水俣の記憶を紡ぐ 響き合うモノと語りの歴史人類学
価格:5,500円 (消費税:500円)
ISBN978-4-7664-2483-6 C3021
奥付の初版発行年月:2017年10月 / 発売日:2017年10月中旬
▼「一人の私」に立ち返る――。
本書では、水俣病の経験を、運動・訴訟や社会的状況のみならず、
個々人をとりまく生活世界とも連動しながら、記憶が紡がれてゆくプロセスとして描き出し、
チッソが水俣に工場を設立して以降のおよそ110年という時間軸のなかに位置づけてゆく。
モノや語りに表象される過去の水俣病経験ではなく、モノや語りを媒介としながら、
今なお生きられる水俣病経験のダイナミックなありよう、
被害/加害の対抗図式を超えて、「当事者」の〈顔〉を描き出す、気鋭の力作。
下田 健太郎(シモダ ケンタロウ)
1984年東京生まれ。日本学術振興会特別研究員(PD)。
2015年慶應義塾大学文学研究科博士課程単位取得退学。博士(史学)。主な業績に、「モノによる歴史構築の実践――水俣の景観に立つ52体の石像たち」(『文化人類学研究』12巻、2011年)、「モノが/をかたちづくる水俣の記憶――『本願の会』メンバーによる石像製作と語りの実践を事例に」(『次世代人文社会研究』11号、2015年)、“Possible Articulations Between the Practices of Local Inhabitants and Academic Outcomes of Landscape History: Ecotourism on Ishigaki Island”(H. Kayanne ed. Coral Reef Science: Strategy for Ecosystem Symbiosis and Coexistence with Humans under Multiple Stresses, Springer Japan, 2016年)など。
目次
序 章
第1節 本書の射程――水俣が切りひらく問い
第2節 「現在」を解きほぐす――歴史人類学の視点
1 記憶をいかに捉えるか
2 「民族誌的現在」
3 「文化の構築」論のジレンマ
4 実践される歴史への通時的アプローチ
第3節 モノの力――「物質文化研究」の視点
1 「解釈人類学的なモノ研究」
2 「物質文化研究」の通時的視点――「モノの再文脈化」論
3 エージェンシー論の射程
第4節 「響き合うモノと語りの歴史人類学」へ
第5節 本書の構成とフィールドワークの概要
第1章 水俣の歴史的概要
第1節 水俣市の概要
第2節 水俣の近代化
1 不知火の海
2 チッソ工場設立による工業化の進展(一九〇八~五六年)
3 水俣病の隠蔽と重層的な差別(一九五六~六八年)
4 水俣病第一次訴訟と自主交渉闘争(一九六八~七三年)
5 未認定患者運動の興隆と水俣湾の埋立て(一九七三~九〇年)
6 地域再生事業の展開とその後(一九九〇年~現在)
第3節 「水俣研究」の歩み
1 水俣病が顕在化する以前の水俣研究(一九〇八~五六年)
2 加害と被害の実態解明(一九五六~七三年)
3 近代化論の再検討(一九七三~九〇年)
4 水俣の歴史構築(一九九〇年~現在)
第2章 水俣湾埋立地の景観形成過程
第1節 水俣湾埋立地の現景観
第2節 埋立てをめぐる多様な立場と主張(一九七七~八〇年)
第3節 埋立地活用をめぐる対話と歩み寄り(一九八〇~九〇年)
第4節 新たな対立の顕在化(一九九〇~九九年)
第5節 「本願の会」の活動
1 「本願の会」について
2 「本願の会」による石像製作の概要
3 石彫りの過程にみる「受け手」としての「つくり手」
第3章 水俣の景観に立つ五二体の石像たち
――「本願の会」による石像の形態と空間配置をめぐって
第1節 はじめに
第2節 モノを媒介とした歴史構築の実践
1 石像の建立と「日月丸」の航海
2 「本願の会」による石像の形態的特徴
3 石像の形態と空間配置の経時的変化に関する分析
4 石像建立による歴史構築の実践
第3節 石像の「個性」について
1 多面に配置されるモチーフと記銘
2 モチーフ間の連鎖的関係
第4節 おわりに
第4章 モノを媒介とした水俣病経験の語り直し
――「本願の会」メンバーのライフヒストリーをめぐる一考察
第1節 はじめに
第2節 水俣病顕在化以前の漁村の暮らし
1 沖集落の成り立ちと漁業の変遷
2 幼少期のO氏の暮らし
3 水俣病の発生
第3節 石像建立に至るまでのO氏の語りの変化
1 水俣病をめぐる運動への参加(一九七四~八五年)
2 運動の離脱から石彫りの開始まで(一九八六~九六年)
第4節 石像の建立と水俣病経験の語り直し
第5節 「一人の私」に立ち返る
1 漁師としてのO氏
2 加害と被害の相対化をめぐって
3 モノとコト
第5章 モノが/をかたちづくる水俣の記憶
――「本願の会」メンバーによる石像製作と語りの実践を事例に
第1節 モノと語りの相互作用をめぐる問題
第2節 石像を介した死者をめぐる想起の変容――J氏の事例
1 新たな生き方を求めて
2 水俣での出会いと石像の建立
3 J氏によるY氏についての語り(二〇〇八年の語り)
4 石像を介して死者の声を語り直す(二〇〇九年以降の語り)
第3節 語りえなさに関与する石像――A氏の事例
1 神が寄りつく渚
2 「五、六歳」の時間がもつ意味(二〇〇八年の語り)
3 言語化を促す触媒としての石像(一九九四~二〇〇八年)
4 語りえない心情を想起させる石像(二〇〇九年の語り)
5 周囲の景観と複合的に作用する石像(二〇〇九年以降の語り)
第4節 石像のマテリアリティ
終 章
第1節 「響き合うモノと語り」の分析
第2節 「本願の会」が切りひらくもの
1 「相対」というキーワード
2 水俣湾の埋立てと新たな連帯――「もう一つのこの世」
3 「本願の会」への批判――「闘い」とは何か
4 重層的な〈つながり〉を生きる
第3節 「毒」を引き受ける
1 「のさり」の海
2 「問い」を喚起する石像
第4節 Anthropology of object/ thing/ materialから「もの
(mono)」の歴史人類学へ
註
参考文献
あとがき
初出一覧
索引