世界を読み解く一冊の本
チョーサー『カンタベリー物語』 ジャンルをめぐる冒険
価格:2,640円 (消費税:240円)
ISBN978-4-7664-2560-4 C0300
奥付の初版発行年月:2019年04月 / 発売日:2019年04月中旬
▼シリーズ「世界を読み解く一冊の本」(全10巻)、第4弾。
▼英文学の古典的名著『カンタベリー物語』を、新たな視点から読み直す!
神が細部に宿る、豊饒な世界
「英詩の父」チョーサーの代表作『カンタベリー物語』。
カンタベリー大聖堂への巡礼の途上、職業も身分も異なる巡礼たちが語る
多種多様な物語は、キリスト教を支柱とする一枚岩的な世界とは異なる、
豊饒な世界を描き出し、物語文学のジャンルを拡張した。
神が細部に宿る物語世界のダイナミズムを丁寧に描く。
松田 隆美(マツダ タカミ)
慶應義塾大学文学部教授。イギリス中世文学。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了、ヨーク大学大学院博士課程修了。
著作に、『ヴィジュアル・リーディング』(ありな書房、2010年)、『煉獄と地獄』(ぷねうま舎、2017年)、『世界を読み解く一冊の本』(編著、慶應義塾大学出版会、2014年)などがある。
目次
序 『カンタベリー物語』の中世的な面白さ
Ⅰ 『カンタベリー物語』の誕生
1 チョーサーの生涯と文学観
チョーサーの生涯――公的記録から
チョーサーの創作活動――作品と制作年代
ヨーロッパ文学という文脈
2 『カンタベリー物語』の写本と構造
未完の『カンタベリー物語』
『カンタベリー物語』の写本と出版
配列順序へのこだわりと中世の作品観
3 巡礼という枠組と「総序の詩」
一四世紀のカンタベリー巡礼
語り手の巡礼たち
ジャンルをめぐる冒険
Ⅱ 話の饗宴――『カンタベリー物語』のダイナミズム
1 ヨーロッパ中世と古代
ボッカッチョとの相違点
「騎士の話」におけるジャンルの変容
チョーサーと古代
2 ファブリオ的な笑いの変容
ファブリオというジャンル
「粉屋の話」と笑いの昇華
「荘園領管理人の話」の意趣返し
「料理人の話」の行きつくところ
「貿易商人の話」の暑苦しさ
「船長の話」における打算と慎重
商人たちの行動規範を求めて
3 賢妻と女性の声
バースの女房の類型をめぐって
「バースの女房の話」におけるゆらぎ
忍耐強いグリゼルダと「学僧の話」
ボッカッチョが語る驚異のグリゼルダ
ペトラルカによるキリスト教化
チョーサーのペーソス
グリゼルダの話の変容
「メリベウスの話」の助言と沈黙
思慮を欠いた夫たち
4 うっとうしい教会関係者と誤読
免償と免償説教家
「諸悪の根源は金銭欲にあり」
死に至る誤読
托鉢修道士と召喚吏
「托鉢修道士の話」と誓言のレトリック
「召喚吏の話」と風の贈り物
5 奇蹟、驚異、魔術とオリエント
奇蹟と驚異
奇蹟譚としての「弁護士の話」
その向こうのアジア――「騎士の従者の話」
「騎士の従者の話」における新奇
「騎士の話」と中世的ファンタジー文学
愛の誓いと契約
6 不条理な死と勝利
「女子修道院長の話」と聖母マリア崇敬
ユダヤ人表象のアンビバレンス
女子修道院長の歴史感覚
「第二の修道女の話」と意志の勝利
「医者の話」――主従関係の犠牲としての死
「修道士の話」と運命の不条理
7 ジャンルの解体とメタナラティヴ
「修道女付き司祭の話」の解釈学的パロディ
「賄い方の話」と例話の解体
「サー・トパスの話」における究極のバーレスク
ペルソナにこめられた作者の詩人観
「聖堂参事会員の従者の話」における自己投影
Ⅲ 物語の終焉――『カンタベリー物語』のその後
1 『カンタベリー物語』の終わりの感覚
「教区司祭の話」と実践的読書
チョーサーによる「取り消し文」
コルプス・ミスティクムとしての巡礼
2 『カンタベリー物語』のその後と現代
一五世紀の『カンタベリー物語』
近代における受容
『カンタベリー物語』の視覚化――挿絵と絵画
グローバル・チョーサー
注
参考文献
あとがき
図版出典一覧