
(一) 大陸法と英米法
(二) 西洋法と「極東法」
四 結びに代えて――再びアメリカへ
第二節 トーマス・L・ブレークモアと日本法
――東京帝国大学の学生として、GHQの法律スタッフとして
一 序
二 東京帝国大学の学生として
三 GHQの法律スタッフとして
四 結びに代えて
第二部 占領管理体制と憲法秩序
第五章 占領管理体制の法的特質
一 序
二 ポツダム緊急勅令と戦時緊急措置法
(一) ポツダム命令と憲法秩序
(二) 「憲法的変革」と委任立法の位相
三 軍事占領裁判所の裁判管轄
(一) 司法の「直接管理」
(二) 「連合国人」と「解放国民」
四 結びに代えて
第六章 憲法秩序の変動と占領管理体制
第一節 新憲法下の国会と「政令の濫用」
一 序
二 法律第七二号の制定過程
(一) 旧憲法下の法令の効力をめぐって
(二) 新憲法下の国会とポツダム命令
三 法律第七二号第二条の改正問題
(一) 「政令の濫用」とポツダム命令
(二) 民政局の法律第七二号第二条改正提案
四 結びに代えて
第二節 占領管理体制とポツダム命令
一 序
二 日本国憲法の施行とポツダム命令
(一) 法律第七二号改正をめぐる民政局内の意見の相違
(二) ポツダム命令と「新憲法違反の疑い」
三 法律第七二号第一条の改正問題
(一) 法律第二四四号の制定
(二) 改革の終わりと民政局の縮小
四 結びに代えて
第七章 「占領目的に有害な行為」の創出と運用
第一節 占領下における刑事裁判権の制限
一 序
二 軍政局・民政局における軍事占領裁判所構想
(一) 司法の「直接管理」の準備
(二) 民政局における軍事占領裁判所構想とGHQ/SCAPの管轄問
題
三 法務局における軍事占領裁判所構想
(一) 法務局の軍事占領裁判所設置提案
(二) 占領下の刑事裁判権の制限の実施
四 結びに代えて
第二節 「占領目的に有害な行為」と検察官の起訴猶予裁量権
一 序
二 勅令第三一一号の成立過程
(一) 指令等違反行為の取締りの必要性
(二) 勅令第三一一号の制定
三 「占領目的に有害な行為」と起訴法定主義の「運用」
(一) 勅令第三一一号の運用をめぐる折衝
(二) 検察官の起訴猶予裁量権をめぐる法務局と民政局の対立
四 結びに代えて
第三節 「占領目的に有害な行為」に関する検察官の起訴猶予裁量の運
用
一 序
二 政令第一六五号の制定
(一) 連合国占領軍財産等収受所持行為の管轄をめぐって
(二) 勅令第三一一号の改正をめぐって
三 勅令第三一一号及び政令第一六五号の運用
(一) 新憲法下での連合国占領軍財産等収受所持行為の取締り
(二) 連合国占領軍財産等収受所持行為と検察官の起訴猶予裁量権
四 結びに代えて
結 論――戦後法制改革と占領管理体制の交錯
一 戦後法制改革――アメリカ法継受をめぐる「クロス・ナショナ
ル」
二 占領管理体制――「最高法規」の限界ともう一つの「クロス・ナ
ショナル」
三 交錯の位相――占領下の「法」と権力
四 課題と展望
あとがき
人名索引
事項索引