われわれが災禍を悼むとき 慰霊祭・追悼式の社会学
価格:3,300円 (消費税:300円)
ISBN978-4-7664-2654-0 C3036
奥付の初版発行年月:2020年03月 / 発売日:2020年03月上旬
▼「なぜ私が」という苦しみと対峙する
災禍という不条理に遭い、大切な人々を失い、遺される者たち。被災者や遺族、支援者や宗教者らは繰り返し集い、祈りを捧げる。東日本大震災、スマトラ島沖地震の被災地における儀礼をあとづけ、人々が苦難と向き合う軌跡を辿る。
▼われわれはいかに災後を生きるのか
「たまたま被災してしまった」という、「偶然性」がもたらす苦しみ。
災禍を語り、ともに祈り、後世に託すことには、いかなる社会的意味があるのか。
苦難と向き合い、乗り越え、折り合いをつけながら生きていくための営為を辿った力作。
福田 雄(フクダ ユウ)
東北大学東北アジア研究センター助教。1981年生まれ。関西学院大学大学院社会学研究科博士課程修了、博士(社会学)。主要著作として、「インドネシアと日本の津波記念行事にみられる『救いの約束』(高倉浩樹・山口睦編『震災後の地域文化と被災者の民族誌――フィールド災害人文学の構築』新泉社、2018)、「苦難の神義論と災禍をめぐる記念式典――アチェの津波にかんする集団と個人の宗教的意味づけ」(『宗教と社会』24、2018)、「われわれが災禍を悼むとき――長崎市原爆慰霊行事にみられる儀礼の通時的変遷」(『ソシオロジ』56(2)、2011)などがある。
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
はじめに
序 章 災禍の儀礼の社会学に向けて
1 はじめに
2 ディザスターリチュアル論の可能性と課題
「災禍」と「儀礼」という概念の社会的前提/儀礼の詳細な記述と比
較可能性/諸々の論点とパースペクティブ――苦難へのコーピング
3 ディザスターリチュアル論から災禍の儀礼の社会学へ
4 現代社会の苦難へのコーピングの比較考察に向けて
インドネシア共和国アチェ州(スマトラ島沖地震、二〇〇四年)/宮
城県石巻市および南三陸町(東日本大震災、二〇一一年)/長崎市
(原子爆弾、一九四五年)
第1章 苦難へのコーピングと宗教
1 「なぜ」をめぐる問いと災禍の宗教的意味づけ
2 ディザスターリチュアル論における災禍と宗教
3 世俗化論と苦難の意味論の不可能性
4 津波の叡智――「試練」としてのスマトラ島沖地震
アメリカのムスリム知識人における災害理解/Syaikh Gibrilの場
合/Ustaz Mursalinの場合
5 アチェ固有の文脈と背景
6 苦難へのコーピングの日常的文脈と歴史的経緯の考察に向けて
第2章 苦難の神義論における集団と個人
1 苦難の神義論再考
2 インドネシアの災害観
地震・津波への神の関与/イスラーム神学における神義論
3 分析対象としての記念式典
4 インドネシア・アチェのツナミ記念式典
調査対象地の概要と歴史的背景/「神に近づく」ための式典/死者の
救いと生者の試練
5 ツナミの教説が生きられる日常的文脈
救いを約束するアチェの悲嘆の文脈/救いの教説との対比から明らか
になるリアリティ
6 苦難の神義論とアチェを生きること
第3章 苦難の神義論から「救いの約束」論へ
1 マルティン・リーゼブロートの宗教論
2 実践的応答としての救いの約束論
3 ヴェーバーとリーゼブロートにとっての苦難の問題
4 苦難の神義論から救いの約束論へ
第4章 救いの約束のバリエーション
1 救いの約束論からみるアチェの苦難へのコーピング
2 「救いの約束」の両義性
3 東日本大震災の記念行事における救いの約束
石巻市の慰霊祭・追悼式の「無宗教」性/慰霊・追悼の場における救
いの約束
4 災禍の儀礼の比較社会学の可能性
第5章 「無宗教」式の慰霊・追悼と「儀礼のエキスパート」
1 ディザスターリチュアル論における「儀礼のエキスパート」
2 南三陸町の概要と東日本大震災
3 町主催の慰霊祭と追悼式
4 アートとしての「きりこプロジェクト」
震災以前の「きりこプロジェクト」/震災以降の「きりこプロジェク
ト」
5 「南三陸町の海に思いを届けよう」
6 「記念の作業」と苦難のコレオグラフ
第6章 儀礼のディレクション(演出/方向)と「われわれ」のダイナミズム
1 非常な死への社会的応答
2 儀礼の変容を記述する
通時的観察からみる死者と生者の関係/長崎市原爆慰霊における政治
性
3 長崎市原爆犠牲者慰霊平和祈念式典
現在の式典――生者に向けた平和のメッセージ/GHQ占領期――慰
霊祭と文化祭のジレンマ/市と奉賛会の共催期――儀礼のなかの民
族と政治/式典の拡大と多元化――視点の転換
4 なぜ死者は生者からまなざされなくなったのか
5 「われわれ」という死のあり方
われわれの死の変遷/われわれの過去―現在―未来
6 儀礼によって位置づけられる死と生
終 章 遇うて空しく過ぐること勿れ――災禍の儀礼の社会学的諸特質
註
謝 辞
初出一覧
参考文献
索 引