南方熊楠のロンドン 国際学術雑誌と近代科学の進歩
価格:4,400円 (消費税:400円)
ISBN978-4-7664-2650-2 C3039
奥付の初版発行年月:2020年02月 / 発売日:2020年02月中旬
雑誌の国のKUMAGUSU
19世紀末、最先端の都市ロンドンに留学し、
国際学術誌『ネイチャー』『ノーツ・アンド・クエリーズ』『フラヘン』に376篇もの
英文論考を寄稿した南方熊楠の営為を捉えなおす、気鋭の力作。
イギリスと東洋が関係を深めつつあった19世紀末、
当時、最先端の都市だったロンドンに留学し、
大英博物館リーディング・ルームを主たる舞台として
世界各国の辞書や事典を渉猟し、学問的研鑽を積んだ熊楠は、
いかにして欧米の学術空間に受け入れられたのか。
国際学術誌『ネイチャー』『ノーツ・アンド・クエリーズ』『フラヘン』に
376篇もの英文論考を寄稿し、東洋からの知見の提供によって、
近代科学の発展を支えた南方熊楠の営為を
歴史的・国際的な視点から捉えなおす、気鋭の力作。
志村 真幸(シムラ マサキ)
南方熊楠顕彰会理事、南方熊楠研究会運営委員、慶應義塾大学非常勤講師。
1977年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。
主な著書に、『日本犬の誕生――純潔と選別の日本近代史』(勉誠出版、2017年)、『熊楠と猫』(共和国、2017年、共著)、『異端者たちのイギリス』(共和国、2016年、編著)、『南方熊楠英文論考[ノーツ アンド クエリーズ]誌篇』(集英社、2014年、共訳)、『南方熊楠大事典』(勉誠出版、2012年、共著)などがある。
2001年より南方熊楠旧邸での資料調査に従事。南方熊楠顕彰館にて特別展「ロンドン時代の南方熊楠」(2016年)、「南方熊楠と神秘主義」(2017年)、「南方熊楠と和歌山の食文化」(2018年)などを担当。
目次
序 章 雑誌の国の熊楠――英文論文三七六篇の意義と価値
1 膨大で手つかずの英文論文
2 英文論文から見えてくるもの
3 これまでの研究
4 研究者なのか、インフォーマントなのか
5 アマチュアとプロの学問空間
6 雑誌という世界
第Ⅰ部 『ネイチャー』――近代科学を支えた雑誌という装置
第1章 ロンドンでの二つの「転換」――なぜ植物学から離れたのか
1 研究のスタート
2 植物学との出会い
3 アメリカ時代の植物学
4 ロンドンでの植物学
5 大英博物館へ
6 書籍の収集
おわりに
第2章 「東洋の星座」に秘められた戦略――古天文学と比較民族学
1 『ネイチャー』における熊楠の位置づけ
2 「東洋の星座」の伝説
3 『ネイチャー』と熊楠
4 『ネイチャー』の誌面構成
5 自由で開放的な議論のネットワーク
6 『ネイチャー』における天文学
おわりに
第3章 一九世紀末の『ネイチャー』を読む――先端科学と科学啓蒙のあいだ
1 『ネイチャー』第四八巻
2 『ネイチャー』第四八巻の投稿欄
3 質疑応答と議論
4 熊楠の論文における応答関係
おわりに
第4章 東洋への関心――日本、中国、インド
1 「動物の保護色に関する中国人の先駆的観察」
2 『ネイチャー』における東洋
3 日本への関心
4 インド、中国への関心
5 初期日本人の投稿
6 インドのカンハイヤラル
おわりに
第5章 東洋の情報提供者から世界の探求者へ――そして熊楠の挫折
1 「東洋の専門家」からの変化
2 「マンドレイク」
3 ロスマ論争とシュレーゲル
4 比較文化の時代
5 熊楠の東西比較
第6章 『ネイチャー』からの撤退――変容する雑誌空間
1 熊楠の帰国と、帰国後の投稿
2 那智隠棲期以降
3 最後の投稿「古代の開頭手術」
4 熊楠にとっての『ネイチャー』
第Ⅱ部 『ノーツ・アンド・クエリーズ』
――ローカルな知とグローバルな知の接合・衝突する場
第7章 熊楠と『ノーツ・アンド・クエリーズ』――三四年間の投稿生活
1 熊楠と『N&Q』
2 『N&Q』への初投稿
3 「神跡考」ほか
第8章 質疑応答するアマチュア知識人たち――『ノーツ・アンド・クエリーズ』という世界
1 『N&Q』の創刊
2 誌面構成と投稿者たち
3 世界各地に広がった『N&Q』
4 熊楠の投稿
5 『N&Q』と日本民俗学の創始
おわりに
第9章 辞書の黄金時代――『オクスフォード英語大辞典』
『エンサイクロペディア・ブリタニカ』を生みだした場所
1 大辞書、大事典の誕生
2 オビチュアリ
3 『オクスフォード英語大辞典』
4 マレーと『N&Q』
5 『N&Q』投稿者と『OED』
6 『イギリス人名事典』と『エンサイクロペディア・ブリタニカ』
7 大辞書、大事典の世界から見えてくるもの
第10章 『ノーツ・アンド・クエリーズ』的空間の世界展開――人文科学者たちの見はてぬ夢
1 『フラヘン・エン・メデデーリンゲン』
2 熊楠への寄稿依頼
3 「妻の腹に羊を描いた男」
4 『フラヘン』と『N&Q』
5 『N&Q』から派生した雑誌群
おわりに
第11章 熊楠は『ノーツ・アンド・クエリーズ』をいかに利用したか――論文執筆の目的
1 『N&Q』におけるクエリー
2 熊楠のクエリー
3 熊楠へのリプライ
4 邦文論文との関係
5 リプライの邦文論文への利用
おわりに
第12章 熊楠の西洋世界への貢献――その英文論文はいかに利用されたか
1 『N&Q』におけるクエリーの位置づけ
2 ダグラス・オーウェンと「丸」
3 ポストゲイト「戦争における野生動物の使用」
4 アッカーマン『ポピュラー・ファラシーズ』
おわりに
終 章 国際的知的空間における熊楠の役割と価値――新しい熊楠像へ
1 熊楠の英文論文
2 アマチュアが支えたイギリスの科学
3 週刊誌と科学の進歩
4 雑誌と科学
5 熊楠が国際学術空間ではたした役割
6 研究者とインフォーマント
7 英文論文から見える熊楠像
8 熊楠の論文の目的
注
あとがき
索引