慶應義塾大学法学研究会叢書88
国際責任の履行における賠償の研究
価格:6,380円 (消費税:580円)
ISBN978-4-7664-2514-7 C3032
奥付の初版発行年月:2018年03月 / 発売日:2018年03月下旬
国際法における賠償と責任の関係を問う。
国際法においては国際責任論が横断的な分野として成立しているとの見解がある。例えば、海洋法、航空法、宇宙法、戦争法といった国際法の各分野において適用可能な法原則として、国際責任に関する規則が理解される。また、国際法の規定について、権利を付与し、義務を課す規定と、そのような義務に違反した場合に責任を課す規定とを区別する必要性が主張された。他方、国際法における責任論の取扱について、これを独自のものとする考え方に批判的な見解がある。
義務違反から賠償の義務が生ずるとする場合と、義務違反から責任が発生し、それを履行するために賠償を行うとすることの差異はどのような点にあるのだろうか。賠償と呼ばれるものが国際法においていかなる内容と種類とを有しており、その位置付けはいかなるものであるのだろうか。
本書は、第一部でこれまでの国際責任法に関する発展を様々な活動や著作、また、責任について特徴を有すると考えられるいくつかの分野での展開を通じて概観し、第二部においては賠償に関してなされた法典化作業の分析と国際判例、国際的事例を取り上げ、第三部では現在の国際法における賠償の機能について考察をしてゆく。
大森 正仁(オオモリ マサヒト)
慶應義塾常任理事、慶應義塾大学法学部教授。博士(法学)。
1955年生まれ。1978年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、1980年大学院法学研究科修士課程修了、1983年同博士課程単位取得退学。1987年慶應義塾大学法学部専任講師、同助教授を経て、1996年同教授。世界法学会理事、国際法学会評議員・理事を歴任。
著書に、国際法事例研究会『日本の国際法事例研究2 国交再開・政府承認』(共著、慶應義塾大学出版会、1988年)、同『日本の国際法事例研究3 領土』(共著、慶應義塾大学出版会、1990年)、同『日本の国際法事例研究4 外交・領事関係』(共著、慶應義塾大学出版会、1996年)、同『日本の国際法事例研究5条約法』(共著、慶應義塾大学出版会、2001年)、中村洸編『前原光雄 国際法論集(慶應義塾大学法学研究会叢書82)』(補訂、慶應義塾大学法学研究会、2011年)、国際法事例研究会『日本の国際法事例研究6 戦後賠償』(共著、ミネルヴァ書房、2016年)ほか。
目次
はしがき
問題の所在
第一部 国際責任法の発展
第一章 国際責任法の法典化作業
第一節 責任法に関する法典化作業の種類
1 国際機構による法典化作業
2 国際責任規則をめぐる学会活動
3 個人の責任規則についての私案
第二節 国際連盟における法典編纂
1 一九二九年の法典化会議
(1) 国際連盟における準備作業
(2) 経済委員会の法典草案
a 条約の目的/b 外国国民と国際貿易/c 外国国民の定
住/d 外国国民の財政上の取扱/e 外国会社の取扱
(3) パリ会議における審議
a 国際貿易の保護、居住の自由、貿易等の実施、司法上の保
証/b 財政上の取扱/c 外国会社の取扱
(4) 一九二九年法典編纂会議の意味
2 一九三〇年の法典化会議
(1) 国際連盟における法典化の動き
(2) 学界の対応
a 万国国際法学会(Institut)の対応/b 日本国際法学会及
国際法協会日本支部議定国際法典案/c 一九二九年ハーヴァー
ド草案/d 一九六一年ハーヴァード草案
(3) 理論的側面における一般性
(4) 一九三〇年法典編纂会議の対象の限定性の要因とその意味
第三節 国連国際法委員会の法典化作業
1 特別報告者ガルシア・アマドールによる作業
2 特別報告者アゴー、リップハーゲン、アランジオ・ルイズ、クロ
フォードの作業
3 特別報告者クェンチン・バクスター、バルボザ、ラオによる作業
第二章 国際法学説における責任法の位置
第一節 一八世紀までの国際責任論
第二節 ヘフター、トリーペル以後の国際責任論
第三節 アンツィロッティの国際責任理論
1 客観責任主義
2 賠償(reparation)
3 責任に関する一般理論の構築
第四節 第一次大戦後の国際責任論
第三章 第一次規範と国際責任法
第一節 宇宙法
1 宇宙活動をめぐる国の責任に関する国際法の展開
(1) 宇宙条約以前
(2) 宇宙条約
(3) 宇宙損害責任条約
2 これまでの責任法との関係
(1) 保証責任
(2) 損害賠償責任
3 宇宙法における責任理論の問題点
第二節 戦争法・武力紛争法
1 一九〇七年陸戦の法規慣例に関する条約第三条
2 一九七七年第一追加議定書第九一条
3 戦争法・武力紛争法と責任法の関係
第二部 国際責任の履行方式
第一章 履行方式の種類
第一節 違法行為の停止
1 国際法委員会案
2 学説・判例
3 違法行為の停止の意義
第二節 原状回復
1 法典化作業
2 学説
3 国際判例
4 原状回復の意義
第三節 金銭賠償
1 法典化作業
2 金銭賠償をめぐる問題点
(1) 間接損害
(2) 利子・逸失利益
(3) 保険制度
3 国際判例
第二章 懲罰的損害賠償
第一節 国際的事例における取扱
第二節 学説の動向
第三節 法典化作業における取扱
1 一九三〇年ハーグ法典編纂会議
2 国際法委員会における法典化
(1) ガルシア・アマドール報告書
(2) アランジオ・ルイズ報告書
第四節 評価
第三章 サティスファクション
第一節 金銭によらないサティスファクション
1 陳謝
2 責任者の処罰
3 再発の防止
第二節 金銭によるサティスファクション
1 金銭賠償との区別
2 区別の規準
第三節 宣言判決
1 国際判例における取扱
2 学説の立場
3 他の賠償の前提としての宣言判決
第四節 サティスファクションの意義
1 損害による区分
2 解決手続による限定
3 賠償の方法としてのサティスファクション
第三部 国際責任の履行における賠償の意義
第一章 二重の機能からみた賠償の意義
第一節 もとの状態への復帰
第二節 法秩序の維持
第三節 国際法における「国の国際犯罪」概念
1 国の国際犯罪と個人の国際犯罪
2 国の国際犯罪と強行規範
3 国の国際犯罪と国際連合
4 国の国際犯罪と訴訟
第二章 賠償と対抗措置
第一節 対抗措置の意義
第二節 法典化作業における取扱
第三節 賠償と対抗措置の関係
結語
賠償と責任の関係
第一次規範における賠償方式の特定
参考文献
国際責任法資料
人名索引
事項索引