世界を読み解く一冊の本
百科全書 世界を書き換えた百科事典
価格:2,640円 (消費税:240円)
ISBN978-4-7664-2558-1 C0300
奥付の初版発行年月:2019年08月 / 発売日:2019年08月下旬
▼シリーズ「世界を読み解く一冊の本」(全10巻)、第5弾!
▼啓蒙思想の集大成、『百科全書』の世界へ。
革命神話と啓蒙神話に由来する紋切り型のイメージから離れて、ディドロとダランベールが構想した百科事典としての本来の姿に立ち戻ることで見えてくる景色とは? 『百科全書』の書物としての成り立ちをたどり、その知識の森へと案内する。
井田 尚(イダ ヒサシ)
青山学院大学文学部教授。18世紀フランス思想専攻。
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程満期退学。パリ第8大学博士課程修了。博士(DL)。
主な著書に、Genèse d'une morale matérialiste : Les passions et le contrôle de soi chez Diderot (Paris, Honoré Champion, 2001)、『科学思想史』(共著、勁草書房、2010年)、『百科全書の時空 典拠・生成・転位』(共著、法政大学出版局、2018年)、主な編訳書に『ディドロ著作集 第4巻 美学・美術 付・研究論集』(法政大学出版局、2013年)がある。
目次
序 『百科全書』とは何か
Ⅰ 『百科全書』を編む
1 それまでの専門辞典と『百科全書』の決定的な違い
2 『百科全書』の書き手と読み手
いわゆる「百科全書派」の実は多様な実態
執筆者と読者の主力を担った混合エリート層
3 『百科全書』刊行計画の三大功労者 ──ディドロ、ダランベール、
ジョクール
統括プロデューサー、ディドロ
『百科全書』のアカデミックな顔、ダランベール
『百科全書』第三の男、「項目製造機」 ジョクール
4 『百科全書』の執筆陣 ──啓蒙主義のオールスターとあらゆる専門
家が結集
「序論」に記載された執筆協力者のリスト
「緒言」(第二巻─第八巻)で紹介されている主な執筆協力者のリス
ト
5 『百科全書』はどのように編纂・刊行されたのか
チェンバーズ百科事典の仏訳から『百科全書』へ
度重なるスキャンダルと刊行中断を乗り越えて
ついに完了した『百科全書』刊行計画
Ⅱ 『百科全書』はどう読まれたのか
1 宣伝に貢献した反百科全書派の誹謗中傷
2 『百科全書』の普及を後押しした定期刊行物
3 スイス、イタリアを中心にヨーロッパ中に広がる『百科全書』
4 『百科全書』の後世への影響
欧米および日本の場合
『百科全書』と啓蒙主義の功罪
Ⅲ 『百科全書』の新機軸──人間知識のネットワーク化とビジュアル化
1 販売促進パンフレット「趣意書」とディドロの宣伝戦略
チェンバーズ百科事典というモデル
学芸の枝分かれをビジュアル化した「人間知識の体系図解」
編纂者ディドロの役割
学問と自由学芸を再定義する
技芸を再評価する
『百科全書』と小説『ラモーの甥』に通底するもの
記憶、理性、想像力の三大能力
記憶に由来する歴史
理性に由来する哲学
想像力に由来し模倣を原理とする詩
人間中心主義的な学芸分類
2 ダランベールの「序論」を読んでみる
ディドロの「趣意書」との違い
百科全書派の哲学的プロパガンダ
感覚論を原理とする人間中心主義的な学芸観
「有益な知識」と「楽しい知識」の起源
自然学の諸分野の起源
自然学以外の学芸の起源
技芸に対する差別の起源
「世界地図」としての「人間知識の体系図解」
知のナビゲーション・システムの限界
文芸と美術の分野を代表する一七世紀フランスの偉人たち
哲学の進歩を語る──ベーコン、デカルト、ニュートン
一八世紀フランスの天才と学芸の擁護
Ⅳ 『百科全書』を読む、世界を読む
1 項目「百科全書(ENCYCLOPÉDIE)」と世界解釈としての辞書編
纂国益と人類の進歩
『百科全書』と田園風景のメタファー
2 機械技術の図解──項目「靴下編み機(BAS)」(執筆者ディド
ロ)
「物」を名付けることの難しさ
図解による技術の可視化と「物」の見方の変革
3 国民の常識を書き換えるディドロ──文法項目における語彙の再定
義
先行辞典類の再利用
特権階級に対する諷刺──項目「謙虚な(HUMBLE)」
ディドロの唯物論的な自然観──項目「不完全な(IMPARFAIT)」
西欧社会の結婚制度に対する批判──項目「解消不可能な
(INDISSOLUBLE)」
国語の語彙記述がもたらす発想の転換
4 百科全書派の人間観と啓蒙主義的な文明・社会批判
『百科全書』の大見出しの項目の重要性
世界と学芸の中心としての人間──項目「人間(分類項目名なし)」
(執筆者ディドロ)
文明人の歪んだ身体──項目「人間(博物学)」(執筆者ディドロ)
国家の富の源としての人間と土地──項目「人間(政治学)」(執筆
者ディドロ)
5 アンシャン・レジーム批判と人権思想
過重な租税負担と中間搾取に対する批判──項目「租税」(執筆者ジョ
クール)
百科全書派による奴隷制批判──項目「奴隷制度」(執筆者ジョクー
ル)
奴隷制廃止に項目「奴隷制度」は貢献したのか
「プロライター」ジョクール
Ⅴ 『百科全書』の哲学的な歴史批判
1 ディドロによる哲学史項目の迷信・誤謬批判
知識の四カテゴリーと誤謬の歴史
ディドロの哲学項目群「(古今の)哲学の歴史」
古代エジプト人の欺瞞──項目「エジプト人」(執筆者ディドロ)
エジプト人と競い合ったエチオピア人──項目「エチオピア人」(執
筆者ディドロ)
カルデア人の年代学の疑わしさ──項目「カルデア人」(執筆者ディ
ドロ)
2 「歴史」と「作り話」の違い ──項目「歴史(HISTOIRE)」(執
筆者ヴォルテール)
3 占いという迷信 ──項目「占術(DIVINATION)」(執筆者ディ
ドロ)
あらゆる誤謬を論破するコンディヤック
占星術の起源
ディドロによる書き換えの啓蒙的な狙い
キケロに託されたフィロゾフの理想像
Ⅵ 『百科全書』と同時代の科学論争
1 『百科全書』の論争的な性格
2 ニュートン主義を擁護する──項目「引力(ATTRACTION)」
(執筆者ダランベール)
「コピー&ペースト」による編集術
なぜニュートンの引力説はデカルトの渦動説に勝るのか
哲学的仮説の域を越えた万有引力の法則
科学のパラダイム転換に自ら加担するダランベール
おわりに
『百科全書』と世界の解読
『百科全書』は世界を変えたのか?──書物と世論をつなぐ談話の力
『百科全書』とウィキペディア、そして百科事典の未来
『百科全書』研究の今
電子化プロジェクトと研究の未来
日本語で読める『百科全書』入門ブックガイド
注
参考文献
あとがき